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剣を奪われた「剣聖」、「農夫魔導士」になる~うっかり国を救います~  作者: 赤木典子


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20/25

2-1.ナギ村の熱狂

R15の残酷描写が含まれる場合がありますのでご注意ください。

 ナギ村は浮かれていた。


「あら、クリスティーヌ様! 今日もお綺麗で!」

「やっぱりど「あら、クリスティーヌ様! 今日もお綺麗で!」

「やっぱりどこか洗練されているというか」

「はなから田舎者の私達とはちょっと違うよねぇ」


 市場の喧騒の合間から掛けられた快活な声に、クリスティーヌは振り向く。声の主は、近所に住む農家のおかみさん方だ。彼女たちは両手に溢れんばかりの野菜を抱えた者もいて、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「見てくださいよ、これ! 一週間ほど前に種を撒いたと思ったら、今朝にはもうこの通り。レイ様が『魔力の解放』をしてくださってから、まだ半年もたってないのにこの辺りの土は神様に愛されちゃったみたいだわ」

「あらやだ、この野菜もそうだよ」

「本当……見事な野菜ね」


「レイ様のおかげだよ、本当に」

「農業そのものが変わっちまった。ありがたい、本当に」


 クリスティーヌは精一杯笑って見せた。おかみさん達の言うことは嘘ではない。ナギ村の収穫量は、以前の数倍に跳ね上がっている。かつては痩せた辺境だったこの地は今、周辺の村どころか王国中から「奇跡の村」と呼ばれ、王国の穀倉地帯となっていた。


「私ねさっきあそこの市で、王都から来た商人に野菜を高く買い取ってもらったんです。今までじゃびっくりするぐらいの値段で買い取ってくれて。町の方では高く売れるんですって。それでね」


 おかみさんの一人が言う。そして自慢げに見せたのは、刺繍入りの高価そうなスカーフだった。辺境のおかみさんといえども、女性はやはりこういう美しいものには目がない。


「綺麗でしょう。クリスティーヌ様の農作業着みたいにこんな田舎の村ではなかなか買えない代物ですよ。こんなもの今まで持ったこともない。レイ様のおかげですよ」

 おかみさんは笑み崩れ、クリスティーヌにお礼を言う。


 クリスティーヌは、「素敵ですねぇ」と返事したものの、なんだか、村人がレイの魔力開放に頼って自分で考えるのをやめてしまったような気がした。そのスカーフは、豪華だがいったいいつ身に着けるものなのか、辺境の農婦が持つには、少しばかり浮いているような気もする。


「私もこれから売りに行こう」

「高く売れたら何を買おうかしら」

 彼女たちは弾むような足取りで野菜を売りに向かう。




「……王都の商人?  また来ているの?」


 一人残った、スカーフを買ったというおかみさんが教えてくれた。


「ええ!  十日市とおかいちを待つのがもどかしいって、最近は毎日誰かしらが広場に店を出してますよ。レイ様のおかげで便利になったもんだ。さすが伝説の英雄だ!」


 「このスカーフ、いつ使おうかしらねぇ」

 と言いながら去っていく彼女の背中を見送って、クリスティーヌはカゴを握る手に力を込めた。 村人たちはみな、この豊かさを手放しで喜んでいる。レイがかつての英雄であったことも、誰がばらしたのか、今やみんな知っている。むしろ今や村の誇らしい「看板」だ。


 けれど。どうしても彼ら商人の行動に納得がいかない。


(……おかしいわ。利益だけを考えるなら、こんな辺境まで毎日通うのは割に合わないはず)

 クリスティーヌの勘が、どこかおかしいと警鐘を鳴らす。


(他に何か目的が?)


 クリスティーヌは視線を、広場の中央に陣取った真新しい馬車へと向けた。 馬たちも元気で王都からの長い旅路を通ってきたようには見えなかった。


(もっと近い所から来ている? ここから王都は遠すぎる。どこ?)




