番外編3 火魔法のコンロと恐怖の薪
本編に入れられなかった諸々その3です。
「クリスティーヌ、火魔法の火加減がほんとに上手になったな」
レイが感心する。
「なんだかコンロ扱いされてるみたいで微妙だけど。一応褒められてるのよね」
台所では美味しそうな蒸し野菜が湯気を上げている。
「早くしないと、そろそろ村長さんたちが来る時間よ」
「コンロに乗せたまま食べられるのが最高の贅沢だよ。クリスティーヌのおかげだ」
自慢の野菜と、それを限りなく引き立てる火魔法のコンロ。
クリスティーヌは確かに失敗もするが、発想力はいままでにないもので、村人の常識を覆すことも珍しくはなかった。
「こんばんは、レイさん、お招き有難う」
「この日を楽しみにしていたさ!」
約束の時間を少しだけ過ぎて村長を筆頭に村の男たちが5人ほどばらばらと入ってきて挨拶をしながらにこにこ食卓に着く。
「それにしても、この家は暖かいなあ。冬でも半袖で過ごせそうだ」
「ほんとだなぁ」
「なんか気持ちまでポカポカしてくるみたいだ」
寒い外から入ってきた彼らはコートを脱いだ。そして、食卓にある湯気を上げている火魔法のコンロを見て順番にひとりずつ目を丸くする。
「いや~蒸しながら食べられるのかい? そのせいで部屋があったかいのかな?クリスティーヌさんが来てから、わしらの思いもよらないことを考えるから、びっくりすることも増えたけど助かることも増えたなぁ」
「みなさんのためになっていればいいのですけど」
「いや~もちろん」
「この魔道具も試験的に作ったものですから、もう少し改良して、誰でも火がつけられるようになったら皆さんにも使っていただきますよ」
「それはすごい。わしらでも家でこれが使えるのか。あいつがよろこぶだろうなぁ。楽しみに待っていますよ」
家にいる奥さん方の喜ぶ顔を想像して、男たちはみな笑顔になる。
村で採れた蒸し野菜をつつきながら飲む酒は美味しかった。レイはこの時間が好きだった。生きている実感がする。今日は村長さんが酒を持参してくれていた。
新しい作物の話、良い肥料の話。話題は尽きることがなかった。
一人の男がふと暖炉のわきに積まれた薪に目を止める。
「レイさん、もしかしてこれ」
「あの、森の外れの。夏に落雷があって立ち枯れちゃったカシがあったでしょう? あのままではもったいないし、邪魔そうだったし、立ち枯れてて程よく乾燥してるし、カシの薪は温かくて長持ちするからちょうどよいと思って切ってきたーー」
「「「カシ?」」」
合図もなかったのに村長と男たちの声が揃った。レイは最後まで言わせても貰えなかった。
「あのカシをどうやって切ったんですか?」
「ど、どうやって?って......普通に斧でーー」
「カシの薪なんてあんな固いものどうやったら切れるんだって言ってるんですよ!」
最後の方は悲鳴だった。
なぜなら。
何年か前、まだレイが来る前の話だ。その時も雷に打たれて立ち枯れてしまったカシを、何とか切ろうと村の男数人がかりで立ち向かったが、その固さに撃沈したという事実があったからだ。
(なぜ? なんか変なことしたかな?)
「そんなに大変じゃないですよ。ちょっとコツがあるんです。やってみます?」
「試してみようじゃないか」
男達はぞろぞろと薪割り台に向かう。
台所にいて何が起きているのかわからないクリスティーヌは突然男たちがぞろぞろと出ていくのを見て目を白黒させている。
(何、あの人たち? この寒さと暗さの中どうして外に行くの?)
薪割り台の周りには火がともされ、舞台のように明るくなる。
「あーすっかり酔いがさめちまったな。どれ、今から薪割りをやってみるか」
集まった中では力自慢の男が挑んでみることになった。レイから斧を受け取る。
「うわっ。重。まず斧の重さが違いますよ」
男は村長さんに向かって言う。
「なるほど」
「で、コツってなんだ?」
「繊維の向きをよく見極めて、脱力するように斧を振り下ろすんです」
「そんなことでいいのか」
そして男は薪割りに挑戦してみた。
「キン」
斧は跳ね返され、何か金属のような音がする。
「いてっ」
薪は傷一つない。
「もう一度」
男はムキになる。
「キィィン」
さっきより力を入れたからか斧は跳ね飛ばされ、手にはしびれだけが残る。
「いててっ」
「やっぱり傷一つついてないぞ」
カシの薪を見ているほかの男たちが言う。
その場にいた人々の「またか」という視線が一斉にレイに注がれた。
吹っ飛んでいった斧を拾いながら申し訳なさそうにレイが言う。
「そんな目で見ないでくださいよ。やって見せますから」
「ぜひやって見せてくれ」
「だから、繊維の向きをよく見極めてですね。えいっ!」
......ピキピキ
「スパーン」
そこには綺麗に二つに割れた「カシ」が横たわっていた。
「......レイさんの力、半端ねえな」
「......今、木が自分でピキピキいわなかったか?」
「......農具に魔力はこめられないから、条件は同じだよな」
「......さようなら、常識」
「あの......木にお願いして斧の通り道を少し開けてもらうんですよ」
「「「は?」」」
「......考えるだけ無駄だ。やめよう」
「そうだそうだ、酒に戻ろう」
「折角の楽しい夜だ」
皆は、何もなかったように食卓に戻り、それ以上誰も何も言わなかった。
こういう男が村にいることは、安心でもある。と無理やり納得しながら。
楽しい宴も終わりになり帰るときに、クリスティーヌは数本ずつ束ねたカシの薪をひとつずつ渡した。
「お土産にお持ち帰りくださいな。荷物になるのであまり多くはないですが」
「クリスティーヌ、ありがとう。お土産に縛っておいてくれたのか」
レイがクリスティーヌにお礼を言う様子を村人たちはニヤニヤ笑って見ていた。
「クリスティーヌさん、どうも」
「気の利くいい奥方だなぁ」
レイは村人に向き直り、にやにやとしている村人の顔を見ると一つ咳払いをして真面目な顔をして言った。
「本当はもう少し乾燥させた方がいいので少し薪棚においといたほうがいいですよ」
「お前んちの薪棚は、カシばっかりか?」
「そうですね、あの木を全部薪にしてしまいましたから」
「......武器庫かよ」
レイは村長に向けて言った。
「来年は村の人達の薪割りもできる範囲でお手伝いしますよ」
「そういってくれると助かるよ」
「ありがてぇ」
寒い冬の最盛期はもうすぐだった。
レイはとんでもない冬支度をしていました。
村の常識を次々と変えてしまう二人。
彼らの生活も冒険の連続です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。これにて番外編の投稿は終わりになります。現在第2部を執筆しておりますので、面白いと思ってくださった方はブクマなどしてお待ちいただければと思います。大変励みになります。またレイの世界でお会いしましょう。




