2-4. 光の華の競演
R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。
翌日。レイとクリスティーヌは今日も魔道植物の「黒い根」と格闘していた。
出掛ける前ウルスラが
「あの剣を選んだそうじゃないか、やっぱりな。店主は豪華な剣を用意していたのにと嘆いてたぞ」
と言ってきた。
(やっぱり自分はウルスラ先生に踊らされてるんじゃないか?)
あの武器屋を紹介したのも、あのじいさんのあの剣があそこにあると知っていたからなのだろうとまで考えて、今はそのことを考えるときではないと思いなおす。
「こいつの弱点は何なんだ。早いとこ攻略方法を見つけないと」
王城の城壁を崩そうとしている「黒い根」の成長点を一生懸命切っているが、数が多すぎて先が見えない。
「成長点を切ればいいのはわかったが、一つ一つ切るのはさすがに追いつかないな」
レイは体を伸ばしながらため息をついた。
「ねえレイ、黒い根にとってより魅力的な魔力で釣るっていう方法はどうかしら?」
「魅力的、魅力的......魅力的?」
「そう、一斉にそっちを向くような」
「クリスティーヌ、あれだ!こないだ作って困っていた氷の柱だ!」
「え?」
「霜対策をしようとして氷柱を作ってしまったことあっただろう」
「ああ。あれ。変なこと思い出すのね。あのときは失敗したのよ?」
クリスティーヌは思い出したように頷く。
「でも、どうやってあれを使うの?」
「『餌』を閉じ込めた氷柱を建てるんだよ。溶けるのに時間がかかって「黒い根」の成長点を光らせるような魔法を仕込んでおこう。勝手に魔力を吸収して光ってくれるんじゃないか?」
「まあ、いい考えね。氷の中なら魔力を安定して保存しておけるわね」
「そのとおり。それに『黒い根』は熱を出すし、氷ならほっとけば溶けるだろう。片付ける手間も省けていいことづくしだ。」
「言われてみればそうね」
それから二人は暗くなるまで成長点を光らせる魔力《肥料》の開発をした。
そしてその魔力を閉じ込めた氷柱を立て、一度夕食を食べに行った。
夕食を済ませて戻ってきた二人は目を疑う。そこには無数の光が広がり、幻想的な光景が広がっていたからだ。
「......」
「みんなに見せたいわ。この光景。何を呑気なこと言ってるんだって言われそうだけど」
「失敗は、してみるもんだ」
「失敗失敗って言わないでよ」
「褒めてるんだ」
レイは溶けかかった氷柱に近づいて、言った。
「切ってみる」
レイはその光の粒を黙って切り落としていく。
「きれい........」
「切った『黒い根』が枯れるかどうかが問題だな」
「そうね」
暫くして、光っている部分は切り落とされ、辺りには暗闇と静寂が戻った。
暗闇の中で「黒い根」を確認すると枯れている。
「やった、枯れてるぞ」
「まだまだ気が遠くなりそうだけど少しは前進したわね」
「明日、明るいときにもっと広範囲で試してみよう」
「なんだか花火大会みたいね」
「だから、無駄なことなんて何もないのさ」
「まさか、私のあの大失敗が、国を救うなんてね」
「間引き成功だな」
二人はどちらからともなく笑った。
翌日クリスティーヌはもう一度氷柱を立てた。
黒い根は、溶けかかった氷柱に絡みついた。氷柱に含まれた魔力を相当好むらしい。「黒い根」を切りながらレイが叫ぶ。
「うまくいったぞ、クリスティーヌ! これなら広範囲に雑草を伐採できる」
だが、光る成長点の数は夥しい。
「はぁ。狙ったところを素早く切るには手が足りないなあ」
「騎士団の協力をお願いしてみる?」
「そうしたほうがよさそうだな」
*
午後にはサイラスから三名の若い騎士が派遣されてきた。騎士団の中でもかなりの腕らしい。
騎士団としてもあちこちの暴動を収めるために、かなりの規模で派遣されているらしく、たまたま王都にいたらしいが、この魔道植物については頭を悩ませているところだった。
とはいえ、レイのことはよく知らないらしく、所詮引退した剣士でも今は農夫ではないかと思っている様子を隠さなかった。今はこんなところに来ている場合ではないと思っている風だった。
「これの処分の仕方が分かったと聞きました。騎士団のものにも横展開いたしますので、いますぐご教授ください」
早くしろと言わんばかりの態度だったが、レイは動じなかった。
「先に言っておきますが、剣士だけでなく魔導士も必要になります」
「大丈夫です。最近では剣士と魔導士は組んで動くことも珍しくありません。それが今の流行りなんですよ」
騎士はしたり顔でそう言い放つ。
(え? それを広めたのは私達よ? ま、感謝されても困るけど)
クリスティーヌはレイに向かって、騎士たちに気づかれないように肩をすくめた。
それに気づいたレイは苦笑しながら、「黒い根」の処分方法を一通り説明する。
「なんだそんなことか」
騎士たちは拍子抜けしたようだった。
「では実践してみましょう」
若い騎士がやってみた。
「あれ? うまくいかないな? 成長点を切っても枯れません」
「え?」
「むしろ魔力を吸収して大きくなっているようです」
「本当にこのやり方でうまくいったんですか?」
「そんなばかな。うまくいきましたよ」
レイがもう一度やってみる。ちゃんと枯れる。
三人の騎士が代わるがわる何度も試してみる。しかし騎士たちが何度試そうとも結果は同じだった。
「どこが違うんでしょう」
騎士たちは頭をひねる。
一番偉そうに指示していた騎士が言う。
「ひょっとしたら剣の素材が違うのかもしれません。ちょっとだけ剣をお借りしても?」
「もちろんですよ」
レイは騎士と剣を交換してみた。
だがやはりレイにはできるが、騎士はできない。
「むしろ大きくなっているということは」
「はい」
「剣を振るうときに込めた魔力を放出してしまっていませんか」
レイと剣を交換してみた若い騎士は戸惑いながら答える。
「......そうかもしれません。でも剣士はそれが普通ですから。学校でもそのように教わりますし......」
「だとすると、これの伐採には向かないということになるのかもしれませんね......」
かつて、剣に魔力を込めるだけの者ならたくさん見てきた。力任せに魔力を使う者も。
騎士たちは困ってしまった。
「魔力を漏らすことなく切ることはできませんか」
騎士たちはそれからムキになって試していたが、結局できなかった。
「剣を振るうときに、魔力を遮断するだなんて......」
「......先輩、あの人はそれができるっていうんですか?」
「......そういうことだな。見かけ通りではないってことか。侮ったか」
「元剣聖だって聞きました」
「バカ、それを早く言え」
結局できないままに彼らは騎士団に帰っていった。レイに何故か敬礼をして。
後に残ったクリスティーヌは大きなため息をついた。
「誰でもできるわけではないということがわかっちゃったわね」
「そうだなぁ」
レイは心ここにあらずといった様子でじっと考え込んでいた。
長い沈黙の後、決心したように顔を上げレイが告げる。
「一人だけ、心当たりがある。俺とは違うタイプの剣だが軽やかで速くて広範囲を確実に狙い撃つ剣だ。あいつならできる。ただ、あいつをこの場に引っ張り出すのはあんまり気が進まないが」
まさに釈迦に説法です。若い騎士たちは、この大変な時に、なんでこんなことにつきあわなきゃならないんだ、と思っていました。
次回、いよいよ白銀の妖精が登場します




