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サイドストーリー13「プール掃除は水鉄砲で」

「本日の任務――学校プール清掃ボランティア。目的は“藻と水垢の平和的殲滅”。手順‐1、心を折らない。手順0、走らない。手順1、高圧洗浄ノズルは置いていく」


 KAINのブリーフィングが朝の廊下に響いた。サッちゃんは背筋を伸ばし、拳を胸に。


「任務了解ですっ! 本日は水鉄砲兵装のみで遂行いたします!」


「その“のみ”の言い方が一番こわいんだよな……」

 ユウトは苦笑しつつ、学校の許可証と作業手順書を鞄にしまう。メグミは日焼け止めと帽子、冷凍ペットボトルを人数分。


「給水は“待つ”の一部だからね。忘れないこと」


 リナは帽子のつばを指で整え、扇子を軽く振る。「**角度22.5°**でブラシ。圧ではなく、面で落とすの」


 正門前に止まったABELがドアを開く。

《送迎開始。BGMは“夏の校庭Lo-Fi”。荷台:水鉄砲×6、デッキブラシ×4、バケツ×4、重曹(大さじ付属)》


1 プールサイド、作戦会議


 体育倉庫の前に、用務員のシバ先生と体育の田所先生(生徒からは“タドコロッチ”)が腕を組んで立っていた。プールはまだ水が張られていない。白い壁面に、冬の間のうっすらした水垢とコケの線。


