2-2.静かなる禍根
R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。
王都からは遠く離れた、隣国の国境近くの要塞。 窓には厚手のカーテンがかかり、外は見えない。その中で人目を忍ぶように集まった何人かの人影が円卓を囲んでいた。 卓上に置かれたランプの火は暗く、彼らの顔ははっきり見えない。
「――種の普及は、順調ですよ」
低く、辺りをはばかるように発せられた声。この国の民族衣装とは違うが、きっちりとした衣装を着た男はにやにやと笑っている。
「ナギ村は実に簡単にあの種を受け容れましたよ。今まで王都の文化に触れてこなかった村です。華やかな文化をちらつかせてやれば、実に簡単にいろんなことをしゃべってくれたようです」
男は可笑しそうに笑う。
「王国の主要な街道沿いにはあの種はすべて配布済みです。愚かな村人どもは、あれを『一週間で育つ奇跡の作物』だと信じて、後生大事に自分たちの畑へ植え付けていますよ」
「ククク……『奇跡の作物』、か。あながち間違いではない。あの魔道植物は土地の魔力を根こそぎ奪い取り、自らの糧に変える。あの種には魔法攻撃も効かない。吸収するだけだ。力ずくでも引っこ抜けない。引きちぎれても又、その根っこが成長するとなったら、あいつらはどうしようもない」
「あれを倒すには、専用の除草剤を使うか、あの黒い根の成長点を魔力を排除した剣で切るしかない。剣には魔力を込めよと教わっているあいつらがそんなことに気づくわけがない。気づいてもそんなことがすぐにできる剣士は、そうそういない。いたとしてもあの農夫とかつての白銀の妖精くらいなもんだ」
男は笑いながら続ける。
「あの大地を食らう黒い根が地中で繋がった時、もうなすすべはありません。この国は文字通り、一滴の恵みも生み出せない死の国へと変わるのですから」
もう一人の、異国の訛りがある男が応じる。彼の背後には、どこか別の国の紋章が刻まれた豪華な剣が立てかけられていた。
「せっかく手に入れた土地もただ枯れた土地になってしまって平気なのか?」
「心配せずとも大丈夫です。専用の除草剤はたっぷり用意しておりますよ」
「ちゃんと配ってくれるんだろうな?」
「もちろんでございます」
「サイラス王も哀れなものだ。民を救うために魔力を解放した筈が、その魔力が、我々の『黒い根』にとって最高の肥料になるとは思ってもいまい」
「……だが、油断は禁物だ。あの村には、『例の農夫』がいる」
その名が出た瞬間、部屋の空気がわずかに引き締まった。
「ギデオンでも駄目だったとは。もう少し上手く立ち回ってもらいたかったが」
「やはり、私怨のある奴は駄目だな」
失敗したギデオンに対する言葉に容赦はなかった。
「でも、かつての英雄が、今は泥にまみれて野菜を育てていると聞くぞ」
「そのまま農作業をしていてくれてもよいのですが」
その場にいたものは、みな一様に笑った。
「はっはっは。そう願いたいもんだな」
「 国が飢えれば、民は王を恨む。その時こそ、第一王子を奉じた我が軍が『救世主』として王都へ入城する時だ。そして、よく訓練された第一王子を我々の王として飾ろう。ふっふっふ」
影たちは、誰からともなく低く笑い声を上げた。 それは、死神たちの笑いだった。
*
王都から来たという迎えの馬車は間もなく着いたが、少々馬を休ませる必要もありすぐに出発とはいかなかった。
「やっぱり、馬もこのくらい疲れてないとおかしいわよね。いい子ね、少し休みなさい」
馬を撫でながらクリスティーヌが妙に納得している。
「自分の勘は信じたほうがいい」
レイも実戦も豊富なクリスティーヌの勘を全面的に信用していた。
この前とは違って、二人は馬車に揺られていたので、街道の旅は格段に速くなり時間は半分以下で済んだ。
馬車の中では伝令の騎士から大体の事情を聴くこともできた。
国内のあちこちの村で歯が抜け落ちるように畑が枯れ、土地を耕そうにも生命力の強い根っこが蔓延りどうにも抜けないという報告が上がってきているらしい。ところが国の対策が後手後手に回り何の解決にもなっていないとのことで不満が溜まってきているらしい。場所によっては民衆の暴動も起き始めているという。
各地の状況もそんな感じだが、王都では根っこが張りすぎ、城門をも崩し始めているらしい。国王以下、王城全体がその対応に追われているが、まだ解決策も見つかっていないらしい。
「実際のところを見てみないと何とも言えませんね」
レイとクリスティーヌは王都に到着するまで待つしかなかった。
*
「レイさん、クリスティーヌさん! お待ちしていました」
サイラス国王は若く、意欲にあふれた、ちょっと頼りないところもあるが、才気あふれる賢王といった風情だった。ただ、少し疲れているようだったが。
「ご足労頂き有難うございます」
「陛下、そこは呼び捨てでお願いします。心苦しいですから」
「すみません、つい」
挨拶もそこそこに、早速城門が崩れそうな現場に案内される。
「うわ、これは酷いですね」
根っこを引きちぎってみたものの、地中に残った根っこからあっという間に再生してしまいもっとひどい状況になる。しかもその「根っこ」は伸びるときに熱を出すようで、温かかった。
次にクリスティーヌが魔法を放ってその植物を焼いてみようと試みるが、なんとクリスティーヌの放った魔力を吸収して大きくなってしまう。
「なるほど。魔力を吸収しているということは、これは魔道植物?」
クリスティーヌの見立てにレイがうなずく。
「どうやらそうらしい。となると剣で切ってみるという手があるけれど、今は剣を持っていないし......」
腰のあたりを弄ってみる。
「私がやってみましょう」
国王の護衛の近衛騎士が申し出てくれた。
「えいっ!」
魔力を吸収して大きくなった。
「だめか。剣を貸してもらえますか?」
レイが近衛騎士に頼んで剣を貸してもらう。実に5年ぶりの剣だ。
黒い根に向かって振り下ろす。
部分的に、枯れた。全く効かない訳ではなさそうだったが、綺麗に枯れた訳でもない。
「切る場所にコツがいるのか」
「そのようね」
「......自分の剣が欲しいな、いろいろ試してみたい」
「そう言うと思ったわ」
「実験するためにも、武器屋に行ってみる?」
ついにレイが自分の剣を持ちます。




