2-6.墓標に咲く決意
R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。
ワンピースに着替えて出てきた彼女は、もう剣士には見えなかった。彼女の家は、可愛らしい彼女の趣味でまとめられ、居心地の良い空間だった。
「すてき~。やっぱり趣味がいいんですね~」
クリスティーヌが、興奮気味に話す。
マーガレットはお茶を淹れながら微笑む。
「村の人以外のお客様が来るの久しぶりで。お口に合うかしら。村で採れたお茶なの」
「そう、レイあなたがねぇ」
マーガレットは二人を見比べて嬉しそうにほほ笑んだ後、クリスティーヌに向けてひそひそと
「昔の失敗談とか、いろいろ知ってるわよ。何でも教えるわ」と話す。
「あら、ぜひ教えていただきたいです」
「昔ね。レイを狙って着飾ってきている令嬢に『その首飾りは頑丈そうで武器になりそうですね』って言って怒らせちゃったことがあるわ」
「まぁなんて無神経な」
「ほかにも、レイに注目されたくて凝った髪型にしてきたご令嬢に『面白い髪型ですね』って言って泣かせちゃったりとか」
「ぶふっ」
「こら、マーガレット。変なことを吹き込まないでくれ」
「まぁ、照れちゃってるの? 面白いこと」
マーガレットもレイも意識的に本題に入らない。しばらく久しぶりの他愛もないおしゃべりが続いたがとうとう話題も尽き、三人とも黙ってしまった。
レイが大きく息をついた。
「あの、な。マーガレット。最近ちょっと厄介な『黒い根』の話を聞いたことはないか?」
「知ってるわ。この村でもマーガレット畑が犠牲になり始めているわ」
「それなら話が早い。実はそれの対処方法が分かったんだ。わかったんだが......」
「だが?」
「黒い根の成長点を剣で切るというものなんだが......普通の方法ではうまくいかなくて」
「普通の方法?」
やり取りを聞いていたクリスティーヌが、たまらず口をはさむ。
「成長点を切らなきゃいけないのですけど、その際に魔力を剣に乗せて切ってはだめなんです。魔力を遮断して切らないと」
「魔力の遮断......」
マーガレットの視線がレイの剣へと移る。
「それで、その剣。それ隕鉄よね」
「その通り。この剣は魔力を必要としない」
レイは黒い剣をなでる。
「普通の剣士のように魔力を乗せて切ろうとすればすべて刃先から逃げて行ってしまう。だから普通の騎士には扱えなかったんだ」
「魔力を漏らさず成長点を切れば『黒い根』は確実に枯れる」
「だがその技術を持ったものが、いないんだ」
「いまさらなのはわかっている。手伝ってくれないか」
何も言わずに暫く考えていたマーガレットは震える手を握りしめると静かに言う。
「試したいことがあるの。この村にあるマーガレット畑に案内するわ」
「?」
「枯れかけているのよ、その『黒い根』のせいで」
それから一行はあるマーガレット畑に案内された。確かに「黒い根」が蔓延り、枯れかけている。
「うちの精鋭たちを紹介するわ。生き残れるように、自分の頭で考えるように教育したつもりよ」
何人かの利発そうな若い剣士が進み出る。レイから手順を聞くとマーガレット直伝の技であっさりと「黒い根」を断ち切ってしまった。
「え?」
クリスティーヌは驚いた
「あなた以外にもできるの?」
「やっぱりできるみたいね。魔力の制御も完璧に教え込んだわ。だってそうしないと魔力を吸収してしまう敵に太刀打ちできなくて生き残れないじゃない。そんなのいやだもの」
「君が言うと妙に現実味があるな」
「このマーガレット畑はなんだかわかる?」
レイは質問の意味が分からず口ごもる。
「今まで私が犠牲にしてきた人たちの墓標なの。そして彼らを犠牲にしてしまった私への戒めなの」
「『黒い根』を切る技術が私たちにあることはわかったわ。あなたに協力してあげたい気持ちはやまやまなのよ。でも私が国の道具になってしまったら今度はあの子たちも巻き込んでしまう。私はまた、あの子たちの命を弄ぶ「妖精」として祭りあげられるなんて、そんなのいやよ」
クリスティーヌがレイに言った。
「ちょっと席を外してくれる?二人で話したいの」
「わかった」
レイが遠くにいくとクリスティーヌは話し始めた。
「私もあなたほど大勢ではないけど、かつて仲間を見殺しにしてしまったことがあります。どうにも動けなかった。私も自分を責めました。でも、そのままにしてしまったら、彼の命は無駄になってしまうと思い直して、時間はかかったけどレイを探しに行きました」
マーガレットは息をのむ。
「そう、あなたも大変な思いをしているのね」
「だけど普段はただの農婦ですから。新しい命を生み、育てたいんです。今はこの命を守りたいだけなんです」
「......」
「あなたも、あなたの村、マーガレット畑、お弟子さんたちを守りたいのではないですか?」
長い沈黙が流れた。
「表舞台に出る必要はありません。土地を守るだけなのですから。あなたたちを利用しようという動きが少しでもあれば、私たちは全力で阻止します。どうですか?一緒に守ってくれませんか?」
クリスティーヌの説得にマーガレットの心が揺れる。
「あなたたちにしか、守れないのです」
長い沈黙があった。
「国のために戦うのではありません。あなたたちにしか、協力はしません。彼らの卒業試験です」
「マーガレット様」
「とりあえず、今日はこの畑の残りの『黒い根』を片付けてしまいましょう」
クリスティーヌはレイを呼ぶと広範囲の処理のやり方について説明して氷柱を作った。
その時だった。
サイラスからの急使が届いて作業を中断せざるを得なくなった。
レイのデリカシーの無さは昔からだったようです。マーガレットはまだまだいろんなレイのエピソードを持っているようです。




