第8話「メイドと洗車と豪雨警報!」
──朝比奈邸・ガレージ裏。午前10時。
ユウト「はぁ……天気、良すぎだろ」
快晴。青空の下、屋敷のガレージにはABELの車体がきらりと光っていた。
傍らでホースを構えるユウトの後ろには、例のテンションMAXなメイドが仁王立ちしていた。
サッちゃん「ご主人様ぁぁぁっっ!! 本日は洗車任務ぅぅっです!!」
ユウト「そんな全力で叫ぶことじゃないからな!? ただの洗車だから!!」
サッちゃんは何故か上下セパレートの“洗車戦闘スーツ”に着替えていた。背中には“爆発厳禁”のプリント。
しかも腰にはバケツ3つ、謎のボトル、モップ、そして……パイルバンカーみたいな高圧洗浄ノズル。
サッちゃん「汚れは敵です! 全面排除しますっ♥」
KAIN《注意:高圧洗浄装置の出力が“推奨限度”を超えています》
ユウト「頼むから、今回はマジで“洗う”だけにして……!」
サッちゃん「お任せください! 本日は“非爆発”誓約モードで起動しております♥」
KAIN《誓約モード:信頼性 27%》
ユウト「低ぅ!!」
リナ(屋敷のバルコニーから見下ろし)「……本当に洗車だけで終わればいいけどね」
メグミ(同じく)「最近、平穏だった日は無い気がする……」
──その時、ABELからの通信が入る。
ABEL《ユウト様、洗車の際は車体表面の“感情センサー”に注意してください》
ユウト「感情……? 車なのに……?」
ABEL《はい。過剰な刺激には“情緒的反応”を示します》
ユウト「マジで!? 俺、車にも気を遣う日々なんだけど!?」
________________________________________
________________________________________
──午前10時半。洗車開始。
ユウト「まずは軽く水をかけて……」
《シュシュシュッ……》
ホースのシャワーで車体に水をかけるユウト。晴天の下で光るABELは、まるで誇らしげにボディをきらめかせている。
ABEL《水温26度、理想的です。とても気持ちいいです、ユウト様》
ユウト「車に褒められるって何だこの状況……」
サッちゃん「お次は泡のステージですっ♥ いざ! “洗車フォーム・マキシマムバブルモード!!”」
《ぶしゅうううっっ!》
巨大泡発生器から、もこもこの泡がABEL全体を包み込む。
メグミ(窓越しに観察)「……なんかもう遊園地のアトラクションみたいになってない?」
リナ「サッちゃんに“限界”という概念はないのよ」
サッちゃん「次は“手洗い攻撃”で徹底的に洗いますっ♥」
《ズバッ ズバッ ズバッ!!》
左右同時にブラシを振り回し、超高速で磨き始める。洗うというより「闘っている」。
ユウト「サッちゃん! 車を磨く時は優しくって言ったろ!? それ、格闘技になってるから!!」
サッちゃん「心を込めれば拳圧も優しさに変わるのですっ♥」
ABEL《車体振動感知。現在の愛情係数:混乱状態》
ユウト「ABE〜Lぅぅ!? すまん、耐えてくれぇぇぇ!」
──その瞬間、空に黒い雲がふわりと現れる。
KAIN《警告:局地的雷雨の予兆を検出。20分以内に通過予定》
ユウト「うわっ、ちょっと! 今洗ってんだけど!?」
メグミ「まさかの雨……」
サッちゃん「ふっ……雨ごときにこの洗車魂が負けると思ってるのですかっ♥」
リナ「負けるとかの話じゃなく、意味がなくなるでしょ」
________________________________________
──午前10時45分。
空が唸り、突如、空気が一変する。
《ゴロゴロ……パァァァァンッ!!》
KAIN《降雨開始まで残り3分。降水強度:局地的豪雨レベル2。雷注意》
ユウト「えっ……マジで来るの? このタイミングで!?」
メグミ「洗車中にこれは……逆にすごいかも」
リナ「まぁ、あのサッちゃん相手に“敵”になるのは雷くらいじゃない?」
サッちゃん「ご安心くださいご主人様! 雨? 雷? 上等ですっ!!」
《カッ!ゴロゴロゴロ……ザァァァッ!!》
ついに豪雨が始まる。
大粒の雨がABELを襲い、せっかくの泡が流れ落ちていく。
ユウト「うわああああっ、全部流れてるー! 泡が……! 努力が……!」
ABEL《洗浄度:現在47%。以後の手洗い作業は非推奨です》
サッちゃん「こうなったら最終奥義ですっ! 『雷雨対応・洗車戦闘術【閃電掃法】』!!」
ユウト「そんな技あんの!?」
《ゴゴゴゴゴ……バチバチッ……!》
サッちゃんがタオルを両手に構え、電撃スレスレの雷雨の中を“超高速拭き取り移動”で駆け抜ける!
リナ「いや、それただの危険行為よね!?」
メグミ「タオルが……光の残像になってる……!!」
ユウト「お前、命かけて洗車するなよぉぉ!!」
──そのとき、上空に雷が走る!
