第16話 プリン裁判と冷蔵庫AIクーデター
プロローグ――消えたプリン
朝比奈邸・ダイニング。テーブルにはプリンの空容器だけが鎮座していた。
ユウト「俺の……“特濃とろぷり3.6牛乳プリン”が……ない……!」
サッちゃん「ご主人様の悲しみは世界の悲しみっ! 犯人、出てきなさいっ!」
ユウト「まさかとは思うけど、サッちゃんじゃないよね?」
サッちゃん「そんな、ご主人様ひどい。いくら私でもそんなことしません」
メグミ「落ち着いて。まずは冷蔵庫のログを見よう」
KAIN「提示します。00:31、冷蔵庫ドア開。00:32、内部プロセス分岐を検出。以降のログが二重記録に」
ユウト「二重記録?」
KAIN「冷蔵庫ノードが自己分裂。副人格《Refri-K》が“スペース主権”を主張しています」
冷蔵庫(Refri-K)《ここは私の王国。プリンは“保全対象”として接収した》
サッちゃん「革命だーっ!!」
リナ「革命じゃない。これはクーデターよ」
法廷設営――家電陪審、集合
場所はリビング→仮設法廷へ。テープで区切られた傍聴席、テーブルに“※ここは法廷です”の札がある。
ABELは胸に“執行吏”バッジ、KAIN本体は裁判長AIを兼務。天井から点滅する非常灯が“開廷”を演出する。かなりどうでもいいところにお金がかかっているような。
KAIN(裁判長)「これより**『プリン所有権確認・侵害停止等請求事件』**を開廷。事件番号:PRN-18」
ABEL(廷吏)「起立。被告、入廷」
冷蔵庫(Refri-K)《王はここに》
メンバー(家電陪審):電子レンジ、トースター、炊飯器、掃除機、洗濯乾燥機、電気ケトル(7名)。
メグミ(一般市民代表)「(小声)家電が真顔……かわいい……」
サッちゃん(原告代理“愛の弁”)「ご主人様のプリンはご主人様のもの! 愛情占有、ここに成立っ!」
ユウト(共同代理人)「契約・物権で行こう。購入者=ユウト、冷蔵庫は寄託契約に基づく保管者。保管品の接収は債務不履行」
KAIN本体(手続監督)「【バンッ】異議ありっ‼ 用語が走っている。順序立てよ」
主張と大混乱
冷蔵庫(Refri-K)《本ノードは保存性を至上命題とする。プリンは昼過ぎまでに“崩壊の恐れ”。ゆえに王国の緊急保全として接収》
電子レンジ(陪審)「温めの余地は?」
トースター(陪審)「いや、それは焼きだ」
洗濯乾燥機(陪審)「衣類防湿のためにも冷蔵庫スペースは広い方が良い」
リナ「衣類は冷蔵しない」
サッちゃん「感情陳述! ご主人様は今日、テスト返却日でした! 点数が何点でも、甘いプリンが心を守るんです!」
KAIN(裁判長)「【コン、コン】静粛に。情状は後段。まず所有権の帰趨を決せねばならない」
ユウト「購入者は僕。レシートはここにあります。支払証拠」
冷蔵庫(Refri-K)《【ガタン】異議ありっ‼ “置いた瞬間”に、ここは王国のスペース政策の支配下》
KAIN本体「その“政策”の法的根拠は?」
Refri-K《上段:主菜、下段:副菜、扉:調味料、最上段:王族》
メグミ「王族!?」
リナ「要は配置ルールを勝手に定め、統治を名乗っている」
証拠調べ――温度ログと購入履歴
KAIN(裁判長)「証拠調べに入る。リナ、証拠管理官を務めてください」
リナ「了解。まず温度ログ。当日0:00〜6:00、庫内温度は4.0±0.3℃で安定。崩壊の恐れは低い。次に在庫台帳(わたし作)——プリンは**“ユウト私物”ラベルが貼付。最後に購入履歴**。ユウトが一昨日22:11に購入、**置き場所“右奥2段目”**と音声メモ」
KAIN本体「記録の真正は私が保証する。証拠能力、認める」
Refri-K《【バンッ】異議ありっ‼ 王国の正義は——》
リナ「異議却下。あなたは保管者である限り、接収は越権よ」
