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第18話 「潜入!学園祭ミスコンテスト」

朝の校門は、綿あめの甘い匂いと焼きそばの湯気で少し霞んでいた。見上げれば、手作りの横断幕が秋空に揺れ、ステージからは軽音部のギターがチューニングを外しては戻し、外しては戻す。

ユウトは腕章を巻き直し、ため息をひとつ。「今年こそ“安全第一・炎上ゼロ”で行くからな」と自分に言い聞かせると、袖口のイヤモニからKAINの落ち着いた声が返ってきた。


《出張ステージ管制、稼働。音響・照明・非常停止は私が監督します》


ユウト「頼りにしてる」


振り返ると、なぜか出店の列にサッちゃんとリナがいる。メイド服はさすがに控えているが、どこからどう見ても一般客ではない存在感で、焼きとうもろこしに全集中していた。


サッちゃん「ご主人様ぁ、学園祭すごいです! ここで屋台の動線最適化やりたい!」

リナ「祭りに来てまでオペレーションを最適化しないの」とやわらかく制す。所作は完璧、視線は冷静。今日も“しっかり者のメイド”の鑑だ。


そこへ、生徒会の腕章を巻いた副会長が二度見して立ち止まった。

桂木「失礼ですが……お二人、ゲスト部門のミスコンに出ていただけませんか?」


サッちゃんは間髪入れずに「出ますっ!」と元気よく挙手。

リナは一拍置き、「運営体制と保険、整っている?」と確認を入れてから、うなずいた。「整っているなら出てもいいわ」

ユウト「いや、なんでだよっ!」


こうして、思いがけずゲスト部門の出場者が二名追加された。


控室は華やかな熱気で満ちていた。

パウダーミラーを囲むのは、地域アイドルの女の子、完璧なドレスを纏った財閥令嬢、そして——黒のラインをさりげなく忍ばせた忍者留学生ノア。「忍者⁉」その立ち居振る舞いに、リナがほんの少しだけ目を細める。


(……黒百合。舞台用の“見せ方”を持ち込んでいるわね)


KAINが囁く。《舞台裏で未知の電磁パターン。演出増幅系の結晶《GLAM-κ》に近似》

「了解。こんなところに結晶があるのね」とリナ。


司会はメグミ。いつもの生徒会長スマイルに、今日は華やぎが加わっている。

メグミ「皆さん、ようこそ! 本校ミスコン・ゲスト部門は特技→質疑→水着→最終ランウェイの順で進行します。安全第一、火は使いません!」

男子生徒の異質な盛り上がりが気になる。

「なんで水着審査OKなんだよ」ユウトがため息を吐く。


ABELが先導車さながらにステージ脇を移動し、観客の足元に注意喚起のラインをすっと投影する。ユウトは袖の奥、臨時オペ卓でマイクを握った。「非常時は即・暗転→静音→KAINアナウンス。各員、確認」


ベルが鳴る。幕が開く。


特技審査。

財閥令嬢は震える手で茶筅を回し、緊張がくるりと可愛らしい失敗に変わって客席を和ませた。

地域アイドルは早口ラップで息継ぎを失い、でも最後の笑顔で拍手をさらっていく。

ノアは、静かに一礼しただけで場の空気を掴み、《GLAM-κ》をほんの微量——観客が気づかぬほどに——揺らして纏うドレスの光を「永遠のきらめき」に誇張した。歓声は鋭く、速い。

