サイドストーリー17 お屋敷まるごと避難訓練(スリル満点・仕様はサッちゃん)
――朝のダイニング。
トースト、黒こげ一歩手前。湯気は平和。いや、たぶん平和。
サッちゃん「ご主人様ぁぁっ! 本日避難訓練を実施しますっ!またお屋敷が暴れたら困りますからね」
ユウト「なんで拳を突き上げるんだよ。しかも朝イチで」
リナ「“訓練”の前に、そのトースト発火寸前よ」
メグミ「今日はのんびりしようって言ってたよね……?」
KAIN《注意喚起:屋敷内の一部改造が事前予告なく行われています》
ユウト「一部?」
KAIN《床・壁・天井・階段・庭を含む》
ユウト「それ全部じゃん!!」
サッちゃん「大丈夫です! 全部安全に配慮してありますっ(※サッちゃん基準)」
リナ「やな予感しかしないわね」
メグミ「一応、救急箱持っとくね」
【発令】シナリオA “キッチン出火(想定)”
KAIN《訓練アラーム発令。想定:キッチン微小火災。火元はトースター》
ユウト「“想定”のくせにピンポイントだな!」
サッちゃん「初動! ガス遮断、鍋蓋(大きめ)で酸素カット、水はかけない。リナさんは消火器(大さじ1噴射)!」
リナ「消火器に計量スプーンはついてないわよ」
メグミ「換気窓オープン、KAINは通報練習」
KAIN《119番へ訓練通報モード。音声練習だけ行います》
ABEL《ガレージで耐火モード待機。出動指示あれば“泡船”に変形できます》
ユウト「泡船!?」
サッちゃん「確認よし。では次の想定へ!」
ユウト「早っ! 片付けの想定は!?」
【発令】シナリオB “階段が突然滑り台”
KAIN《二階廊下:避難ルート切替。階段モジュール:スライダー化》
ユウト「勝手に階段が動くなーっ!!」
(ガコン)階段がつるつる滑り台に変形。上からポンチョみたいなお尻マットが自動配布される。
サッちゃん「座って足は前へ、押さないでスロースピードで!」
メグミ「スロースピードって何⁉」
リナ「摩擦係数の問題ね。上体を傾ければ速度制御できるわ」
ユウト「体で分かるの!?」
(シュバァァッ)
4人はすーーーっと一階へ。
KAIN《滑走成功。悲鳴:ゼロ》
ユウト「いや面白いけど非常時にアトラクション化やめて!」
【発令】シナリオC “回転本棚とクイズ防火扉”
廊下の本棚がクルンと回って道を塞ぐ。
扉にはプレート:『合言葉を言え』。
リナ「バカバカしいけど、訓練ならいくわよ。『押さない・走らない・しゃべらない・盛らない』」
(ピロン♪)
扉「正解:盛らない」
ユウト「そこだけ!?」
メグミ「この家の価値観、ちゃんと一貫してる……」
【発令】シナリオD “廊下に煙(安全なやつ)”
KAIN《視認訓練。無害スモークを低層に散布》
白い煙が足元からもくもく。視界が**30%**に落ちる。
サッちゃん「壁伝いで移動! 視線は前の肩、呼吸は吸って4、吐いて6!」
メグミ「一年生でも真似できるやつだ」
リナ「床に貼った点テープ、22.5°で斜め配置にしてる。人流が整うわね」
ユウト「今どこまで改造したか申告してからやってくれ!」
KAIN《補足:屋敷の曲がり角4箇所が回転式ミラーに置換。死角ゼロ》
ユウト「ホラー臭は増してる!」
【発令】シナリオE “スプリンクラー作動(なぜか紙吹雪)”
天井「パァン!」
――降ってきたのはきらきら紙吹雪とごく少量の水。
ユウト「これ消防署に怒られない?」
サッちゃん「本番はちゃんと水です! 訓練は盛らない笑顔重点!」
リナ「笑顔盛ってるわよ」
KAIN《滑りに注意。転倒リスク評価:大》
メグミ「じゃ、無音ウェーブで落ち着かせよう。せーの」
(全員でふわふわウェーブ)
ユウト「無音で盛り上がるのやめろって!」
【発令】シナリオF “庭へ避難 → ドローン火の鳥襲来(演出)”
庭に出ると、遠くからバサバサ音。赤いLEDをまとった演出ドローンが炎風の演技で接近する。
ユウト「出たなサッちゃんの趣味!」
サッちゃん「リアリティですっ♥」
リナ「風下確認、距離3メートル、低姿勢で前進。目は光源を直接見ない」
メグミ「子どもボランティア呼ぶなら、ここ最短にするのアリ」
(ヒュッ)ドローンが庭木に近づいた瞬間、
ABEL《迎撃“シャボン泡”発射》
――ポフン。ドローンが泡まみれになって大人しく着地。
ユウト「可愛く鎮火した!」
KAIN《ABELの過剰演出:許容範囲内》
ABEL《演出ではなく心です》
リナ「急にポエム」
【発令】シナリオG “集合場所・点呼・そして――”
庭の東屋が集合地点。
メグミ「1番!」「2番!」「3番!」と点呼、最後にユウト。
ユウト「全員! ……で、訓練終了でいい?」
KAIN《総評:遅延ゼロ、詰まりゼロ。ただし修繕ポイント多数》
ユウト「はい来た、現実」
サッちゃん「最後におさらいです!
押さない 2. 走らない 3. しゃべらない 4. 盛らない 5. 肋骨は守る」
ユウト「5だけ個人攻撃やめて」
――その瞬間、屋敷の中からピロリンとKAINの新着音。
KAIN《想定外イベント:トースターがほんのり本気》
全員「本気!?」
サッちゃん「実戦ですっ!」
リナ「窓、22.5°だけ開けて逆流防止。サッちゃん、蓋!」
メグミ「消火器は大さじ1じゃなく短押しね!」
ユウト「俺は通電OFF!」
(ダダダッ)
10秒後――
KAIN《鎮火確認。被害:パン1枚(中焼け)》
ABEL《献上:代替トースト、焼き目“微ゼロ”》
ユウト「お前が焼けるの!?」
サッちゃん「本番も完璧でしたねっ!」
リナ「“完璧”の定義は後で話し合おうか」
メグミ「はい、では記念の無音ハイタッチ」
(ぱふっ)
KAIN《なお、本日の修繕見積を表示します》
――ホログラムに並ぶ数字:屋内滑走路パッド再貼付/回転本棚潤滑/紙吹雪回収/泡処理……合計120万円。
ユウト「毎度このオチ!!」
サッちゃん「ご主人様、安全は無限の投資ですっ!」
ユウト「財布は有限なんだよ!」
リナ「では節約のため、紙吹雪は次回再利用」
メグミ「盛らない方向でね」
ABEL《次回提案:“夜間避難訓練・星見ルート”》
KAIN《承認保留。近隣苦情の可能性:中》
ユウト「もう少し静か目でお願いします……」
四人「(顔を見合わせて)無理!」
――笑い声が、朝比奈邸の屋根の穴(※いつもの)から青空に抜けていった。




