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風が吹けば聖女が堕ちる  作者: 佐々垣
終幕:風が吹けば桶屋が儲かる
42/46

42:幽霊の正体見たり枯れ尾花


 今日は待ちに待った、王立ガーネット魔法学園の卒業パーティー。卒業生を始めとしてその両親や姉妹、在校生や教師陣も揃い踏みする荘厳な祝いの場である。華々しく門出を祝う重要な日であり、誰もが手を取り踊る祝いの席であるからこそ、


「セレナ・ルミエール侯爵令嬢!お前との婚約は本日をもって破棄させてもらう!」


 来た。

 オルガはこの日のために設えた濃い青色の星空のようなドレスを靡かせ、声のした方に振り向く。王や王妃の座る席を背に、ウォルターがこちらを指差していた。その周りにはシリウスやアマデウス、ティエルノが並んで立っている。いつか夢で見た、断罪劇の幕開けだ。オルガは口元を扇子で隠しつつ、目を細めて尋ねた。


「婚約破棄、ですか。理由をお聞かせ願えますか、ウォルター殿下」


「そんなもの、分かり切った話だろう? お前は竜の愛し子であるメローぺ・シュバルツ男爵令嬢に悪質な嫌がらせを行っただけでなく、彼女が選定の儀で不正を働いたという醜聞まで流した! 己が竜珠に選ばれなかったからと非道な行いに走るなど、淑女の風上にも置けん!」


「お言葉ですが、殿下。こういったことは、別個で話し合いの席を設けて行うべきかと。このようなめでたき場でやることではございません。陛下も王妃陛下も出席なされていますので」


「だからこそだ! 父上と母上には許可を貰っている。これはお前だけではない、お前の取り巻きである令嬢令息も纏めて処罰するために設けた場だ!」


 夢で見たのと同じ言葉が、一言一句違わずウォルターの口から発される。その顔は自信に満ち溢れていて、夢と同じくぶん殴ってしまいたくなる表情だった。

 ウォルターの突然の宣言に、出席していた在校生や卒業生たちがざわざわとどよめく。このめでたい場で、こんな事に巻き込まれたのは災難としか言いようがない。申し訳ないが、責任は喧嘩を売ってきたウォルター側にあると言えよう。

 オルガは状況を確認するように、自身の周囲を確認する。隣にはエイドリアン、反対側にはイザベルとフロリアン。少し後ろにリューズとミルフォード。夢で見たのと同じ、役者は揃っている。オルガは全員の覚悟が決まっていることを確認して、ウォルターに言い返した。


「取り巻き……とは随分な物言いですね。処罰するだけの罪状と根拠がおありで?」


「勿論だ。お前たちはメローぺ・シュバルツ男爵令嬢を聖女の座から引き摺り下ろすために、我々に対する数々の名誉毀損や器物破損を行った! 竜の愛し子であるメローぺ嬢から、竜珠を奪い取るためにな!」


「怒らないであげてください、ウォルター殿下。わたくしは、ただ罪を認めて謝ってくれたらそれで良いのですから」


 鈴を転がすような声音が、ウォルターの背後から響く。ウォルターはその声にドキッと頬を赤らめて、道を開けるようにそそくさと退いた。あそこまであからさまに惚れ込んでいると、一周回って清々しく思えてくる。ウォルターの背後から歩み出た人影を、オルガはキッと睨みつけた。

 月光を束ねたような銀髪、虹を固めたような極彩色の瞳。デビュタントを示す純白のドレスと、その胸元で煌々と輝く竜珠。シャンデリアの光に照らされて、その姿はひどく神々しく見える。見た目だけは一丁前だな、と思いながら、オルガは夢の続きを演じてみせた。


「罪を認めるも何も、わたしには心当たりがございませんわ。一体何のことですの?」


「はッ。そう言っていられるのも今の内だ。まずはお前の取り巻きから罰してやるさ。シリウス!」


「はい。私は以前、義姉さんとその取り巻き……エイドリアン・フォーリィ伯爵令息の手によって、所有していたポーションに精霊を混入させられました。目撃者も多く、証言と証拠が揃っています」