「この野菜は素晴らしいね。隣村に来ている商人に先に買われないように少し高くしておくよ。それからさ、この種オマケでつけとくから撒いてみてよ。新しい野菜だよ。うまくできたら高値で買い取るよ」

「あら、嬉しい」

「ところでこの村の野菜はどうしてこんなに出来がいいんだい?」

「レイ様のおかげよ。レイ様が土に魔力の開放をしてくれたから」

「ふーん。そのレイ様ってのはどんな人なんだい?」


 商人はとても手際が良く、話を理解するのも早かった。


「ちょっと見たところこの辺には川がなさそうだけど、水はどっから引いてるんだい?」

「あっちに貯水池があってね、あとはあんまり天気が続くとクリスティーヌ様が助けてくれるのさ」

「クリスティーヌ様?」

「優秀な元魔導士らしくてね、レイ様の奥方さ。水魔法と火魔法、それに氷魔法も使えるんだよ。まさに農家向きで性格もいいし美人と来ている!」


「ほう、そうですか。是非会ってみたいもんだ」

「私達はレイ様達に足向けて寝られないのさ。あっはっは」

 それを聞いた商人はおかみさんに合わせるように笑ったがその眼は笑っていなかった。




 一方その頃、思うようにいかない開墾作業にイラつくレイがいた。


「なんだこの根っこ。何の植物だ?」


 畑に蔓延っていた黒い根をどけようと思って触ったらドクンと脈動した。 


 最近、土地の力が一時期より減っている気がする。毎日土をいじっているとわかるのだ。それに、時々見慣れない植物が生えている。


 それはどうみても畑のためになっておらず、引き抜こうにも途中で千切れてしまい、千切れた根っこからまた繁殖しているというちょっと厄介な植物だった。


(最近これが増えてきたんだよな)


 レイは取りあえず、農業辞典で調べるために引きちぎった黒い根を持ち帰ることにした。





 夕食の席でクリスティーヌは、レイに話しかけた。


「ねぇ考えすぎかもしれないんだけど、なんでこんな辺境の村に毎日市が立つのか、私にはちょっとわからないんだけど」

「なんでだろうな」

「馬車もね、王都からって言ってるけど、そんな長い道のりを歩いてきた馬には見えないのよ」


 レイはクリスティーヌが用意してくれた夕食をつまみながら話を聞いている。



「何のためだと思うんだい? 君が口に出すからにはある程度の推測はあるんだろう?」


 優秀なクリスティーヌが、何の予測もなしにそんな話をするとはレイには思えなかった。


「この村の情報を集めてるんじゃないかしら?」

「この村の情報?」


「そう、だってあの魔力開放以来、サイラス国王も頑張ってるし、この国はどんどん潤って周辺諸国の羨望を集めてるわ。その中でも、ナギ村は一番の穀倉地帯になっちゃってるし、ここを取りたいって考えても可笑しくないわよ」

「うーーん」

「それに村人は気がいいから騙しやすいし、聞けばぺらぺらと何でも喋ってくれるわ」



「あなたのこともね」

「.......」

「皮肉なことよね。魔力を土に還して土を豊かにしたら周りの国から狙われちゃってるかもしれないなんて」


 レイはこの前来たウルスラの言葉を思い出していた。





 そんな話をしていたら玄関の扉が荒っぽく叩かれた。


「なんだろう、こんな時間なのに」


 レイとクリスティーヌは顔を見合わせると警戒しながら扉を開けた。

 そこには王家の伝令が倒れ込んでいた。


 クリスティーヌは慌てて水を持ってきて飲ませる。

 一気に飲み干した騎士は、ようやく喋れるようになった。


「大丈夫?何をそんなに急いで?」

「サイラス国王からの伝令です。助けてほしいと」

「え? こんな田舎の私たちに?」


「そうです。国王直々の伝令です。途中、何頭も馬を乗り継いできました」


 騎士はまだ苦しそうだった。


「国のあちこちで畑ごと枯れ始めてるところが頻発しています。そこには決まって同じ植物が根を張ってる。取り除こうにもうまくいかないみたいで」


「同じ植物ってもしかしてこれか?」


 レイは昼間持ち帰った黒い根を見せ、いつになく怖い顔で聞いた。その黒い根は土の水分を吸い尽くしてカサカサに乾いているのに、断面からは不気味に脈打つような振動を感じる。


