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風が吹けば聖女が堕ちる  作者: 佐々垣
終幕:風が吹けば桶屋が儲かる
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44:風が吹けば聖女が堕ちる


『はあ〜、メロたんやっぱ可愛いな〜! ロリメロたんも最高〜! ぺろぺろしたい』


 メローぺが彼、プレイヤーと運命の出会いを果たしたのは幼少の頃だった。薄い窓の向こうから話しかけてくるプレイヤーは、いつもメローぺを褒めちぎってくれた。メローぺがどれだけ失敗しても、どんなにドジを踏んでも叱ることはなく、そういうところも可愛いと無条件に甘やかしてくれた。

 父は酒癖が悪くて、母はいつも怒っていて。実はお父さんは別にいるのよ、なんてイタズラっぽく暴露された。メローぺの味方はいなくて、いつも独りぼっち。それが辛くて、悲しくて、耐えきれなくて。だから自然と、メローぺはプレイヤーに依存していった。

 プレイヤーの声は聞こえても、メローぺの声は届かない。うっかり何かをしてしまったり、頑張った時に声を掛けてくれるものの、プレイヤーに話しかけようとした声は全部届かない。でもそれでもいい、とメローぺは思っていた。この温もりがそばに居てくれるなら、どうでも良かった。

 メローぺはその内、プレイヤーの見ている景色を見られるようになった。そこでメローぺは、この世界がゲームの中なのだと知ってしまった。そのゲームの名はシークレットラクト。女性向けの乙女ゲームであり、数年前から配信されているソーシャルゲーム。メローぺはその主人公であり、王立ガーネット魔法学園でさまざまな男性と恋に落ちるらしかった。

 メローぺはストーリーを読み、この世界の行く末を知った。この世界は元々邪竜ヴァルプルガの呪いで蝕まれており、このバルクン王国が残り少ない土地の一つだった。王立ガーネット魔法学園はその危機を救うため、魔力を持つ人間を入学させる施設。そこでメローぺは邪竜ヴァルプルガを討つ旅に出掛けるのだが、そこで障害となるのが悪役令嬢セレナ・ルミエールだった。

 セレナは、神託の龍ウェルテルから授けられた竜珠を扱える竜の愛し子だった。しかし魔法の才はなく劣悪な環境で性格は苛烈、誰からも愛されない惨めな少女となっていた。婚約者のウォルターに好き勝手言い、義弟のシリウスを虐める散々な性格の持ち主。彼女の運命はメローぺの入学で大きく狂い、選定の儀で敗北したことをきっかけに、邪竜ヴァルプルガに手を貸し世界を滅ぼそうとするのだ。

 セレナの最期は散々なもので、ウォルターの差し伸べた手を取ろうとした瞬間にヴァルプルガに食われる、というものだった。ヴァルプルガも竜のはぐれ者であったから、同じはぐれ者のセレナが幸せになるのが許せなかったのだろう。神託の龍ウェルテル、もといスイレンに見送られ、ヴァルプルガも静かに死にゆく。それがシークレットラクトの筋書きだった。

 メローぺは考えた。このストーリー通りに行けば、プレイヤーはずっと自分を見てくれる。そのためには最初のシナリオ────邪竜ヴァルプルガに襲撃され、光の魔力に目覚める必要があった。

 裏話として語られているが、実はヴァルプルガは光属性のドラゴンだった。故に群れから阻害され、耐えきれなくなって全員殺めてしまったのだ。輪に入れず哀れに死んでいく悪役、それこそが邪竜ヴァルプルガ。その血を受けて尚死ぬことなく、光の魔力に目覚めるのがメローぺだった。だからメローぺは待ち続けた。邪竜ヴァルプルガが襲いに来るのを。


『あれ? ここでヴァルプルガが来るんだよな? ストーリー進まねえ……クソッ、バグった?』


 だが、邪竜ヴァルプルガはいつまで経っても襲いに来なかった。

 メローぺは焦った。このままでは、ストーリーを進められない。ストーリーが進められなくなったら、プレイヤーが離れていってしまう。それは嫌だ、それだけは嫌だ。何とかしないと、とメローぺは考えて───闇の魔力を手に入れることにした。

 これも裏設定にあったのだが、実は竜珠は闇の魔石なのだ。作り主である神託の龍ウェルテル、もといスイレンは闇属性の邪龍で、故郷を追放された神様だった。竜珠を扱えるのは光属性、もしくは闇属性の人間。だから闇属性を手にすれば、ストーリーが進むのではないか。メローぺはそう考えた。

 全てはプレイヤーの心を惹きつけるため。プレイヤーに側にいてもらうため。そのためには何だってする。闇の魔力を手に入れるために、両親の生き血を啜ることだって厭わない。それほどまでに、メローぺはプレイヤーに恋焦がれていた。光をもたらしてくれた存在を、最初の救いをただ盲信していた。だから両親を殺めて、その魂を啜って、そして。


『うわ、気持ち悪っ!? 何この話!? エイプリルフール!?』


 プレイヤーはそれっきり、帰ってこなくなってしまった。

 メローぺはその後教会に保護され、実の父親だというシュバルツ子爵に引き取られた。メローぺが成長し、大きくなっていっても、プレイヤーの声は届かなかった。何度呼びかけても返事はなく、見られるのはプレイヤーの操作していた画面だけ。メローぺは焦った。気が狂いそうになって、ついに思いついたのだ。


「世界を正しい道筋(ストーリー)に戻せば、プレイヤー様は帰ってきてくれる……!」


 そのために、そのためだけに頑張った。本来のストーリーよりも性格の悪い攻略対象たちを籠絡し、聖女としての地位を手に入れた。悪役令嬢であるセレナを選定の儀で打ち負かし、ストーリー通りに失踪させた、はずだった。

 なのに、何故かセレナは戻ってきて、攻略対象たちは没落していった。ストーリーを元に戻そうと、断罪劇まで画策した。なのに、なのに、それなのに!


「どうして、振り向いてくださらないの────プレイヤーさま……」


 プレイヤーは、一度たりとも、答えてくれなくて。

 それが、メローぺにはただただ、悲しかった。


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