「……ウンディーネの一件ですか」


 声高々に言うシリウスに、エイドリアンは淡々と返した。

 ウンディーネの一件。まさか、あれを掘り返してくるとは。この調子だともしや、オルガが四人を没落させるために起こした事件を名誉毀損として提示するのではないか。そうなっても、オルガが唆した証拠など無いのだから問題はいらないが。エイドリアンはどう返すか。

 静かに見つめてきたオルガの真意を見抜いて、エイドリアンが一歩前に出た。


「事件当時にもお話しした通り、そのポーション瓶はルミエール侯爵令息が一日中所持していたはずです。その中にウンディーネを混入させるなど、状況から考えて不可能でしょう?」


「口だけならどうとでも言えますが、こちらには証拠があるのですよ? 皆々様、ご覧ください! これは事件前日、フォーリィ伯爵令息が我がルミエール侯爵領に出入りしたことを示す通行証です!」


「─────!」


「当人の署名と魔力反応も確認されており、正当性は確か! フォーリィ伯爵令息はこれを使って我が領地に侵入した上、湖のウンディーネを唆したのです! 我が護衛と侍女もそう証言しています!」


 シリウスが提示した一枚の薄っぺらい紙に、観衆が一気にざわめく。微かな魔力反応と『エイドリアン・フォーリィ』という署名、それと捺印。どこからどう見ても正式そうな書類だった。

 だが、この通行証は存在するはずがない。だって、実際にウンディーネを唆したのはオルガなのだから。事件前夜、エイドリアンは寮内におり、ルミエール侯爵領になんて出向いていない。だからこんな通行証があるわけがないのだ。だがシリウスはこれを意気揚々と提示した。捏造でもしたのだろう。何ともまあ悪知恵の働く男だ。どう反論するべきか、というオルガの思考を飛び越して、エイドリアンはすぐさま反論した。


「それは、精霊帯同による領地間の通行証ですね? シルフィード侵攻から義務化されたもので、精霊術師とその契約精霊の魔力を込める必要がある代物」


「ええ! だからこそ、これは動かぬ証拠!」


「残念ですが、それは捏造証拠かと思われます」


「……は?」


「その精霊帯同許可証は、今回のパーティー出席の際にも発行が求められました。今ここに、学園長のサインが入った許可証があります。……それがもし本物なら、この許可証と同じ魔力反応を示すはずです」


 エイドリアンはそう言って、懐から一枚の紙を取り出した。そこにはエイドリアンと学園長の署名、それから契約精霊ノエルの魔力反応が刻まれている。書式は同じ、同一型の許可証だ。署名主が学園長であることを除けば、シリウスが提示した証拠と一致するはず。二つを並べて一致すればエイドリアンの有罪が、一致しなければ無罪が証明される。観衆は証明しろと言わんばかりの目を向けるが、シリウスは焦りながら提示した証拠を懐に仕舞い込んでしまった。その反応に、エイドリアンが非難するような目を向ける。


「どうしました? ルミエール侯爵令息。貴方の言う通りそれが本物ならば、こちらの提示した物と一致するはずです。比較せずに仕舞うということは、それが捏造証拠だとお認めになるんですね?」


「ち、ちが……違う! 護衛と侍女の証言もあるんだ! お前は私の領地に来たんだ!」


「通行証は証拠として扱わない、と。ならばこちらも、学園の男子寮の監視水晶の映像を証拠として提示します。そちらを確認していただければ、事件前夜寮内にいたことが証明されるかと」


「……っ、ぅ……!!」


「もう良い! 次だ次!!」


 非難するような視線が集中し、シリウスが顔を真っ赤にして伏せる。その空気に耐えられなくなったのだろう、ウォルターが強引に話を変えた。

 拙い劇だな、とオルガは考える。捏造した証拠など、反論があればすぐ潰されるだろうに。それすらも分からない愚鈍たちなのか、それすらも分からなくされてしまったのか。どちらにせよ、状況がこちらの有利に傾いたのは違いない。どう出ようとも叩き落としてやる、とオルガは扇子の下で不敵に笑った。