「多分......」


 黒い根が一度脈動してレイとクリスティーヌの顔色が変わった。





「お二人で来ていただけますか? 私の後に馬車が到着します」


「今支度をします。少しお待ちください」

こか洗練されているというか」

「はなから田舎者の私達とはちょっと違うよねぇ」


 市場の喧騒の合間から掛けられた快活な声に、クリスティーヌは振り向く。声の主は、近所に住む農家のおかみさん方だ。彼女たちは両手から溢れんばかりの野菜を抱えた者もいて、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「見てくださいよ、これ! 一週間ほど前に種を撒いたと思ったら、今朝にはもうこの通り。レイ様が『魔法の解放』をしてくださってから、まだ半年もたってないのにこの辺りの土は神様に愛されちまったみたいだわ」

「あらやだ、この野菜もそうだよ」

「本当……見事ね」


「レイ様のおかげだよ、本当に」

「農業そのものが変わっちまった。ありがたい、本当に」


 クリスティーヌは精一杯笑って見せた。嘘ではない。ナギ村の収穫量は、以前の数倍に跳ね上がっている。かつては痩せた辺境だったこの地は今、周辺の村どころか王国中から「奇跡の村」と呼ばれ、王国の穀倉地帯となっていた。


「私ねさっきあそこの市で、王都から来た商人に野菜を高く買い取ってもらったんです。今までじゃびっくりするぐらいの値段で買い取ってくれて。それでね」


 おかみさんの一人が言う。そして自慢げに見せたのは、刺繍入りの高価そうなスカーフだった。辺境のおかみさんといえども、女性はやはりこういう美しいものには目がないのか。


「綺麗でしょう。クリスティーヌ様の農作業着みたいにこんな田舎の村ではなかなか買えない代物ですよ。こんなもの今まで持ったこともない。レイ様のおかげですよ」

 おかみさんは笑み崩れ、クリスティーヌにお礼を言う。


 クリスティーヌは、「素敵ですねぇ」と返事したものの、自分のようにと言われると困ってしまうが、そのスカーフは、豪華だがいったいいつ身に着けるものなのか、辺境の農婦が持つには、少しばかり浮いているような気がしていた。


「私もこれから売りに行こう」

「高く売れたら何を買おうかしら」

 彼女たちは弾むような足取りで野菜を売りに向かう。




「……王都の商人?  また来ているの?」


 一人残った、スカーフを買ったというおかみさんが教えてくれた。


「ええ!  十日市とおかいちを待つのがもどかしいって、最近は毎日誰かしらが広場に店を出してますよ。レイ様のおかげで便利になったもんだ。さすが伝説の英雄だ!」


 「このスカーフ、いつ使おうかしらねぇ」

 と言いながら去っていく彼女の背中を見送って、クリスティーヌはカゴを握る手に力を込めた。 村人たちはみな、この豊かさを手放しで喜んでいる。レイがかつての英雄であったことも、誰がばらしたのか、今やみんな知っている。むしろ今や村の誇らしい「看板」だ。


 けれど。どうしても彼ら商人の行動に納得がいかない。


(……おかしいわ。利益だけを考えるなら、こんな辺境まで毎日通うのは割に合わないはず)


(他に何か目的が?)


 クリスティーヌは視線を、広場の中央に陣取った真新しい馬車へと向けた。 馬たちも元気で王都からの長い旅路を通ってきたようには見えなかった。


(もっと近い所から来ている? ここから王都は遠すぎる。港?)




