サイドストーリー15「公園ピクニック:カモにエサをやるのは順番です」
日曜の朝。集合場所は市立公園の噴水前。
「ボランティア募集中」ののぼりが風にはためき、黄色いビブスが机の上に積まれている。
「はーい、今日のメンバーは――」
ユウト、サッちゃん、リナ、そしてメグミ。いつもは“段取り女王”の彼女も、今日はただの同級生ポジで腕まくりだ。
「KAINとABELは?」
「お休み。今日は機械なしの人力回です」
「了解。じゃあ今日は“静かに真面目に”……」
「むりですっ。やる気大さじ1、もう溢れてますっ!」
「すでに盛ってるよ!? “盛らない”が家訓でしょ!」
ごみ拾い訓練:角度で分別
担当スタッフから軍手とトングを受け取り、作業説明を受ける一行。
「――危険物は無理せず呼んでね。拾ったら燃える/燃えない/資源。以上!」
「はいっ。角度忘れずにっ!」
サッちゃんがやる気ビームを放つ。
「角度?」とスタッフが首を傾げる間に、リナが淡々と説明する。
「22.5°でトングを差し入れると、落ち葉とプラが押さずに分かれるの」
「へぇ……プロ……?」
実演。
サッちゃん「落ち葉、横滑り……ペットボトル、真上キャッチ……キャップは大さじ1回転で外すっ!」
メグミ「おお、手が覚えてる」
ユウト「単位のクセ!」
ちびっ子ボランティアたちも集まってきて、いつの間にか列ができる。
「隊列を作ると袋が回るよー」
リナの一声で、子どもたちが前から順に袋へ“ポイ”。
「できた!」「たのしー!」の声が芝生で跳ねた。
空飛ぶビニール袋
突風。ベンチの下からビニール袋がふわっと浮いて、池の方へと泳いでゆく。
「やばっ、カモのところに行く!」
「走らないで最短、風下に回る――行くわよ」
リナが短く指示、サッちゃんが急いで前へはねていく。
帽子の影で空気をやわらげ、ビニールの軌道がふわっと鈍る。
リナがすっと指先で挟み取り、無音回収。
「わぁぁ!」子どもの拍手(小)。
「押さないで待つ。風は使うのよ」
「リナ、今日カッコよすぎない?」
「五十点」
「自分にも厳しい!」
カモ餌やり:順番の魔法
池のまわりに子どもたちと保護者、そしてカモ軍団が集まってくる。パンを握ったちびっ子がそわそわ。
「順番にあげようね」
メグミが手を挙げるけど、わちゃわちゃで誰にも届かない。
そこでサッちゃんが、芝生にパンくず点線をちょんちょん――一羽ぶん間隔の目印を作りはじめた(※スタッフ許可済み)。
奇跡。カモたち、点線に沿って整列。
「すごっ」「写真撮っていーい?」と周囲がざわつく。
リナは子どもたちにパンを大さじ1ずつ配り、「押さないのよ、前の人の肩横で待つの」と身振りで教える。
「じゃ、1番さんどうぞ」
ちびっ子がパンを差し出すと、カモがぱく。
「2番さん、どうぞ」
順番カードの列がするする進む。
最後尾の子が、前の子に小さく言う。「どうぞ」
前の子が振り返り、照れ笑い。「ありがとう」
ユウト(小声)「――譲る間合いって、こういう顔に出るんだな」
ピクニック:大さじ1の余白
作業後は昼休み。レジャーシートを広げ、みんなでお弁当。
「今日は“盛らない”練習中だから、一段弁当」
「了解です。大さじ1ずつ、心に配膳っ!」
開けると、白いご飯、タコさんウィンナー、卵焼き、赤いミニトマト――余白がちゃんとある。
「え、うまそう。てか余白うつくし」
「呼吸できる配置ってこういうことよ」
サッちゃん、自分用の唐揚げを手にカモを見つめる。
「……これは人間用です……」
「戦ったな今」
“遊び”の時間:人気爆発ふたり組
食後、遊具エリアへ。
子どもたちに囲まれるのは当然のようにサッちゃんとリナ。
「お姉ちゃん、逆上がり教えて!」
「任せてくださいっ!」
鉄棒に向かって全力ダッシュ――の一歩手前で、リナが襟をつまむ。
「走らない。助走二歩。手は肩幅、蹴りは大さじ1だけ強く」
サッちゃん、模範演技。くるっ。
子どもたち「おぉぉ!」
つづく小学生もくるっ。さらに歓声。
「できたー!」
サッちゃんは上出来ハイタッチ、でも微ゼロで静かに。
「お姉ちゃん、なわとびの“二重とび”!」
「隊列! 一人ずつね」
リナが縄を持ち、一定リズムで回す。
「はい、今――はい、今」
タイミングの魔法で、成功者が続出。
メグミは隣で子どもの靴紐を**22.5°**で結び直し、ちびっ子に「ありがとう」とぺこりされて照れる。
ユウトは端っこで見守り係。
(……人気、全部もってくなぁ……でも、悪くないな)
ちょっとしたハプニング:すべり台渋滞
すべり台の上に渋滞が。下でちびっ子が詰まっている。
「ここも順番で解消しよう」
メグミが階段の手前で手を広げ、合図。
リナが上で「合図が出たら滑る」を説明し、サッちゃんが下で着地補助。
階段の途中に小さな点線をつけたら、列が自然に一人分の距離になる。
「せーの」
すいーっ、すいーっ。
渋滞、解消。
「ワンカットOK……じゃない、今日は監督じゃないんだった」
メグミが口を押さえて自分にツッコミ、みんなでクスクス。
夕方:ベンチの色は盛らない
帰り際、公園スタッフに声をかけられる。
「よかったら、塗料の色見本、ちょっと選ぶの手伝ってくれない?」
ベンチ塗り替えの相談だ。
色見本は派手色がずらり。
「派手は映えるけど飽きる。ここはグレイッシュなグリーン。木陰と喧嘩しない“地味な正解”よ」
リナの一言で決まる。
「じゃ、決まり。助かったよ!」
「盛らない美学、また勝ってしまいましたねっ」
「勝ち負けの話じゃない」
KPI(今日の成果)とごほうび
解散前、スタッフが本日の結果を読み上げる。
「拾得ゴミ:レジ袋14、缶11、ペットボトル9、落とし物:帽子1(持ち主に返却)。クレーム:0。カモの混乱:0。ありがとね!」
子どもたちから「ありがとうございましたー!」とおじぎの列。
サッちゃんとリナはモテモテで写真せがまれ、ユウトは「撮ります撮ります」と保護者のスマホを渡り歩く。
メグミは最後尾で、照れくさそうにピース(**22.5°**傾け)。
「今日の採点は?」
「五十点」
「出たぁ!」
「“ビニール風下キャッチ”で**+二十**、“カモ順番魔法”で**+二十**、地味な正解で**+十**。一〇〇点」
「やったーー!」
スタッフから配られる小さなチケット。
「売店のアイス券、ひとり一枚ね。大さじ1の幸せだから」
「単位ブレないの助かる」
ベンチの上でアイスをなめながら、夕焼けに染まる池を見る。
カモたちはもう整列を解き、好きな方向へ泳いでいく。
それでも、子どもたちはちゃんと順番でバイバイして帰っていく。
ユウトは小さく笑って、心の中でメモした。
(押さない・待つ・譲る。たったそれだけで、街はいくらでも“暮らしやすく”なる)
――そして明日、きっと誰かがどこかで、大さじ1だけ優しくなる。




