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クロノスバタフライエフェクト  作者: 研G


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3/12

変容

昼休み。律は廊下を歩き、AELab(特殊エネルギー資源発掘・応用研究室)の入り口を覗き込む。

水無瀬 月凪が、古い文献とホログラムを見比べながら作業している。


律: 「月凪。ランチは?」


月凪:「ちょうど一区切りついたとこ。今行くわ。」


クロノス・インダストリー本社、研究棟の共有ラウンジ。

律はサンドイッチを、月凪はエネルギーバーを食べている。

ラウンジ内は静かで、人工光だけが差し込んでいる。


月凪:(エネルギーバーをかじりながら) 「それにしても、すごいニュース。伊藤君。」


律: 「ああ。噂の天才大学生か… 量子統計学の学位を三つ持つってね。将来はうちのラボかな?」


月凪: 「彼の論文、『人類の幸福のための演算』って書いてあった。律が熱弁してた事と一緒ね。」


律: 「こんな時代だしそう考えるのは僕だけじゃないってことだよ。」


月凪: 「そうね。私たちの研究が少しでもこの世界を救えるのなら…頑張らなくちゃね。」


律: 「うん。」


月凪は、胸元に留められた深い藍色の蝶のブローチをそっと触る。


月凪: 「ねえ、律。またこれよ。最近、私のブローチが変なの。AELabで計測すると、周囲の量子ノイズの反応が、以前より何十倍も大きくなっている。まるで、何かに抗っているみたいで、少し熱を持っているの.」


律: (目線でブローチを一瞥する)「気のせいだろ、月凪。それはただの古いアーティファクト。量子ノイズは常に存在しているんだ。僕たちが扱うのは、理論とパルスだ。意味のないノイズに気を取られるなよ。」


月凪: 「でも、これ、おばあちゃんが……」


律: (月凪の言葉を遮る)「…僕は100%の生存率を達成するために、演算を再開する必要がある。昼休みはもう終わりだ。また夜に。」


律は席を立ち、食器を片付ける。

月凪の手を掴むことなく、彼はラウンジのドアに向かって歩き出す。


月凪は、立ち去る律の背中を、悲しい目で見つめる。


月凪: (律は今、最も危険な論理に囚われ始めている。五百旗頭博士の言った触れてはいけない領域に、一番深く踏み込んでいるのは、他でもない律自身……大丈夫かな…)


月凪: 「律……待って!」


律は足を止めず、ドアの向こうに消えていく。

月凪は追うことを諦め、自分の席に戻る。


彼女は胸元のブローチを強く握りしめる。

ブローチは、手のひらの中で、明らかに鼓動を打っているように感じられる。


月凪: 「?動いた?……本当に? 何に?」


月凪は、誰もいないラウンジで一人座っている。

その時、に月凪の体に、目に見えない微細な「空間のゆがみ」が発生する。

それは、ガラスのひび割れのような、青白いパルス光だった。


月凪は、突如として激しい頭痛に襲われる。彼女は両手で頭を押さえ、目を閉じる。


月凪: 「っ……! 何、これ……」


ブローチが激しく発光し、パルス光が月凪の体に流れ込んだ。


そして月凪の全身の力が抜け、椅子から崩れ落ちてしまった。


数秒後。

床に座り込んだままだった月凪は、ゆっくりと目を開ける。

その瞳は、先ほどまでとは違った冷徹な意思を宿しているようにみえる。


月凪: (深呼吸をする。体内の異変を確認するように、そっと手を胸に当てる)「……よかった…」


月凪: 「律。あなたの論理の檻から引きずり出してあげる。」


月凪はブローチをそっと握る。

ブローチは、光を収め、静かに青い蝶の形に戻っている。




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