「この野菜は素晴らしいね。隣村に来ている商人に先に買われないように少し高くしておくよ。それからさ、この種オマケでつけとくから撒いてみてよ。新しい野菜だよ。うまくできたら高値で買い取るよ」

「あら、嬉しい」

「ところでこの村の野菜はどうしてこんなに出来がいいんだい?」

「レイ様のおかげよ。レイ様が土に魔力の開放をしてくれたから」

「ふーん。そのレイ様ってのはどんな人なんだい?」


 商人はとても手際が良く、話を理解するのも早かった。


「ちょっと見たところこの辺には川がなさそうだけど、水はどっから引いてるんだい?」

「あっちに貯水池があってね、あとはあんまり天気が続くとクリスティーヌ様が助けてくれるのさ」

「クリスティーヌ様?」

「元優秀な魔導士らしくてね、レイ様の奥方さ。水魔法と火魔法、それに氷魔法も使えるんだよ。まさに農家向きで性格もいいし美人と来ている!」


「ほう、そうですか。是非あってみたいもんだ」

「私達はレイ様達に足向けて寝られないのさ。あっはっは」

それを聞いた商人はおかみさんに合わせるように笑ったがその眼は笑っていなかった。




 一方その頃、思うようにいかない開墾作業にイラつくレイがいた。


「なんだこの根っこ。何の植物だ?見たことない植物だな」


 最近。土地の力が一時期より減っている気がする。毎日土をいじっているとわかるのだ。それに、時々見慣れない植物が生えている。


 それはどうみても畑のためになっておらず、引き抜こうにも途中で千切れてしまい、千切れた根っこからまた繁殖しているというちょっと厄介な植物だった。


(最近これが増えてきたんだよな)


 レイは取りあえず、農業辞典で調べるために引きちぎった根っこを持ち帰ることにした。





 夕食の席でクリスティーヌは、レイに話しかけた。


「ねぇ考えすぎかもしれないんだけど、なんでこんな辺境の村に毎日市が立つのか、私にはちょっとわからないんだけど」

「なんでだろうな」

「馬車もね、王都からって言ってるけど、そんな長い道のりを歩いてきた馬には見えないのよ」


 レイはクリスティーヌが用意してくれた夕食をつまみながら話を聞いている。



「何のためだと思うんだい?君が口に出すからにはある程度の推測はあるんだろう?」


 優秀なクリスティーヌが、何の予測もなしにそんな話をするとはレイには思えなかった。


「この村の情報を集めてるんじゃないかしら?」

「この村の情報?」


「そう、だってあの魔力開放以来、サイラス国王も頑張ってるし、この国はどんどん潤って周辺諸国の羨望を集めてるわ。その中でも、ナギ村は一番の穀倉地帯になっちゃってるし、ここを取りたいって考えても可笑しくないわよ」

「うーーん」

「それに村人は気がいいから騙しやすいし、聞けばぺらぺらと何でも喋ってくれるわ」



「あなたのこともね」

「.......」

「皮肉なことよね。魔力を土に還して土を豊かにしたら周りの国から狙われちゃってるかもしれないなんて」


 レイはこの前来たウルスラの言葉を思い出していた。





 そんな話をしていたら玄関の扉が荒っぽく叩かれた。


「なんだろう、こんな時間なのに」


 レイとクリスティーヌは顔を見合わせると警戒して扉を開けた。

 そこには王家の伝令が倒れ込んでいた。


 クリスティーヌは慌てて水を持ってきて飲ませる。

 一気に飲み干した騎士は、ようやく喋れるようになった。


「大丈夫?何をそんなに急いで?」

「サイラス国王からの伝令です。助けてほしいと」

「え? こんな田舎の私たちに?」


「そうです。国王直々の伝令です。途中、何頭も馬を乗り継いできました」


 騎士はまだ苦しそうだった。


「国のあちこちで畑ごと枯れ始めてるところが頻発しています。そこには決まって同じ植物が根を張ってる。取り除こうにもうまくいかないみたいで」


「同じ植物ってもしかしてこれか?」


 レイは昼間持ち帰った根っこを見せ、いつになく怖い顔で聞いた。


「多分......」


 レイとクリスティーヌの顔色が変わった。





「お二人で来ていただけますか? 私の後に馬車が到着します」


「今支度をします。少しお待ちください」

お待たせいたしました。第二部の開始です。

レイとクリスティーヌの冒険が再び!


いろんな意味でナギ村は賑わっています。

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