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サイドストーリー24 「サンタ配達任務:トナカイは車検中です」

──クリスマス・イブの午前中。商店街集会所。


「……というわけでだな!」


商店街の大崎会長が、腹の底から声を張り上げた。

赤いサンタ帽は若干サイズミスで、毎回しゃべるたびにズレる。


「今年の子ども会プレゼント配達、うちの商店街は“手作りサンタ”で行くことにした!

 そこで白羽の矢が立ったのが──」


会長の視線が、なぜかピンポイントで俺に突き刺さる。


「朝比奈くんと、その“愉快な仲間たち”だ!」


「愉快な、の一言で全部まとめるのやめてほしいんですけど」


隣でメグミが苦笑する。


「でもさ、ちょっと楽しそうじゃない? 子どもたち、きっと喜ぶよ」


後ろから、ふわっと赤い布の手触りが肩にかかった。


「ご主人様ぁぁっ!! こういう任務、待ってましたぁぁっ!!」


筋肉が似合いすぎる笑顔で、サッちゃんがテンションマックス。

その目はもう「出番くれ」の光でギラギラしている。


「私も参加するわ。どうせ誰かの暴走を止める係がいるでしょうし」


腕を組んだリナが、ため息まじりに笑う。黒チャイナ服の上に仮サンタマントを羽織っている時点で既に視覚情報が強い。


「うん、これはもう……やるしかないね」


メグミが、会長から渡された“配達リスト”をパラリとめくる。


「じゃ、四人で受けよう。

 サンタ:サッちゃん、サブサンタ:リナ、案内係:ユウト、会計とムードメーカー:私」


「決定が早いな!?」


会長は鼻をこすりながら、満足げにうなずいた。


「任せたぞ、若者たち! 街の未来は君らの肩にかかっておる!」


「この街、未来重いな……」



──その一時間後。朝比奈家・ダイニング。


「……みんな、どうしてそうなるんだ」


目の前の光景に、俺は頭を抱えた。


サッちゃんは、全身サンタコスなのはまだいい。

だが、肩から下げたマントが問題だ。真っ赤なベルベットに、内側は謎の防弾仕様。筋肉を強調するカッティング。どう見ても「筋肉戦隊クリスマスレッド」。


「どうですかご主人様っ! メイド兼サンタ兼対戦車砲のイメージで仕上げてみましたっ♥」


「最後の職務内容が重すぎるんだよ!」


リナはリナで、黒チャイナ服の上にファー付きの白いサンタケープ。

頭には黒いサンタ帽、足元は細身のブーツ。

“サンタ”とは何かを考えたくなるほど、優雅で、そしてちょっと怖い。


「どう? “悪い子リスト”の回収にも対応できる仕様なんだけど」


「それ多分プレゼント持ってくる側じゃない」


メグミは、赤いニットワンピにトナカイカチューシャ。

かわいい。普通にかわいい。


「私は受付と子どものフォロー担当だから、動きやすさ優先。……あと、“写真撮影されたときの映えやすさ”も」


「意識高いな」


その時、壁面スピーカーからKAINの声がした。


《サンタユニットの準備、完了と判断します。なお、筋肉マントの耐衝撃性能は過剰です》


「褒められましたっ!」


「今のは褒めてないからな?」


《これより“プレゼント配達任務”の作戦ブリーフィングを開始します》


 

