表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風が吹けば聖女が堕ちる  作者: 佐々垣
第三幕:才子、才に倒れる
25/46

25:毒を食らわば皿まで


 選定の儀は、竜珠の力を引き出せる人間が二人以上居た場合に行われる儀式である。竜珠をより強く輝かせた方の勝ちであり、審判は教会の枢機卿が務めることになっていた。

 当代はセレナとメローぺの一騎打ちになったが、実は先代も同じような状況だった。当時の王太子の婚約者にして、帝国皇族の血を引く末席、臣籍降下し輿入れした皇女の娘であるローズマリー・アルバート=ワーグナー。そして一端の子爵令嬢であるレイチェル・ノワール。二人の実力は天と地の差があり、ローズマリーが竜の愛し子に選ばれるのは明白だった。

 しかしその予想は裏切られ、選定の儀はレイチェルの勝利で終わった。竜の愛し子に選ばれた少女は、自動的に未来の王妃の座を手にすることが出来る。故にローズマリーは婚約破棄を言い渡され、王太子はレイチェルを妃として迎え入れた。

 当然ながら、この結末には非難の声が上がった。当時、レイチェルは婚約者のいる令息を誑かしては侍らせて、学園内での評価は最悪だったのである。その侍らせた令息の中には、選定の儀に関わる立場である枢機卿の息子、テノール・ベネディクトもいた。レイチェルに唆されたテノールが選定の儀で不正をし、レイチェルを勝たせた。世論はそう傾いて行った。婚約破棄されたローズマリーが、側妃という異例の立場に収まったのも議論に火をつけたのだろう。

 その騒ぎが落ち着かないうちに、事態は起きた────風の大精霊シルフィードが、王都へと攻め込んだのである。


『マリーが選ばれないはずがないわ。これは不正よ。公正になさい。早く、早く!』


 シルフィードは、ローズマリーの生家であるアルバート=ワーグナー領に隠れ住む精霊だった。シルフィードの侵攻により王都は多大な被害を被り、数多の犠牲者が出た。誰もが選定の儀のやり直しを望み、事態の収束を図った。

 だがそうはならなかった。他ならぬレイチェルが、竜珠のお告げを理由にそれを拒んだからである。竜珠のお告げは絶対。竜珠が、神託の竜ヴァルプルガが望んだのならば、それは絶対となる。故に選定の儀のやり直しは行われず、望みが聞き届けられなかったシルフィードは更に大暴れした。

 力で倒すことが不可能だと悟った近衛騎士団は、宮廷魔術師たちにシルフィードの封印を依頼した。だが、そこに待ったを掛けた者がいた。当時の宮廷魔術師長、フランシス・グリモワールである。


『シルフィード様は、ローズマリー側妃陛下の言うことならば聞き入れるでしょう。側妃陛下と契約させるのです。そうすれば、これ以上余計な血を流さずに済む』


 それは理想的な提案だった。だが理想的すぎるが故に、聞き入れられることはなかった。フランシスは王家に刃向かったとして爵位を剥奪され、フォーリィという僻地に飛ばされたのである。

 王家は、ローズマリーに力を与えたくなかった。故にフランシスを追放したのだが、それによって窮地に追い詰められた。精霊を宥める力を持つフランシスがいなくなり、いよいよ打つ手が無くなったのである。更にはフランシスの追放を後追いするように、二番手の実力者だったイザイア・シャルパンティエが宮廷魔術師を辞めてしまった。どうしようもなくなった王家は、イザイアが所持していた魔導書を頼ろうと試みた。だがイザイアは頑固として協力に応じず、面会謝絶を申し出た。

 焦った王家は考えた。考えに考えて、イザイアから魔導書を奪い取る正当な理由をでっち上げた───シェパード領に天然ゴーレムが発生したとして、イザイアに罰を与える名目で魔導書を接収した。あの魔導ゴーレム騒ぎは、それが原因だった。イザイアの死は、王家にとっても予想外だったが。

 兎にも角にも、それでイザイアの魔導書を手に入れた王家は、その力でシルフィードを教会地下に封印した。多大な犠牲を払って得た結末に、しかし非難の声は上がらなかった。非難の声を上げるだけの余力がないほど、王都は疲弊していたのだ。風の大精霊の侵攻からの復興、それに追われる内にレイチェルを巡る不正疑惑は流れていき、やがて噂をする者はいなくなった。

 こうして、風の大精霊シルフィードは教会の地下深くに封じられた。だが、魔導書を読んだ素人の手で作られた封印は、シルフィードを完全に封じ込めることは出来なかった。シルフィードは封印の隙間から配下であるシルフを数多送り出し、学園内へと忍び込ませた。それが、王立ガーネット魔法学園に、風の精霊シルフが大量発生している訳である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