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17話

 祖父に会いたい旨の手紙を出すと、すぐさま返事が返ってきた。

 というか本人がそのまま来た。


「あの、お忙しいのではないですか?」


 来てもらえるのはうれしいけど、祖父とて暇ではないはずだ。そう思ったのだが、祖父はまるで気にしていない。


「孫娘に呼ばれたのならば、他のことなど全部些事よ」


 きっぱり言い切られ、ソニアは苦笑いを浮かべるしかない。

 祖父を応接間に通すと、向かい合わせにソファーに座る。侍女に紅茶を用意してもらうと、まず祖父のほうから口火を切った。


「色々あったようだな、もう問題ないのか?」

「はい、もう大丈夫です」

「フォースター公爵から色々と聞いている。その…魔法も、もう使えると。そうなのか?」

「はい。お見せしますね」


 そう言うとソニアは手に魔力を込め、手のひらに小さな氷龍を顕現した。

 手のひらサイズのそれを宙に浮かべ、手の周りをくるくると周らせる。

 それを見た祖父は、感激したように立ち上がった。


「おおっ!また見ることができるとはな…やはり見事だな、ソニアの氷龍は。もっとよく見せておくれ」

「はい」


 ソニアは氷龍を祖父のほうへとゆっくりと移動させる。

 目の前まで来た氷龍に、祖父は興奮気味に観察したり触れたりしていた。

 鱗の再現具合にも感動している。

 あれからもソニアは暇さえあれば冒険譚を読み、龍のイメージをより鮮明にしていた。


 氷龍を十分に堪能した祖父が座り直すと、ソニアは本題を切り出した。


「あの、おじい様。お聞きしたいことがあります」

「うむ、なんだ?何でも聞いていいぞ」

「…私、離婚したあとはどうすればいいんでしょう?」

「そうだな……そろそろ考えておく方がいいか」


 どうやら祖父もまだ具体的にどうするかは考えていなかったようだ。


「ソニアは、何かしたいということがあるか?」

「……それは…」


 そう聞かれ、ソニアは言葉に詰まった。

 したいという気持ちも無いし、かといって自分に何かできるかと聞かれたら何も答えられるものが無い。

 淑女教育は受けているけど、それが何かに繋がるのかも分からない。

 悩んだソニアは、ふとあることを思いついた。


「あの、おじい様」

「何か思いついたか?」

「私でも…魔法師団に入れますか?」

「…そうだな、それもありだ。いや、才能だけで言えばこれ以上ないくらいに適任ではある」


 ソニアはすでに魔法が使える。

 しかもその才能は、前魔法師団団長である祖父や、現第二部隊隊長であるクラレンスが認めるほどだ。

 祖父の言葉を聞いて、ソニアは嬉しそうな表情を浮かべる。


「じゃあおじい様。私、魔法師団に入ります!」

「まぁ待て。まだ期間があるのだから、焦らんでもいいだろう。それに、そのことをフォースター公爵に言わないわけにもいかん。もしかすれば、ソニアの上官になるかもしれんからな」

「あ、そ、そうですね」


 つい未来が見えてしまい、興奮した自分が恥ずかしくなる。ソニアは少し頬を染めながら、落ち着くために紅茶を飲んだ。


「しかし、ソニアが魔法師団に入れば、即隊長に昇格してもおかしくないな」

「えっ、そんな……私に隊長なんて、無理です…」

「それぐらいの才能だということだ。実際には実戦経験や実務経験も問われるから、そう簡単にはなれん」

「ですよね」


 思わぬ祖父の言葉に一瞬焦ったが、ソニアは安堵したように息を吐いた。


(私には、誰かの上に立つなんて無理だわ)


 その後、庭で氷龍のサイズを変えて顕現したりして祖父に魔法を見てもらった。

 祖父曰く、魔法獣の精巧さだけでなく、魔力の出力すらこうもたやすく調整できるのは並ではないとのこと。

 ソニアにはピンとこないが、何かすごいことだというだけは分かった。


 その晩、夕食をクラレンスと共にしていると、話題は祖父が来ていたことになった。


「師匠が来ていたようだな」


 クラレンスは祖父の元で修業を積んでいたので、そのこともあって師匠と呼んでいる。


「はい。相談に乗っていただきました」

「なんだ、私でも相談に乗るぞ?」

「えっ、それは……」


 ソニアは言葉に詰まった。

 まさかクラレンスと離婚した後にどうするかの相談なのに、それを離婚する相手と出来るわけがない。

 口ごもったソニアに、クラレンスは悲しそうな顔を向けた。


「…私には、言えない内容か?」

「うっ…」


 どうしてそんな顔をするのか。ソニアは罪悪感に襲われる。


(でも、いずれ魔法師団に入れば分かることだものね。おじい様も、言っておいていいと言ってたし)


「その、離婚後の相談に乗っていただいたんです」


 その瞬間、カランとした音が食堂に響いた。

 それは、硬直したクラレンスの手からカトラリーが零れ落ちる音だった。

 すぐさま侍女が拾い、新しいものを用意したが、その間もずっとクラレンスは固まったままだ。


「旦那、様……?」


 おそるおそる声を掛ける。

 するとやっとクラレンスは意識を取り戻し、勢いよく席を立つとソニアの元へと大股で歩み寄った。

 そして跪くと、ソニアを自分のほうへと向け、肩を掴んで迫る。それにソニアは驚くしかない。


「り、り、離婚する、だと!?」

「えっ、えっ…?」


 突然のクラレンスの豹変に、ソニアの頭は理解が追い付かない。


(ど、どうしたのかしら?離婚するのが、何かおかしいかしら…)


 クラレンスは初めて顔合わせをしたときに、1年後に離婚するとはっきり宣言していた。

 だからそのつもりだと思っていたのに、今目の前のクラレンスの反応はそれを忘れてしまったかのようだ。


「どうしてた?なぜ私と離婚すると言うのだ?」

「どうしてって……旦那様がそうおっしゃったので」

「いつ!?」

「初めてお会いしたときに」

「………あ、ああ。………そう、だったな」


 やっと思いだしてくれたようだ。

 肩を離したクラレンスは、とぼとぼと自分の席に戻っていく。


「…そうだ、まだ訂正していないんだ。このままではソニアと本当に離婚してしまう。早めに訂正して、本当の夫婦にならねば…」


 何かブツブツ言いながら戻っていく様は、ちょっと不気味だ。

 ソニアには何を言っているのか聞こえなかったが、なんだか声をも掛けづらい。

 席に戻ったクラレンスは、なぜか目が据わっていた。

 なんだか怖いと、ソニアは思った。


「ソニア」

「は、はい!」


 そんな状態のクラレンスに声を掛けられると、余計怖い。

 怖れを隠して返事をし、次の言葉を待った。


「1週間後、予定を空けておいてくれ」

「わ、わかりました」


 予定を空けるも何も、ソニアは今現在全然予定がない。

 そんなのは分かりきっていることだと思うが、大人しくうなずいたソニアだった。

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