 そんなオルガの挑発に乗るように、ウォルターが次なる罪状を発表する。


「アマデウス!」


「ああ。オレが訴えるのは婚約者のイジー、そしてそのひっつき虫のフロリアン! お前たちは父上に対する不当な噂を流布し尊厳を貶め、オレがいながら蜜月を重ね不貞を働いた! これは立派な名誉毀損だ!」


「……シェパード領の一件のことか」


「ああ!」


 これまた随分なネタを引っ張り出してきたものだ。

 シェパード領の一件、つまり天然ゴーレムを巡る騒動。アマデウスはそれによる悪評を、イザベルとフロリアンのせいにしたいらしい。だがこちらも、事実無根で証拠がない。悪評を流したのも、天然ゴーレムを唆したのもオルガだからだ。またお得意の捏造か、と考えるオルガの前で、アマデウスは意気揚々と続けた。


「シェパード領での天然ゴーレム討伐の際、お前は言った。宝剣グラムでは天然ゴーレムを倒せないと。この発言をきっかけに悪評が広まったが……これは事実無根だ! 父上は確かに宝剣グラムで天然ゴーレムを倒した!」


「残念だがそれはあり得ない。氷属性で天然ゴーレムは倒せないんだ」


「いいや! お前はあの時、火属性でゴーレムの湿度を飛ばして無力化した。父上は、それを氷属性でやった! 理論上は可能なはずだ!」


「だから、それは不可能だって言ってるだろ。氷属性で水分に干渉しても、凍ってアイスゴーレムになるだけだ。それは、この学園の必修課程である魔物学でも説明されてる」


 冷静に反論するフロリアンに、アマデウスがグッと言葉を詰まらせる。履修済みの卒業生たちはうんうんと頷き、まだ履修していない在校生たちはそうなのか、とざわめいた。状況が不利になり、言葉が出てこないアマデウスに対し、フロリアンは呆れた顔で追撃する。


「そもそもゴーレムに関わらず、領内で精霊事案が発生した場合は、まずその領地の領主に報告するのが義務だ。だがアンタらは辺境伯への報告を行わず、何故か近衛騎士団を派遣してきた。これは報告義務違反に当たる」


「な……ッ、今その話はしていないだろう!? それよりイジー! お前、オレという男がいながら、こんな堅物と不貞を働いていたな!?」


「あら、随分な物言いね。貴方だって、婚約者なのに夜会のエスコートも贈り物もしなかったでしょう? それに……以前の決闘で負けて、貴方との婚約は破棄された。もうわたくしと貴方は赤の他人よ」


「なっ、な……ッ!?」


 イザベルの完璧な反論に、アマデウスが信じられないと言った顔で言葉を詰まらせる。自分の婚約事情くらい把握しとけよ、と思う反面、こんなに視野が狭い状態ではそれも無理はないかと同情した。

 責める手立てがなくなったアマデウスが、ふらふらとおぼつかない足取りで後退する。ウォルターはその様子に歯噛みしつつも、今更引けないとでも言うように言葉を紡いだ。


「もう良い。ティエルノ! お前もあるんだろう?」


「ああ。リューズ! ミルフォード・コルネイユ! お前ら、僕に泥棒だなんて濡れ衣を着せたな!?」


「一体何の話ですかな?」


「しらばっくれるな! あの魔導メガネは、お前たちと正式に契約して手に入れた! なのにお前たちはそれを盗品などと言い張って……! これが証拠だ!」


 何ともまあ見事な責任転嫁だろうか。

 悲劇のヒロインのような口振りで、ティエルノが一枚の紙を差し出してくる。それは何かの取引記録のようで、魔導メガネの試作品をティエルノに譲る、という表記がなされていた。だがただでさえ捏造証拠が連続している手前、ティエルノの取引記録も信用に値しない。そんな空気が観衆に流れていた。

