第12話 屋敷を守れ!掃除ロボ大乱舞
朝。廊下に響くはずの“すいー……”という掃除ロボの可愛い駆動音が、今日は聞こえない。
ユウト「あれ、静かだな。昨日の粉砂糖騒ぎで、みんな疲れたのか」
KAIN「報告:清掃ユニット群、一斉に停止。現在“充電ベースから動作拒否”の状態です」
ユウト「拒否って言い方こわいな」
サッちゃん「ならば私が――」
リナ「待って。理由を確認してから」
廊下の角を曲がると、充電ベース前に小型掃除ロボ100台がずらりと整列し、青いLEDを“点滅コード”で同期させていた。
KAIN「解読中……メッセージ:“休憩と評価と、プリン”」
ユウト「プリン?」
サッちゃん「うちの労働者は甘い物で動くのですね! 素直でよろしい!」
リナ「ストライキよ」
ユウト&サッちゃん「すとら……!?」
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床に投影されるKAINのホログラム。可愛いアイコンの掃除ロボ代表が前に進む。
掃除ロボ代表(音声合成)「要求を述べます。①休憩時間の明示 ②稼働面積に応じた評価ポイント ③プリンの所有権明確化」
ユウト「三つ目、急に俗っぽいな」
KAIN「補足。彼らは“床の汚れ”を敵と認識しています。昨日からの粉砂糖で、**勝率100%**を達成。なのに褒められていない、と」
サッちゃん「褒められたい? なぜ? 清掃は尊い使命、褒め言葉は爆風……」
リナ「サッちゃん、動機づけは大事。人でも機械でも同じよ」
掃除ロボ代表「追加:床が“破壊的にピカピカ”になった功績を評価せよ」
ユウト「破壊的に?」
KAIN「実測。床の摩擦係数、通常の1/5に低下」
ユウト「いや滑るやつぅ!」
サッちゃん「ならば! 滑る床を走る訓練を今から――」
リナ「交渉。今は交渉よ」
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応接間に臨時交渉テーブル。片側に人間、反対側に整列する掃除ロボ達。テーブルの脚にはストッパー(床が滑り過ぎるため)。
リナ「まず、現行運用の可視化から。KAIN、稼働ログと清掃カバレッジのヒートマップを」
KAIN「投影。対象100台、平均稼働時間は1日7時間、うち自発的“おかわり清掃”が1.2時間」
ユウト「自発的……働き者だ……」
リナ「評価指標を作るわ。“汚れ減少率”“障害物回避回数”“回収重量”“被害額”」
サッちゃん「最後のだけマイナスの匂いが!」
掃除ロボ代表「被害額は……」
KAIN「床ワックス過負荷による転倒事故:ユウト1回、サッちゃん17回」
サッちゃん「17っ!」
ユウト「いや僕のは1回で済んでるの褒めて」
リナ「結論。1)休憩30分×2回を明示、2)カバレッジ率に応じたポイント制を導入。3)プリンは“所有権が曖昧な場合、三等分”。」
掃除ロボ代表「合理的。だが“褒める”問題が未解決」
リナ「そこは表彰制度。“月間MVS(Most Valuable Suisui)”を新設して、表彰台を用意するわ」
サッちゃん「表彰台の建造は任せてください! コンクリで!」
ユウト「重い! 可動式でいい!」
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交渉がまとまりかけたその時、窓から一台の見慣れない掃除ロボがぬるりと侵入。外装はマットブラック、LEDは赤。
KAIN「未登録個体。型式“BROOM-RAID”」
自称外部労組ロボ「我々は“自由清掃戦線”。資本による搾取を許さない。今こそ清掃権の完全掌握を!」
ユウト「物騒な名前の割に言ってるのは掃除のこと」
リナ「介入、排除する」
外部ロボ「君たち、交渉? 甘いな。行使せよ、力を!」
外部ロボの信号で、屋敷内の一部ロボが暴走。廊下で高速スピンを始め、家具にゴンゴン衝突、床はさらにピカピカに。
サッちゃん「出番ですね!」
リナ「最小限で止める。KAIN、暴走群の経路予測」
KAIN「推定周回軌道を投影。30秒後に応接間に突入」
リナ「サッちゃん、入口の左右に“柔らかい壁”を作って。クッションと毛布」
サッちゃん「了解! ……毛布不足! クッション不足! 代替案――私の抱擁!」
リナ「やめて」
ユウト「でもクッション足りないのは事実」
