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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~うっかり国を救います~  作者: 赤木典子


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2-3.鍛冶屋の遺言

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

「レイ様、これなんかいかがでしょう。有名な職人が手掛け、豪華な宝石の装飾もついて、まさに英雄にぴったりのお品かと存じます」



 昨日早速、レイは昔なじみの鍛冶屋を訪ねたが、もう廃業してしまったらしく違う店になっていた。仕方なくその足でウルスラの隠れ家に帰り、翌日、ウルスラに紹介された王都で人気の武器屋に来たのだった。

 店主は彼女から聞いて知っていたらしく、噂の英雄が来たと張り切って舞い上がってしまったようで、店の奥から豪華な剣を出してきた。


「こんな豪華な剣はちょっと......」


 レイは出された剣を見て言った。


「そんなそんな。レイ様は英雄なんですから豪華な剣をお持ちにならないと」

「そんな名前も名誉も興味ないんです。ただの農夫ですから」


 レイはにべもない。店主は残念そうではあったが。


「レイ様のお気に召した剣はありますでしょうか?」


 店主は悪い人ではなさそうだったが、レイとは話は合いそうもなかった。


「この剣は?」


 レイは店の隅に置いてあった埃の被った黒くくすんだ剣を見つけて尋ねる。

 店主は「ああ」と言って説明を始める。


「それは去年亡くなった鍛冶屋のじいさんが廃業するときにただ同然でまとめて引き取ってきたものでして、なんでも古い剣を打ち直したものらしいんですがね。『剣がこうしろというんじゃよ』とかじいさんは訳のわからないことを言っていたんですが、重くて何の飾りもなくて華がないし、色も黒いし、バランスも独特だし、騎士道の剣術には向いてないってことで、売れるわけないんですよ」


「そうですか。そんなにめちゃくちゃ貶さなくても。......私はこの剣がいいな」



「はい、かしこま.......え? えーー?」


 店主は目を真ん丸にして驚いた。


「え? 英雄様がそんな剣を? あ、え、いえ、その剣を?」

 あたふたする店主にレイが笑って言う。


「驚きすぎです。少し落ち着いてください。おいくらでしょう?」


 店主は、ただ同然の値段を言いレイはそれを支払った。

 その間も店主は「重いですよ」とか「美しくないですよ」とか「ちょっと剣にしては変な形ですよ」とかレイが本当にそれでいいのか念を押し続けていた。


「もっと素敵な剣もたくさんありますのに」

 店主はまだ未練があるようだった。





 支払いを済ませ、店を出て歩き始める。暫くたったころ、隣のクリスティーヌが少し声を潜めるように言った。


「ね、レイ。掘り出し物だったわね。わかってて買ったわね」

「なんのことかな」

「とぼけないでよ。それ、隕鉄の剣でしょう。ごまかされないわよ」


「ははは、ご名答」

「やっぱりね」

「しかも、去年亡くなった鍛冶屋のじいさんていうのは、多分俺が昔世話になった人だ。偏屈だが腕だけは一流だった」

 レイは少し遠い目をした。


 レイが口調をまねる。

「『剣がこうしろというんじゃよ』って、あのじいさんの言いそうなことだ。目に浮かぶようだよ」

 少し懐かし気に話す。


「ちょっとその気持ちわかるわ」

「ウルスラ先生だって、きっとわかってて俺をあそこに行かせたんだ。あの人がこの剣と俺を引き合わせた。偶然じゃない。何か意味があるに決まっている」

 レイは不思議な確信を持っているようだった。




 レイは剣を手に入れてその足で王城に行ったが、忙しすぎたサイラスには会えずじまいだったので、そのまま、昨日の場所に来ていた。


 何をどうしたら黒い根を切れるのか()()したかったのだ。


 昨日部分的に枯れた黒い根の横を手に入れたばかりの剣で切ってみる。前回よりは遥かに枯れた部分は多いが、まだ蠢いている部分もある。


 それを見ていたクリスティーヌがあることに気づく。


「ねぇ、レイ。その節みたいなやつ、それ何かしら?そこが切れてると再生しないような気がしない?」


 レイは再び試してみる。

「えい」

 再生しない。


「ここが成長点か」

「そうみたいね」

「でもこの黒い根を掘り返して成長点をいちいちぶった切るのか。大変だぞ」

「確かに。でも今のところその方法しかわからないわ」

「まぁ、ひとつはわかったんだ。もう少し何とかできないか探ってみよう」



 レイとクリスティーヌは考え込んだ。




       *




 深夜の執務室。若き国王のサイラスは各地で起こっている異変の対応に疲れ果てていた。

(今日はレイにも会えなかったな。せっかく王城に来てくれたのに)


 サイラスは、書類の山に埋もれてため息をつく。

「はぁ、これで一段落か」


 執務室の机のカギのかかる引き出しから一冊の古い本を取り出す。

「......ナサニエル兄上、今はどこに?」


 サイラスの頭に浮かぶのは病弱だが優しかった兄の姿。

 今ならわかるが、その当時は母親の身分など子供たちには関係のないことだった。

 サイラスは強く目を瞑って自分を奮い立たせる。


 雑に扱ったら壊れてしまいそうな古い本を開き、ある頁を広げる。


 ー2匹のリスは、手をとりあって力をあわせてがんばりましたー


「よし、私が今頑張らなくてどうする」

 サイラスは自分に言い聞かせるように立ち上がった。




         *




「王子。ナサニエル王子。もうすぐで()()()に帰れますからね。お薬を飲んでいい子に待っていてくださいましね」

 ナサニエルの目には光はなく、どこに焦点が合っているのかわからない状態のまま新しい薬を飲まされる。


「よく効くお薬ですね、セレーネ様」

「私が作ったんですもの」

セレーネは自慢げに言った。


「何もかもセレーネ様の言うとおりに事が運んでいます」

「ええ、王子には()()()()()()()()()()()()()()()()()。丁度よい加減を探すのにかなり()()が要りましたわね」


「それもこれも、我々の野望のためです。彼の国が魔力の開放でこんなに豊かになるとは、想像以上でした。黒い根にとっては、これ以上ない好都合です。ギデオンが失敗しても、別案を用意しておいて正解でしたね」


「ナサニエルという存在があったからこそ、わたくしたちは、付け入る隙があったともいえますわ。まだまだ油断は禁物ですわよ」



 隣国の王妃セレーネは、ある理由からサイラスの国を欲していた。

 あの、()()()()を作ったのも彼女だった。


 舞台はやっと整ったとセレーネは思った。





王国を狙っている人たちがいます。

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