 そんな空気を完全に乗っ取るように、リューズが高らかに歩み出た。


「あらあら、そう言い張るのですね。ではわたしも提示させて頂きますわ。……これはあなたの指示で、ミルの鞄から試作品を盗んだという令嬢たちの証言ですの」


「なあ……ッ!? そんなのは捏造だ! 名前が載ってないじゃないか!」


「匿名にすることを条件に、証言して頂きましたもの。これが捏造だと言うのなら……監視の水晶でもご覧になる?」


「この魔導メガネは、世界に七つしかない試作品。ですので、所有者の名前が刻まれているのですぞ。ベネディクト子爵令息が着用している映像を確認して、ぼくの名前が刻まれていれば……」


「もう良い! やめろ! よってたかって僕を虐めるなあッ!!」


 隙のない反論にティエルノが顔を青くして、頭を抱えて蹲る。そのあまりのみっともなさに観衆たちはドン引きし、ひそひそと何かを噂した。

 捏造、捏造、捏造のオンパレード。これでよく、セレナたちに罪をなすりつけられると思ったものだ。確かに、以前のセレナなら信用が無かったからこうも行かなかっただろうが、今のセレナの地位は盤石なのだ。ただの滑稽な茶番劇にしかならない。

 これ以上は長引かせるだけ無駄だな、とオルガは一歩前に歩み出て告げた。


「殿下。もう無意味な茶番はおしまいにしましょう? これ以上は、巻き込まれた皆様の迷惑になります」


「うるさい。まだお前の断罪が済んでないだろう! セレナ・ルミエール侯爵令嬢。お前は、複数回に渡り聖女メローぺを加害したな!」


「……はい?」


「すっとぼけるな! お前がメローぺを平手打ちしたり、階段から突き落とす場面を大人数が目撃しているんだ!」


「セレナ様。どうか罪をお認めになってください」


 まるで絵画のように美しい表情で涙を流し、メローぺがそう告げる。だがオルガは言われたことにまるで覚えがなく、思わず困惑した。

 メローぺへの加害。そんなこと、一度だってした覚えがない。そもそもメローぺと接触したのだって指折り数えるほどしかないし、話したこともあまりない。なのに加害だなんて、出来るわけないだろうに。一体何を言っているのだろうか。

 いや、まさか。オルガは勘付いて、入場前にスイレンから貰っていた紙の束を取り出す。そしてそれに目を通し、大体の状況を理解した。

 突然紙束を持って黙り込んだオルガに、ウォルターが声を荒げる。


「おい、何をやっている。罪を素直に認めろ! そうすれば、情状酌量の余地が……」


「なぜ、やってもいないことを認めなければなりませんの?」


「は……ッ?」


「こちらは、ルミエール侯爵家とシュバルツ子爵家の取引記録です。取引内容は精霊石、忘れ貝の大量譲渡」


「忘れ貝というのは半精霊の一種で、誰かの記憶や記録を閉じ込め、それを元に幻覚を見せる力を持ちます。死亡し精霊石になると、その幻覚作用だけが残るのが特徴です」


「は? 幻覚? な、何を言って……!」


「ですから、多数の目撃情報はその忘れ貝の幻覚作用によるものだと。そう申し上げております」


 オルガの堂々とした宣言に、観衆が一層どよめく。取引記録を見せつけられたウォルターはわなわなと震え、メローぺは思わずシリウスを見た。

 この取引記録は、御者として紛れていたスイレンが入手してきたものだ。元々ルミエール侯爵領は精霊が多く、精霊石の不法投棄で問題になっていたから、忘れ貝の入手も容易かっただろう。メローぺはそれを使ってセレナに虐められている幻覚を生み出し、そこら中に配置した。それ以外に、目撃証言を捏造する手法は思いつかない。

 あまりにも堂々としているオルガに、今度は取引記録を暴露されたシリウスが激昂した。


「どういうつもりだ、義姉さん! そんな証拠が義姉さんの手元にあるはずないだろ!?」


「嫌ね、シリウス。わたしは冤罪の証拠として、商会の皆様に提出をお願いしただけよ」


「その記録には魔力印がない! 精霊石の取引には魔力印が必須のはずだ!」


「ええ、バルクン王国法ではそう定められています。ですが……魔力印が付いたものは全て、公式の記録として保管される。それが無いということは……公式に残したくない、秘密裏の取引だったのでは?」