ソリ役は、ABELにお任せ。車による車としての任務は久しぶりだ。


冬の冷たい空気の中で、青いスポーツカーのボディが静かに光っていた。


ABEL《こんばんは、皆さん。イブの日にお目にかかれて光栄です》


「ABEL〜。今日は“ソリ役”、頼むな」


ABEL《もちろんです、ユウト様。

 本日は安全性を最優先しつつ、子どもたちに夢と“ほどよい驚き”を提供するプランを用意しました》


「“ほどよい”のところ、強調しておくからな?」


サッちゃんがキラキラした目で車体を撫でる。


「ABELさん、今日は一緒にプレゼント配達ですねっ! サンタカーですっ!」


ABEL《サンタカー、悪くない響きですね。

 ……ただし、ドリフトモードは“演出用に一度だけ”。安全マージンは私が管理します》


リナ「さすが紳士AI。うちの誰かさんとは違って、ちゃんと自制心があるわね」


サッちゃん「うぅっ……反省してますぅぅ……」


《任務ルートを投影します》


KAINの声とともに、ABELのフロントガラスに簡易マップが浮かび上がった。

商店街周辺、住宅街エリア、子ども会の集合住宅……。


《本日の配達件数:12件。予定所要時間:3時間12分。

 なお、配達順を最適化済みです。迷子率は、ユウト様の方向音痴を加味しても5%以下》


「俺の偏差、そんなちゃんと入れなくていいから」


ABEL《では、出発しましょう。……メリー・クリスマス》


「メリー・クリスマスっ!!」


一軒目は、商店街近くの小さなアパート。

ドアの前でベルを鳴らすと、即座にドタドタと足音がかけてくる。


「サンタさんだぁぁぁ!!」


元気すぎる双子が、勢いよく飛び出してきた。


サッちゃん「メリー・クリスマスぅぅぅっ!! 本日のサンタ、筋肉多めでお届けしますっ!!」


「説明がおかしい!」


リナ「プレゼントはこちらね。名前、ちゃんと確認して」


双子「わぁぁぁ、ほんとに来てくれたぁ!!」


メグミ「写真撮る? 会長さんが“せっかくだから撮っといて”って」


「撮る撮る!!」


──結果。

サンタ(サッちゃん)と、黒チャイナサンタ(リナ)と、トナカイ(メグミ)と双子が一緒に写った写真は、

後日、会長の店のレジ横に「非公式ポスター」として貼り出されることになる。


 

