46:立つ鳥跡を濁さず
「────はーあ、大変だったな……」
「ふふ、珍しく重労働だったなあ」
夜明けの空を見つめながら、オルガは白い鱗の上に寝転がる。蛇のようにうねりながら飛ぶスイレンの上は居心地が良く、気を抜けばすぐに眠ってしまいそうだった。
断罪劇が幕を閉じ、全てが終わった後。オルガは予定通り竜珠を受け取り、バルクン王国を出た。数ヶ月共にいた相手と別れるのは少し心が痛んだが、長居して厄介事に巻き込まれるのは御免なので、さっさと出てきたのだ。
あの後、メローぺやウォルターたちがどうなったかは知らない。しかし違法とされている闇の魔力を手にし、教会や王家を手玉に取っただなんて無事では済まないだろう。王妃にもその疑惑が持ち上がっているし、一体あの国はどうなることやら。
「ガーネット一個食うのにめちゃくちゃ時間掛かっちまった……味わって食べねえとな」
「今度はうっかり落とすなよ?」
「落とさねえよ!」
首から下げた竜珠を手に取り、差し込む夜明けの光に透かして見る。赤い透き通った身の中に影が渦巻き、淡く輝く眩さが美しい。これだけ追い求めたのだ、一体どんな味がするのだろう。
今までにあったさまざまと、親しんだ彼らの思い出を脳裏に浮かべながら、オルガは竜珠を一口齧った。
「むぐ……」
「どうだ? 美味しいか?」
「……なんつーか……こう、地層みたいな味がする」
「なんだそりゃ」
歴史を感じさせる独特な味わいを舌で転がしながら、オルガは夜明けを眺める。
淡く輝く夜明けの空に、二匹のドラゴンの姿が溶けては消えていった。
これにて「風が吹けば聖女が堕ちる」完結になります。
悪役令嬢モノは初挑戦だったのですが、好きなものをいっぱい詰めたので良い感じに仕上がったと思います!
ここまで読んでくださりありがとうございました。ではまた!