「エイドリアン! お前、好き勝手言いやがって……!!」


「好き勝手、ではありません。実際、学園の至る所から忘れ貝の魔力反応が出ていますから」


 我を忘れたシリウスとは対照的に、エイドリアンは学園内の調査記録をサッと提示してくる。複製されたものが観衆にも手渡され、ざわめきは一層大きくなった。幻覚作用のある精霊石を至る所に置かれ、幻覚を見ていたなんて知ったらそうもなるだろう。もしかすると観衆の中には、幻覚だと知らずに目撃証言をしてしまった令息令嬢もいるかもしれない。御愁傷様、と思いつつ、オルガはメローぺの動向を伺った。

 強固な証拠を一つ潰されて、しかしメローぺは狼狽えずに続ける。


「セレナ様、言いがかりはやめてください。私は貴方に手紙で裏庭に呼び出され、頬を強く打たれて……うぅ……!」


「ああ、無理をしなくて良いんだよ、メローぺ。……これがその手紙と、落としたというハンカチだ! 今度こそ動かぬ証拠だぞ!」


「ルミエール侯爵家の家紋が入った便箋……それは、シリウスでも用意できるのではなくて?」


「そんなことはない! この手紙にはイタズラの魔術が仕組まれていて、その術式からお前の魔力が検出された! お前以外にはあり得ない!」


 ウォルターはそう言って、威丈高に手紙とハンカチを突き出してくる。イタズラが仕込まれていたという手紙からはしかし、魔力の反応は感じられない。捏造するならもっとしっかりやれば良いのに、とオルガは呆れながら告げた。


「失礼ですが、その手紙からは魔力反応を感じません。わたしが犯人だと言うのは早計では?」


「いいや、この術式は発動した後だから魔力反応がないんだ。しかし発動直後の検査では確かにお前の魔力反応が検出された! これがその鑑定結果で」


「魔術が発動しても、術式には必ず魔力が残ります。それは何年経っても同じで、完璧に魔力反応を無くすのは困難……その手紙からは、魔力反応を微塵も感じませんよ?」


「っ……ならこのハンカチは! どう説明するつもりだ!」


「わたし、ハンカチには必ず帰還の魔術を付けていますの。術式が破壊されない限り、誰の手に渡ろうとも帰還する魔術……うっかり落っことすなんて、それこそあり得ませんわ」


 術式が破壊された形跡がなければ。そう言外に示すオルガに慄いて、ウォルターはハンカチと手紙を引っ込める。確固たるものとして作り上げたはずの証拠が悉く潰されて、メローぺが顔を青くした。

 こんなもので騙せると、こんなもので追放出来ると。そう考えていたならとんだお花畑だし、取って食う気も起きない馬鹿野郎どもだ。こんな奴らに人生を壊されて、死にかけたセレナが哀れで仕方ない。これも全て、竜珠をうっかり落としたオルガの責任か─────そんな訳ないだろ。ふざけんな。


「……ふ、ふふふ……こんな茶番を自信満々にして、竜珠が闇の魔石なのも見抜けなくて……皆様、揃いも揃って節穴ですわね」


「なッ!?」


「侮辱も良いところだ! 僕たちの目は節穴なんかじゃ─────」


「────いいや、節穴だぜ。オマエらの目は、とんだ節穴だ」


 扇子を閉じ、牙を晒す。顔を歪め、狡猾な笑みを浮かべる。セレナとは程遠い、似ても似つかない肉食獣の笑み。それを見てようやく、メローぺとその取り巻きが息を呑んだ。

 プラチナブロンドが黒く染まり、しゅるしゅると短くなる。濃い星空が宵闇へと染まり、青い宝石を散りばめた漆黒のドレスへと変わった。目つきの鋭さは更に増し、瞳は濃く青く変わる。邪魔っけな扇子を放り捨て、ギザギザの歯をこれでもかと晒しながら、オルガは快活に笑ってみせた。


「このアタシが、ヴァルプルガだってことも分からないくらいにはなあ!」


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