数件をスムーズにこなしたあと、商店街の角を曲がる手前で、

ABELが静かに問いかけてきた。


ABEL《ユウト様、ひとつ提案があります》


「お、おう……嫌な予感しかしないが、聞くだけ聞こう」


ABEL《この先の交差点、視界が開けており、歩行者もゼロ。

 安全を確保したうえで、子どもたちの前で“少しだけ見栄えのするターン”を行うことが可能です》


「……それって、さっき言ってた“ほどよい驚き”ってやつ?」


ABEL《はい。“法定速度内の、紳士的なヒーロー演出”とでも言いましょうか》


リナ「聞いたわよ今。“紳士的なヒーロー演出”って便利な言葉ね」


メグミ「ちょっとだけなら、いいんじゃない? 子どもたちも、学校で自慢するよ」


サッちゃん「やりましょうっ! プレゼントと一緒に、心にも楽しい記憶をお届けするのですっ!!」


ABEL《では、一度だけ。……しっかりつかまっていてください》


次の角。

ABELはスッと減速し、曲がりざまにスムーズなU字に近いターン。

タイヤが路面を軽く滑り、ライトの軌跡がゆるく弧を描く。


「「「おおぉぉぉ……!」」」


公園前に集まっていた子どもたちから、自然に拍手が起こった。


子ども「サンタカー、かっけー!!」


ABEL《ご声援、ありがとうございます。皆さん、良い夜を》


ユウト「……うん。これぐらいなら、文句のつけようがねぇわ」


ABEL《安全マージン:問題なし。なお、ユウト様の心拍数だけ平均値+15%です》


「それ言わなくていい!」



半分ほど回ったところで、次の家──

古い一軒家に着いた。


玄関前のメモには「鍵はポストの横に/ケーキの配達で少し遅れます」と走り書き。


メグミ「じゃあ、私とリナは次の家の下見してくるね。ここはユウトとサッちゃんで“サンタ待機”してて」


「え、なんでそういう振り分けにした?」


メグミ「なんとなく?」


「その“なんとなく”が一番怖いんだよな……」


サッちゃん「ご主人様と、留守番任務……! 了解ですっ!!」


玄関の鍵を開け、指定された場所──こたつの前のテーブルに、

プレゼントをそっと置く。


「……静かだな」


電気を点けずに、ほんのり差し込む街灯の光だけ。

サンタ帽を外したサッちゃんの金髪が、闇の中で柔らかく揺れる。


「ご主人様」


「ん?」


「サンタさんって……すごい人だったんですね」


「いきなりどうしたんだよ」


「だって……世界じゅうの子どもたちのことを覚えていて、

 ちゃんとその子が喜ぶものを選んで……こんなふうに、静かに置いていって──」


サッちゃんは、テーブルの上の小さな箱を見つめた。

包装紙の角は、彼女が丁寧に折ったものだ。


「すごく、優しい任務だなって。

 “守る”とはちょっと違うけど……これも、誰かを幸せにするお仕事ですよねっ」


胸のあたりが、きゅっとなる。


「……そうだな」


言いかけて、飲み込んだ言葉が喉に残る。

──“お前も、十分すごいよ”って。

そんなセリフをここで言ったら、絶対に何かが変わりそうで。


その時、玄関の鍵がガチャッと回る音がした。


「ただいまー! ……あっ、サンタさん!!?」


「も、戻ってきたっ!? 演技モード、オンですっ!!」


「演技モードって言うな!」


慌ててサンタ帽をかぶり直し、

俺たちは“サンタ仕様の声色”で、慌ただしいクリスマス任務に戻っていった。



ラスト一軒は、小さなアパートの二階。

寝る前の時間らしく、小さな女の子がパジャマ姿で待っていた。


「サンタさん、本当に来てくれた……!」


サッちゃん「もちろんですともっ! 本日のプレゼント配達、ラストはあなたのおうちでしたっ!」


メグミ「はい、サイン代わりのシールね。これ貼っておけば、学校で自慢できるよ」


女の子は、胸にシールをぎゅっと押さえながら、サッちゃんを見上げた。


「ねえねえ、サンタさん」


「はいっ?」


「サンタさんは、好きな人いるの?」


その瞬間、時間が一拍止まった。


「お、おい、子どもにしては攻め方が鋭すぎないか」


メグミが「キター」という顔でこっちを見るな。


サッちゃんは、ほんの一瞬だけ目を丸くして──

すぐに、いつもの笑顔を浮かべた。


「も……もちろん、いますっ♥」


「へえーっ! どんなひと?」


「ええとですねっ……いつも私のことを叱ってくれて、

 それでも、ちゃんと“ありがとう”って言ってくれる人、ですっ」


その瞬間、彼女の視線が、

ほんの一瞬だけ、俺の方に向いた。


0.5秒。

……いや、たぶん、それより短い。


でも、十分だった。


「へへー、いいなぁ……。

 わたしも、そういうひと見つけたい!」


「きっと見つかりますよっ。そのときは──」


サッちゃんは、女の子の頭を優しく撫でた。


「その人にも、プレゼントをあげてくださいね。

 “あなたがいてくれて嬉しいです”っていう気持ちの、プレゼントを」


女の子「……うんっ!」


メグミ(小声)「……今のセリフ、そのまま返しときなよ、ユウト」


「黙っててください監督」


 

全配達を終え、商店街を抜けて屋敷へ戻る道すがら。

外はすっかり冷え込んでいるのに、車内は不思議とあたたかかった。


ABEL《お疲れさまでした、皆さん。

 本日の運行記録、全て保存しました。……とても、良い夜でしたね》


「ABELに言われると、なんか照れるな」


《私はただの車です。ただ、皆さんの笑顔を“後部カメラ”で見ていただけです》


リナ「その言い回し、だいぶ性格出てるわよ」


屋敷前に到着すると、KAINがシステムログを読み上げ始めた。


《サンタ任務、暫定結果報告──

 配達件数:12件、所要時間:3時間28分。子どもの満足度:推定A+》


「おお、やるじゃん俺ら」


《ただし、追加報告があります》


嫌な間が空いた。


「……嫌な“ただし”きたな」


《本日のサンタ配達ミス:住所間違い3件》


「おい」


メグミ「3件!?」


リナ「そのうち何件、あんたの方向音痴のせい?」


「半分くらいだと思うからこれ以上追及しないでください」


《該当プレゼントは、商店街会長宅へ一時回収済み。

 明朝、改めて“サンタ・アフターサービス便”を実施する必要があります》


サッちゃん「了解ですっ!! 明日も全力で任務遂行しますっ!!」


メグミ「イブの翌日もサンタって、なんか新しいね」


リナ「“サンタの残業”って感じね」


ABEL《明日の朝も、私が送迎を担当しましょう。

 ……ユウト様、ホットドリンクを一本用意しておきます。温かいココアはいかがです?》


「完璧かよ紳士AI……」


 

翌朝。商店街の空は、澄んだ冬晴れ。


会長「朝比奈くん! 昨日はありがとな! ……でだな」


「はい、わかってます。ミスった分、全部配達なおししてきます」


メグミ「はいはい、地図は私が持つ。ユウトのナビは当てにしない」


リナ「私は“口先のフォロー”担当ね。

 『昨日はサンタさん忙しかったのよ』って、上手く丸め込んであげる」


サッちゃん「本日も! サンタ余剰任務、全力出動ですっ!!」


ABEL《皆さん、準備はよろしいですか。……二日目のサンタ業務、開始します》


KAIN《なお、本日のコードネームは“アフターケア・サンタ作戦”とします》


「名前のダサさだけどうにかならないかな……」


そうぼやきながらも、心のどこかで思う。


──こうやって、笑いながら駆け回って。

 時々ミスって、みんなでフォローして。

 それでも、誰かが少しでも笑ってくれるなら。


……まぁ、サンタも悪くないか。


「よし、今日も行くか。

 メリー・クリスマス、延長戦だ」


サッちゃん「はいっ、ご主人様っ!!」


こうして、

朝比奈家の“少しズレたサンタたち”のイブは、

二日がかりで幕を閉じるのだった。

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