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クロノスバタフライエフェクト  作者: 研G


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6/12

Stranded

東京湾岸エリア。


空は重苦しい鉛色で、季節外れの冷たい雨が降っている。


埋立地、海の森の一角に、異様な威容を誇る巨塔がそびえ立っている。


クロノス・インダストリー本社ビルだ。


その塔の最上層(MIP Lab)からは、目に見えないが、大気を震わせるほどの重圧パルスが、心臓の鼓動のように断続的に放たれている。

(効果音:ドゥン……ドゥン……という重低音。街のノイズにかき消される程度の微かな音)


クロノス本社から直線距離で約3km。


若洲海浜公園の岩場。


釣り人も散歩する人もいない、雨に煙る海岸線。


巨大な風力発電の風車が、不気味な音を立てて回っている。


突如、何もない空間が、ガラスが割れるように歪んだ。

(効果音:キィィン!という高周波の耳鳴り音)


空間の亀裂から、青白い稲妻のような光が迸る。


その光の中から、ひとつの異物が吐き出された。


ドサッ!


濡れた芝生の上に、女性の体が叩きつけられる。


彼女は、流行とは少し異なる、クラシカルだが活動的な服装をしている。


その胸元には、古びた赤い蝶のブローチが留められているが、今は高熱を帯びて煙を上げている。


彼女は激しく咳き込みながら、芝生をむしるようにして身を起こす。


全身が濡れそぼり、泥だらけだ。


激しい目眩と嘔吐感。


世界がぐるぐると回っている。


女性: (荒い呼吸で)「……はぁっ……はぁっ……! ……なに……ここ……?」


彼女は震える手で自分の顔、そして体を触る。


手足はある。


痛みもある。


だが、直前までどこにいたのかの記憶が、ノイズのように混濁している。


カフェにいたような気もするし、誰かと話していた気もする。


それが一瞬で、この冷たい雨の中に切り替わった。


女性: (パニック気味に)「……嘘……さっきまで……私……」


彼女は立ち上がろうとするが、足に力が入らず、再び膝をつく。


視界の端に、海を隔ててそびえ立つ、クロノス・インダストリーの巨塔が映る。


その塔を見た瞬間、彼女の背筋に、生理的な悪寒が走る。


女性: (塔を見つめ、怯えたように)「……なに、あれ……。気持ち悪い……」


雨に打たれる彼女。 その時、胸元の赤い蝶のブローチが、ドクン、とまるで心臓のように脈打った。


それと呼応するように、遠くのクロノス本社塔から放たれたパルスがの彼女の脳髄を直撃する。


(効果音:キィィン……という高周波音と、心音の重なり)


彼女: (胸を押さえて)「……っ……!? なに……これ……」


頭痛ではない。


胸が、焼き切れるほど熱い。


自分の感情ではない、誰かの強烈な想いが、泥水のように、しかし奔流となって彼女の中に流れ込んでくる。


女性: (頭を振り乱して)「……え?……誰……? なに??……入ってこないで……!」


ノイズが最高潮に達した瞬間、ひとつの名前が、焼印のように脳裏に浮かび上がった。


女性: 「……うっ……」


彼女の瞳孔が開く。


雨音だけが響く静寂の中、彼女はその名前を、無意識に呟いた。


女性: 「……ユウキ……リク……?」


彼女はハッとして口元を押さえる。


知らない名前だ。


聞いたこともない。


会ったこともないはずだ。


なのに、その名前を口にした瞬間、心臓が握り潰されそうなほどの切なさと恐怖が同時に襲ってきた。


女性: 「……え? ……何? ……誰なの……?」


雨脚が強まる。


彼女は、恐怖と混乱に震えながら、胸元のブローチを強く握りしめる。


そこにあるのは、強烈な喪失感。


彼女は、雨の向こうに霞むクロノス・インダストリーの巨塔を見上げていた。


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