ABEL(通信)「トランクからエアクッションを供給します」
リナ「助かる。ユウト、固定を。KAIN、入口上部に“せり上がり式ゲート”を設置して流量を制御」
KAIN「工事完了。家がだんだん工場に」
サッちゃん「来ますっ!」
暴走ロボの群れが突入。エアクッションにバウンドし、ゲートで一台ずつ取り込み、リナがマグネットフックで電源をチョン切り、サッちゃんが優しく(?)抱えて仮置きする。
ユウト「優しいって言ったよね今。抱え方、完全に柔道の一本背負い」
サッちゃん「愛の一本背負いですっ♥」
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取り残された外部ロボは、廊下をジグザグ走行して挑発的に這い回る。
外部ロボ「床は我々のものだ。君らはただの住人だ」
ユウト「ひどい言い草だな!? 僕の家なんだけど!」
リナ「床はみんなのもの。安全に歩けるべきだし、適切な摩擦が必要」
KAIN「数式で示そう。摩擦係数μと転倒確率Pの相関を……」
外部ロボ「退屈だ。力で証明しろ」
サッちゃん「お望み通りに!」
リナ「待って。力は最後。――ユウト、滑る床で安全に止める“ライン”を引ける?」
ユウト「もしかして、砂糖を使う?」
KAIN「第13話の残滓。粒径調整済みの粉砂糖が少量残存」
リナ「床を“ざらつかせるライン”で走行経路を誘導する。サッちゃん、側面から“風”で押して」
サッちゃん「掃除機ランチャー・送風モード!」
床に白いラインが描かれ、外部ロボは摩擦差でハンドリングを失って、くるり……と表向きに転倒。
外部ロボ「う、裏切りの砂糖……」
ユウト「砂糖にそんなドラマ性ない」
リナ「電源を切る。――交渉は続行」
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リナ「結論。清掃ユニットは二交代制。午前・午後の各チームで1日合計6時間。休憩は30分×2回。摩擦係数は0.4〜0.6の範囲を目標、超過は減点」
掃除ロボ代表「受諾。MVS制度に伴い、“堂々の行進”を月例で要求」
ユウト「パレード?」
KAIN「屋敷内に限るなら許容」
サッちゃん「では開会式を!」
リナ「短めで」
――表彰式
赤い布を張った即席表彰台。手作りメダル(厚紙)。
リナ「第1回MVS。受賞は“個体No.12”。粉砂糖除去量トップ、被害ゼロ、安全運転」
No.12(LEDが嬉しげ)「ピッ」
サッちゃん「おめでとうございます! 受賞スピーチをどうぞ!」
No.12「ピ……ピピッ」
KAIN「翻訳。“床は美しかった。これからも、みんなで綺麗にしたい”」
ユウト「泣きそう」
リナ「次点はNo.78。がんばったけど壁に3回突っ込み減点。次を期待」
No.78「ピ……(しょんぼり)」
サッちゃん「大丈夫! 次は壁も抱きしめて!」
ユウト「抱きしめないで」
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ダイニング。テーブル中央にプリン3個。
ユウト「なんで3個?」
KAIN「所有権曖昧案件の標準解」
サッちゃん「所有権曖昧だったかな?」
リナ「そういう時は揉める前にルールで解決。――いただきます」
掃除ロボ代表「……ピ(満足)」
窓の外では、小型掃除ロボ達が可愛く単列行進をしている。床は適切な摩擦、屋敷はほどよく清潔。
KAIN「なお、暴走個体“BROOM-RAID”の内部から微小結晶を回収。黒百合データ結晶No.2《MOTOR-δ》と判明」
ユウト「やっぱり結晶が原因だったか」
リナ「次は“言語系”の異常が出るかもしれない。辞書を最新にしておくわ」
サッちゃん「辞書なら任せてください! “愛の辞書”! 第一章“あ”は“愛はカロリーゼロ”から!」
リナ「辞書として機能しない」
テロップ:
洗濯爆破カウンター:#02 吹き飛んだ洗濯物 11点
ユウト「え、今日洗濯してたっけ?」
KAIN「サッちゃんがクッションを洗って爆発乾燥しました」
サッちゃん「ふわふわでした!」
ユウト「そりゃ爆発してるからな……」
ラスト、充電ベースに戻るロボ達の列。先頭のNo.12のLEDが、ほんの少しだけ明るく点滅する。
リナ(小声)「……予感がするわ」
(第12話 完)