「おー、朝比奈。今日はありがとう、助っ人連れてきたのか」

 田所先生は胸を張る。「今日の目標、“爆破ゼロ・転倒ゼロ・苦情ゼロ”。以上」


「その三ゼロ、すばらしいですっ!」


「あと、“高圧厳禁”。去年、誰かがやらかしてタイルを剥がしてな」

 先生の視線がほんのりこちらに刺さる。ユウトは慌てて両手を振った。


「き、今日は道具確認済みです!」


 持ち場が割り振られる。

・A班(壁面上段):サッちゃん&リナ――ブラシ+重曹ペースト

・B班(床面&排水溝):ユウト&メグミ――デッキブラシ+網すくい

・C補給:KAIN&ABEL――給水・BGM・日陰確保


《補給所設置完了。日陰テント角度**22.5°**で風を捉えます。給水タイマー20分周期セット》


2 重曹ペースト、“大さじ1”の儀


「水垢はアルカリでいくわ。重曹:水=1:1、大さじ1から始めるの」

 リナが器用にペーストを作り、壁の“スカムライン”にのせていく。


「待つのですか?!」

「3分。待つうちに柔らかくなる」


 サッちゃんは時計を見つめ、真剣に頷いた。「待つ=守る……!」


「その間に、ブラシの毛先を立てない練習。微ゼロで触って、滑らせる」


 3分後――

「いきますっ!」

 サッちゃんのブラシが面でスーッと走る。ザラつきが、筋肉でも力でもなく、角度と待ちで消える。


「落ちた……! 角度22.5°、最強ですっ!」


「言い方が物騒」


3 底面清掃:隊列とリズム


 B班は床のタイルを縦に4列に分割。ユウトが「右・右・左・ぽん」のリズムを提案する。


「“ぽん”いらなくない?」

「気持ちの問題!」


 列は隊列を崩さず前進。メグミが落ち葉を網で集めながら、ゴミ袋に仕分けする。


「葉っぱは濡れたまま袋に入れると臭うから、水切りしてからね」


《隊列保持率:92%。笑顔指数+0.14》とKAIN。


「サッちゃん、そっちはどう?」

「待ちを守れました! そして――給水を忘れません!」


《ピロン》

《給水タイムです。吸って4、吐いて6。日陰で座って、30秒》

 ABELのスピーカーから、やさしい子守唄。サッちゃんはペットボトルを抱き、素直に腰を下ろした。


4 “水鉄砲兵装”、展開


「壁の高いとこ、届かないね……」

 メグミが見上げる。脚立はあるが、無理はしない。


「そこで――水鉄砲ですっ!」


 サッちゃんが胸ポケットから、学校支給の安全水鉄砲(出力は“微ゼロ~小”のみ)を抜く。


「ペーストを狙って“ふやかし”だ。角度は放物線、**22.5°**基準」

 リナが指示を飛ばす。


 しゅっ、しゅっ――

 水の帯が白い壁をなで、ペーストがすっと溶け、タイルは新しい肌色を取り戻す。


「非戦闘で勝てます……!」

「何と戦ってるのよ」


5 小事件:排水溝の謎


「ん?」

 ユウトの足元で、排水溝のフタがガタッと揺れた。覗くと、中に何かが引っかかって水が流れにくい。


「棒でつんつんは、やらない。道具借りよ」

 メグミが用務員室からL字フックを借りてくる。

 リナが姿勢を低くし、「**22.5°**で引っ掛けて、持ち上げないで横にずらす」


 コトン

 出てきたのは、去年の夏祭りのプラのヨーヨー。


「かわいそうに……ここで一年眠っていたのですね……」


《無理抜き回避:成功。破損:ゼロ》

 KAINが静かに記録した。


6 水風船フラグ、発動


 作業は順調に進み、休憩タイム。そこへ、後輩たち(清掃ボランティアの1年)がカゴを抱えて登場した。


「先輩、水風船持ってきました! “やる気アップ”用です!」


「おい待て、それは危険――」

 ユウトの制止より早く、1年たちは目を輝かせる。


「訓練にしましょう」

 リナがすっと立ち上がる。「ルールは3つ。走らない、投げない、狙わない。水鉄砲で“的倒し”。的は――ほら、空バケツ」


「了解! 非戦闘演習!」


 KAINが即席で的を並べ、ABELがBGMを上げる。《“夏の水音・無邪気リミックス”》


「先攻、サッちゃん隊!」「後攻、1年隊!」


 しゅっ、しゅっ――

 水鉄砲の細い水流が22.5°でバケツの側面を叩き、共鳴でカタリと揺らす。

 メグミは「風下に立たない」座学。ユウトは「補給は声かけ」係。1年は声出しで場を盛り上げる。


「サッちゃん、呼吸!」

「吸って四、吐いて六――命中っ!」


 カラリ。

 白いバケツが倒れ、拍手が弾ける。水しぶきは低く、床は滑らない。


《しぶき指数:適正。転倒リスク:低》

「ゲーム、終了」

 リナの一声で、子どもたちは素直に整列した。

「遊びは終わり。片付けまでが任務」

「はいっ!」


7 仕上げ:鏡面仕上げと“待つ”の締め


 最後の壁面。サッちゃんは重曹:大さじ1を丁寧にのせ、3分砂時計を見つめる。

 ユウトは排水口の周りを面で磨き、メグミは網でプールの角に潜む葉を静かにすくう。


「吸って四、吐いて六……今」


 ブラシが走り、白が広がる。タイルが、夏の光を正しく跳ね返した。


「……きれい」

 メグミが帽子のつばを上げる。

「角は外、面は揃える」

 リナの言葉が、今日の作法を締めた。


8 監督の判定とご褒美


 田所先生が腕を組み、ふん、と鼻を鳴らす。「よし。三ゼロ達成。今年は気持ちよく泳げる」


「ありがとうございますっ!」


 シバ先生が差し出したのは、棒アイスの箱。「熱中症対策って名目。一本ずつ、持っていきな」


「こういうの、効果100%です……!」

 サッちゃんはアイスを**角度22.5°**で眺めてから、かじる。甘さと冷たさが、汗の道を逆流して、脳に旗を立てた。


《本日の記録――スカム除去率:98.7%/転倒:0/破損:0/苦情:0/給水遵守率:100%/笑顔指数:+0.91》

《BGM終了。送迎に移行します》


「勝った……!」

 ユウトが空のバケツを重ね、達成感を噛みしめる。

「“待つ=守る”、ちゃんと守れたね」

 メグミが笑う。


「はい! そして、水鉄砲は兵器じゃない。清掃器具ですっ!」


「言い方」

 リナが扇子で頬を扇ぎ、目を細める。「でも、今日は五十点じゃない。七十五点」


「上がった!?」


 笑い声が、乾いたタイルに反射して空へほどけた。

 夏の光は少しだけ傾き、プールから伸びる影は、去年よりもずっと、清潔でまっすぐだった。



 ――こうして、朝比奈チームの夏は、爆発ゼロのまま一段階、涼しくなった。

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