15:一を聞いて十を知る
「だーっ!! なんで別人だって分かった!?」
「分かるわよ。全然違うもの。セレナと親しい子なら、全員分かるんじゃない?」
「エイドが警戒してないから危険なヤツじゃないとは思ってたが、まさかヴァルプルガ猊下だとはな……」
学園の隅っこにある、精霊の楽園と呼ばれる薔薇園。すっかり秘密基地として定着したそこで、オルガはイザベルとフロリアンに対面していた。
完璧な変身でセレナの演技も板についてきたと思っていたのに、まさか露呈するとは。ギザ歯を晒してギリギリと歯噛みするオルガに、隣に立っていたエイドリアンが少し困ったような顔をした。
「でも、ヴァルがセレナに化けてるってことは……セレナはまだ昏睡中なのよね? 大丈夫なの?」
「姉貴が定期的に見に行ってっけど、まだしばらく目覚めそうにない。多分、闇魔法の類だと思うんだが……」
「闇魔法……って、禁術じゃないか! なんでそんな危険なものが……!?」
「え? そうなのか?」
「ああ。確か闇属性は先天的なものじゃなくて、精霊とか人間とか、生き物の魂を生きたまま食らうことで得られる物だから……バルクン王国だと、使用した者は処刑される可能性もある」
まずいじゃねえか。特にうちの姉貴。
双子からの説明を受け、オルガは冷や汗をかく。姉のスイレンが日常的に使っている物だから特に気にしていなかったが、確かに闇属性の魔法というのは物騒なものが多い。処刑されるのも納得がいく。だがそうなると、思い切り闇属性のスイレンはどうなるのか。
いや、大丈夫か。今まで何回か首を刎ねられたけど何とかなったって言ってたし。
「その辺りに関しては、ミルフォードの方が詳しいと思うよ。今は出払ってるけど……」
「ミルフォードが出払ってるなら、リューズ嬢もいないのか。選定の儀が予定より早く行われたことも考えると、結構怪しい状況だな」
「え? 選定の儀って前倒しされたのか?」
「うん。当日の昼にいきなり告知されて……ボクも止めようと思ったんだけど、間に合わなかったんだ。そのまま当日の夕方に開催されて……」
そこでセレナは闇魔法によって昏倒し、メローぺが竜の愛し子の名を得た。随分と怪しい状況だ。異を唱える者はいなかったのだろうか。
訝しむオルガの前で、イザベルが少し不安げな声で言った。
「狙われたのかもしれないわね……尚更、セレナのことが心配だわ。闇の魔法、どうにか出来ないの?」
「どうにかって言われてもな……アタシが光の魔法で消し飛ばしても良いんだけど、そうなると闇魔法の術式ごと吹き飛ばしちまうから、証拠として機能しなくなるんだよ」
「証拠の保全のためにも、セレナ嬢に頑張ってもらうしかないのか」
「そういうこった」
オルガのざっくりとした物言いに、イザベルは眉を下げつつも納得したように目を伏せた。
光の魔法は闇の魔法に対して有利に出られる。セレナを蝕む魔法もオルガの手にかかればちょちょいのちょいだが、加減が出来ないので仕込まれた術式ごと吹き飛ばす恐れがあるのだ。そうなると、明確に闇魔法で昏倒させられたという証拠が残らない。それはセレナの望むところではないだろう。
今の自分たちにできるのは、セレナの名誉挽回。それを認識したイザベルが、顔を上げて言った。
「なら、わたくしたちは冤罪の証拠を集めるしかないわね……具体的にどうやって集めてるの?」
「それが……そもそもどんな冤罪吹っ掛けられるか分からねえから、ひとまず姉貴に任せてんだ」
「姉……確か、聖女様の方に潜入してるんだっけ」
「なら俺たちはセレナ嬢の評価を上げて、メローぺ嬢周りの悪事を暴くしかないな」
「アマデウスの評価なら、どうにかなるかもしれません。わたくし、良い情報を持ってるの」
方向性を明確に定めるように、イザベルがにこやかに笑って告げる。騎士団長の息子、アマデウス・マラルメ。確か、イザベルの名目上の婚約者ではなかったか。その割には、一度も揃っているところを見たことがないが。
イザベルは基本、フロリアンと共にいるとエイドリアンが言っていた。アマデウスが婚約者ならば、そんなことはあり得ないはずである。どういうことだろうか。オルガは困惑して、疑問をそのまま口にした。
「良いのか? オマエの婚約者なんだろ? ……つーかオマエら、どういう関係なんだよ。婚約者のいる人間の女は他の人間の男と関わっちゃダメだって聞いたぞ」
「あら、それは話すと長くなるわよ? ねえ、フロー?」
「手短に済ませてくれ、ベル……」
「ああもう、仲良いのは分かったからさっさと話しやがれ!!」