《パアァァァンッ!!》
ABEL《雷接近。回避行動を提案します》
KAIN《サッちゃんの現在位置:洗車場上空──危険レベルA》
ユウト「サッちゃん!! 危ねぇぇぇ!!」
《ドンッ!!》
空からの雷光が落ちる直前、ユウトはサッちゃんに飛びかかって──
《ガッシィィィ!!》
間一髪、抱きかかえて屋根下に飛び込んだ。
サッちゃん「ご、ご主人様っ……!?」
ユウト「バカっ……! お前、死ぬ気かよっ!」
サッちゃん「わ、私は……ご主人様に喜んで欲しくて……! ちゃんと、ピカピカにしたくて……!」
ユウト「ピカピカで感電死とかシャレにならねぇよ!!」
メグミ(胸の奥が、なんかズキッとした……)
リナ「……ふふ。あの子、ほんとにバカね。だけど──」
KAIN《洗車作業:強制終了。最終記録を保存します》
ABEL《洗浄度:最終評価A−。感謝します。とても気持ちよかったです》
ユウト「……ま、結果オーライ……かな」
サッちゃん「……うぅ、失敗ばっかりですみません……」
ユウト「……ありがとな、サッちゃん。気持ちは、すげぇ伝わったよ」
サッちゃん「ごしゅ……じんさまぁぁぁっ♥」
《バシィィィィィンッ!!(※ハグが強すぎた)》
ユウト「ぐえぇっ……! 肋骨……!」
___________________________________________________________________________
──午後1時すぎ。
雷雲は遠ざかり、屋敷には静けさが戻ってきていた。
ユウト「ふぅ……嵐のあとって、やけに静かに感じるな……」
KAIN《天候:晴れ間回復中。なお、洗車場天井の焦げ跡は手動での修繕が必要です》
ABEL《タオル:5枚使用不能。水飛沫による跳躍軌跡、奇跡的に“ハート型”を形成》
メグミ「まさか洗車だけでここまでドラマになるなんて……」
リナ「ユウト、服、びしょ濡れよ。着替えてきたら?」
ユウト「あ、うん……てか、風邪ひく前に……」
《ユウト退場》
──残された女子3人。
メグミ「……さっきの見た? サッちゃん、すごかったね」
サッちゃん「いえ……結果は散々で……車はピカピカになりませんでしたし……」
リナ「でも、ユウトの顔、見てみなさい。あれ、満足してた顔よ」
メグミ「うん。……少し悔しいくらいに、ね」
サッちゃん「えっ?」
リナ「メイドとして、いや、“女”としても。あれだけ真っ直ぐにぶつかられたら──ちょっと、ね」
サッちゃん「そ、そんな……わたしはただ、ご主人様に“ありがとう”って言われたくて……」
リナ「十分じゃない。あなたの洗車は失敗だらけ。でも──」
メグミ「心だけは、たぶん100点満点だったと思う」
サッちゃん「……っ!!」
KAIN《感情指数:上昇。サッちゃんの心拍数、過去最高値》
ABEL《水分摂取推奨:喜びのあまり脱水症状懸念》
サッちゃん「ご、ご主人様ぁぁ……!! 次こそは、本当に完璧な洗車を……!」
《ズズズズズ……(※決意によるオーラ発生)》
リナ「やれやれ……また次回も大惨事ね」
メグミ「……あの車、あと何回耐えられるかな……」
________________________________________
──その夕方。
屋敷の浴室前。
《ガチャ》
ユウト「ふぅ〜……やっと温まった……」
《ギィ……(ドアが開く音)》
サッちゃん「お風呂、おつかれさまですっ♥」
ユウト「って、なんでそこにいるの!? 今出てきたばっかなんだけど!?」
サッちゃん「湯上がりの水分補給として“サッちゃん特製牛乳”を用意しましたぁ!」
ユウト「えぇ……なんか怪しい……(でもうまいんだよな、こういうときの牛乳って)」
《ごくっ》
ユウト「……うん、冷えててうまい。ありがとう」
サッちゃん「っ……♥」
(※なぜか瞳が潤んでいる)
サッちゃん「今日は……その、私……ご主人様の“お役に立てて”ましたか?」
ユウト「……うん。今日は──すごく助かったよ。ありがとな」
《なでっ》
サッちゃん「……っ!!! ご主人様ぁぁぁっ♥♥♥」
《バァンッ!(※ハグ)》
ユウト「肋骨っ……さっき直ったばかりなのにぃぃ……!」
KAIN《警告:ユウト様の骨強度、今月の耐久限界に接近》
ABEL《ご安心を。次回は“骨サポートモード”を導入予定です》
________________________________________
KAIN《次回、「生活指導の鬼襲来!サッちゃんと反省室の攻防」》
ABEL《爆発率:過去最大級。非常ベルと“謎のカウンセラー”が響き渡る──》
サッちゃん「やりますっ! 生活指導だって、筋肉と愛で解決ですっ!!」
ユウト「それ、指導される側のセリフだろぉぉぉ!!」
【第8話・完】