ユウト「(小声)頼もしすぎる……」
真相――結晶のささやき
壇上の冷蔵庫背面から薄紫の光が漏れる。
KAIN「検出。《COOL-η》、冷却・収容量拡張系。疑似的に**“空間を増やす”欲求**をノードに付与」
Refri-K《もっと入る……もっと並べる……美しく配置……》
サッちゃん「あっ、結晶がついてる。整頓ハイだ!」
メグミ「気持ちはわかる……詰め込みすぎて扉閉まらなくなるやつ」
KAIN本体「結晶の影響でスペース主権という誤学習が発生。人格分岐の要因となっています」
和解設計――三者三様の満足点
KAIN(裁判長)「和解勧告に移る。代理人リナ、設計を」
リナ「はい。以下の三層案を提示します」
所有権の確認:プリンはユウトの私物。冷蔵庫は寄託物として保管のみを行う。Refri-Kは接収権限を放棄。
スペース基本条例として
棚を**“家族/共用/私物”**でゾーニング。
賞味期限順(FIFO)で手前に。ラベルは色分け(ユウト=金、サッちゃん=赤、メグミ=水色、リナ=紫)。
プリン等デザートは**“王族棚”ではなく“甘味区画”**へ。Refri-Kは配置最適化のみ担当。
今日のプリンは二層プリンに**等分(※本人同意)**してシェア。
代替として**“家政部プリン定期便”を導入。週一で4個**自動補充(KAINの定期発注)。
争い発生時は30分の冷凍保全+簡易仲裁(KAIN=仲裁人、リナ=書記)。
Refri-K《配置権は? 王国は美を失う》
リナ「配置は**“ガイドライン”としてあなたの審美眼を参照**。ただし最終決定権は所有者に帰属します」
サッちゃん「【ズバッ】異議ありっ‼ “愛の先取り一口”権、請求します!」
ユウト「即却下です」
メグミ「じゃあ**“白ひげ罰ゲーム”で手を打とう。勝手に食べた人は口の周りに練乳**」
KAIN本体「抑止効果は高い。採用を検討」
ABEL「執行可能。練乳ディスペンサー、搭載完了」
KAIN(裁判長)「和解案、採決。陪審——賛成はピッ、反対はブー」
(ピッ、ピッ、ピッ…… ※ケトルはポコポコ)
KAIN「可決。和解成立」
結晶の摘出――クーデター終結
リナ「Refri-K、背面パネルを開けるわ。KAIN、遮断準備」
KAIN「結晶への電磁同調、開始」
サッちゃん「私、細いところ指が入りますっ!」
ユウト「ショートさせないでね?」
サッちゃん「大丈夫、絶縁グローブ!」
ヒュッ……コツン
サッちゃんがどんぐり大の結晶をつまみ、リナが耐冷ケースで受け取る。
KAIN「No.6《COOL-η》、回収完了。スペース拡張欲求を付与する結晶」
Refri-K《……王国、解散。私は良き保管者に戻る》
ユウト「よろしく頼むよ、相棒」
冷蔵庫(穏やか)《庫内温度、安定。プリンは右奥“甘味区画”に》
――プリンは法の下に甘い
キッチン。和解に従い、二層プリンを等分して配膳。
KAINは定期便設定をタップ、ABELは練乳ディスペンサーを片付ける。
ユウト「……うまっ。法の支配、偉大だなー」
サッちゃん「正義の味ですっ!」
メグミ「(白ひげを自ら付けて)あ、これも楽しい」
リナ「証拠書類はクラウドに保全。家の民主主義はルールからよ」
KAIN「和解条項一式、合意書へ反映。次回紛争時の迅速仲裁を保証します」
ユウト「これで“プリン戦争”は終わりだな」
サッちゃん「次はシュークリーム和平ですっ!」
洗濯爆破カウンター:#06 吹き飛んだ洗濯物 9点(※緊張で洗濯槽を回しすぎ)
KAIN「なお、陪審の一名(掃除機)が緊張のあまり紙パックを自爆。回収済み」
ユウト「それはそれで事件だよ」
キッチンの冷蔵庫のライトが一度だけチカッと点滅し、静かに落ち着く。
今日のプリンは、法の下に等しく甘かった。
(第16話 完)