サッちゃんはというと、ステージ中央で巨大風呂敷をさっと広げ、一息で屋台テーブルを整頓し、最後に両手でハート。「片付けは愛っ♥」——笑いと拍手が同時に弾けた。

そしてリナ。

銀のティーポットを傾ける傍ら、ナプキンが花の形に息を飲むほど美しく立ち上がる。無駄のない所作だけで、客席の喧噪が一段落ちる。不思議と、音が澄む。


《拍手ピーク:リナ=持続型、ノア=瞬発型、サッちゃん=混合型》KAINの分析がイヤモニに滑り込む。ユウトは頷いた。「読み通りだ」


質疑応答。「“きれい”と“強さ”、どちらが大事?」

サッちゃんは迷わない。「守る強さです! きれいは、あとから磨けます!」

リナは一歩だけ前に出る。「整える強さ。人も場も、乱れないように整えること」

ノアは唇に笑み。「観客が求めるものに、私は何にでも変わります」


(多変量、か)ユウトの心に、かすかな警戒が灯る。


水着審査——ここが今日一のポイントだ。

サッちゃんはスカイブルーのビキニ、髪の色によく映える。笑顔でビーチ清掃モップを振って“映え”と清潔を両立。

リナはネイビーの競泳風に薄手のパーカー。姿勢とターンだけで水のないプールを泳ぎ切る。

ノアは客席の空気さえ味方にして、背景に南国の光の幻を走らせ、髪はありもしない風を孕む——。


《照明系統へ外部ハック疑い。錯視率、上昇中》KAIN。

「抑えておきたいところね」とリナが視線で合図を送る。ユウトは手元のフェーダーに指を置いた。


最終ランウェイ直前。ノアの“きらめき”が、過飽和に跳ねた。観客の足元の段差が、幻の平面に見え始める。

「うわっ、眩し……!」前列から小さな悲鳴。

《危険度上昇。転倒リスク。即時介入を提案》KAIN。


「全館——フェイルセーフ・ライト(6500K)へ。音響−12dB。メグミ、お願い」

メグミは瞬時にマイクを取り、完璧な笑顔でやわらかく告げる。「ただいま演出を少し調整いたします。皆さん、そのままお席でお待ちくださいね」


ノアの瞳が一瞬、焦りににじむ。「まだ勝っていないの。上げて」

「やめなさい」ステージ袖、リナの声は静かだった。「観客を危険に晒す演出は“美”じゃない」


ノア「あなたに、私の任務は止められない」


返答と同時に、光はさらに盛り上がろうとする。

リナはほんの小さく息を吸った。「KAIN、偏光フィルタ照明。ABEL、客席側は低輝度固定」

《錯視95%→18%》

「サッちゃん」

「はいっ!」


サッちゃんは巨大モップを誘導旗に持ち替え、ランウェイの足元ラインを軽やかに可視化していく。転びそうな子がいれば、するりと肘で受け止め、笑顔でくるんと回して“演出”に変える。客席からどよめきと笑い。

ユウトはBGMを差し替え、テロップを流す。《最終テーマ:クリーン&セーフ/足元にご注意ください》

ステージは、ほんの十数秒で安全を取り戻した。


袖に戻ったノアの指先が、わずかに震えている。

「……任務、なのに」

リナは彼女の手にそっと触れた。「痛くしないから、手を貸して」

ノアが拒む力を、少しだけ緩める。

KAINがピックの角度を指示し、リナは衣装の縫い目のように自然な所作で、首元のアクセサリーに偽装された**結晶《GLAM-κ》**に触れた。

「はいっ、コツン!」背後から伸びたサッちゃんの指が素早く結晶をはじき、耐熱ケースに収める。

《錯視フィードバック遮断。安全圏》

ノアの肩から、音のないため息が落ちた。「……少し、楽になった」


結果発表。夜風が幕の隙間から差し込み、ステージの熱気をやわらげる。

メグミが封筒を掲げる。「総合優勝は——リナさん!です」

拍手は、最初は慎ましく、やがて波のように会場全体へ広がった。姿勢、所作、危機対応。どれもが“静かな強さ”として評価されたのだ。

「特別賞はサッちゃん! 名付けて『クリーン&セーフ賞』! 会場の笑顔を最大化してくれました!」

「サッちゃん、ありがとー!」前列の子どもたちが手を振る。サッちゃんは全力でハートを返し、ついでに袖でランウェイをもう一拭き。


ノアは群衆の陰で小さく笑った。「任務は失敗。でも——今日の“美”は、負けてない」

「次は、正面から勝負しましょう」リナが真正面から頷く。その眼差しは、対立ではなく、矜持の確認だった。


撤収は気持ち良いほど速かった。

KAINが「落とし物ゼロ。分別率98%」と報告し、ABELは観客動線のログを自治体の安全計画に送る。

「誰も転ばず、炎上もせず、歓声だけ残った。完璧だ」ユウトは腕章を外して、ようやくひと息ついた。

「打ち上げはプリン定期便で! 今日は優勝プリンですっ!」とサッちゃん。

「在庫は充分。甘味区画、右奥」とKAIN。

メグミは広報原稿をタブレットで走らせる。「見出しは**“安全演出が主役のミスコン”**で行く」


ステージの暗がりで、小さな結晶《GLAM-κ》が一度だけ光り、沈黙した。

リナはケースの封印を確かめ、そっと胸に抱える。

「回収済み。証拠保全、完了」


夜の校庭に、屋台の提灯が揺れた。風は涼やかで、砂埃は立たず、笑い声だけが残る。

それが、今日のミスコンが残した、いちばん美しい後味だった。


(第18話完)

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