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16話

 今日は王妃様に会う日。

 今日の成功を祝うかのように、空は雲一つなく晴れ渡っている。

 ソニアは朝からきっちり準備を整え、大空色の髪をしっかり結いあげている。今日に合わせて誂えたはちみつ色のドレスを着ると、クラレンスとともに馬車に乗った。


「よし、じゃあ今日の流れを確認するぞ」

「はい」


 ソニアとクラレンスは互いに向かい合わせに座っている。

 今日のメインは王妃。二人はそのための盛上げ隊だ。


「まず王妃様は、陛下とのお茶会だと思って待っていてくださる。場所は天気がいいということで、バルコニーに用意しているはずだ」

「そこに私たちが行けばいいわけですね?」

「ああ。進入ルートは確保してある。少々目立つかもしれないが、いけるな?」

「はい、もちろんです」


 二人は互いに頷く。


(王妃様、元気になってくださるといいけど…)


 ソニアの思いついた案が、王妃に受け入れてもらえるか。話しを聞いた国王は大丈夫だと言ったけれど、やっぱり王妃の反応を見るまでは不安だ。


 馬車は王宮の出入り口まで近づき、そのまま通り過ぎた。

 それをソニアもクラレンスも、当然という感じで動揺しない。

 馬車は王宮の外壁を周り、そしてある場所で止まった。

 先にクラレンスが降り、次いでソニアがクラレンスのエスコートで降りる。

 二人の正面には壁しかない。


「ここなんですね?」

「ああ。この先に後宮がある」


 二人は壁を見上げ、その先にあるであろう光景を思い浮かべた。

 ソニアは魔力で氷龍を顕現する。


「…相変わらず見事だな、ソニアの氷龍は」

「あ、ありがとうございます」


 クラレンスの賛辞にソニアは照れた。

 クラレンスは飾り気のない素直な言葉を贈ってくれる。それがソニアにはうれしかった。


「さぁ行こうか」

「はい」


 一方その頃。

 復旧した後宮の3階のバルコニーには王妃と国王の姿があった。


「珍しいですね。陛下が2人きりでお茶会を開きたいというのは」

「たまにはよかろう。私とて、王妃と過ごす時間を大切にしたいのだ」

「まぁ。ふふふ…」


 微笑む王妃に、国王は安堵しかけた。だが、すぐにその微笑みに陰が生じたのを見逃さない。


(やはり、気にしているのだろうな)


 人前では決してそのような姿は見せないが、国王や第一王子と一緒に過ごすときには、ふとそういった姿を見せることが多い。

 その原因はソニアだ。命の恩人でありながら、同時に王妃と関わることで結果的に危険な目に会っている。そのことが、王妃の心に陰を落としていた。

 今日はその陰を晴らすための作戦がある。そのために、国王は王妃をバルコニーでの茶会に招待していた。


(そろそろ彼らが来る頃だ。さて、うまくいってくれればいいが…)


 そのとき、国王の目にある姿が映った。

 それは以前にも目にし、そして自分も経験したことがあるものだ。

 予定通りに現れてくれた彼らに、国王はそっと笑みを向けた。

 一方、王妃は彼らに背を向けているため、まだ気づいていない。


「陛下、今日はずいぶんと機嫌がよさそうですね?」

「ああ。サプライズのゲストが来てくれたのでな」

「サプライズのゲスト…ですか?」


 何のことだろうと王妃は首を傾げた。

 すでに結婚して20年以上が経つというのに、未だ王妃は愛らしい。そんなことを国王は思いつつ席を立つと、王妃の隣に歩み寄り、そっと王妃の手を取った。


「立ってくれるか?すでにゲストは来ておる」

「? はい」


 国王に手を引かれ、王妃は立ち上がった。

 背後を振り向いた国王に合わせて王妃も振り返る。そして、そこにいた人物に驚愕した。


「っ!そ、ソニアさん!」


 2人の背後に来ていたのはソニアとクラレンス。それも、氷龍に騎乗した状態で、地上3階の高さで宙に浮いていた。


「お久しぶり、です。王妃様」

「どうしてここに!?い…いいえ、そんなことはいいわ。ソニアさん、ここに来てはダメよ。もしかしたらまた危ない目に会うかもしれないのよ!?」

「はい。ですから、大丈夫な方法で来ました」


 そう言ってソニアは氷龍の頭を撫でる。

 そこでようやく王妃は、ソニアたちがどうやってここに来たのかに気付いた。


「それは、ソニアさんの……」

「はい。普通に来ると危ないので、普通じゃない方法で来ちゃいました。それに……」


 ソニアは、ちらりと自分の後ろに座るクラレンスを見た。


「最高の、護衛もおりますので」


 その言葉に、クラレンスは国王夫妻へと会釈をした。

 再びソニアは王妃へと顔を向けた。ソニアと王妃の目線が交わると、王妃は堪えきれないというように噴き出した。


「ふっ、ふふ…そうね、それなら安全だわね」

「はい」


 その様子に、国王は作戦がうまくいったことに安堵した。

 ソニアとクラレンスは氷龍からバルコニーへと降り立つ。

 すぐさま侍女たちによって席は整えられ、4人は席に着いた。


「ソニアさん、元気そうで何よりだわ」

「王妃様も、元気なようで安心しました」

「あなたのおかげよ。…本当に、あなたのおかげで助かりました。お礼を言うのが遅れてごめんなさいね」


 そう言って王妃は頭を下げる。それにソニアは慌てた。


「王妃様、顔を上げてください…!」

「私からも言わせてくれ。王妃を助けてくれて、本当に感謝している」

「陛下まで…!」


 国のトップ二人に頭を下げられ、ソニアは慌てふためくしかない。

 一方、こうなることが分かっていたクラレンスは、落ち着いた様子だ。

 ソニアはクラレンスに助けを求める視線を向けたが、うなずくだけだ。


「二人とも、ずっとソニアに直接伝えたくて今日まで我慢していらしたんだ。聞いてやってくれ」

「え、えぇ……」


 我慢していたと言われても、ソニアにはどうしたらいいのか分からない。

 そのうち国王が頭を上げ、次いで王妃も頭を上げた。


「それに、私が呼び出したばっかりにソニアさんには危険な目に合わせてばかりで…それも謝罪させてちょうだい」


 再び王妃に頭を下げられてしまった。

 しかし、危険な目にあったのはフランコス公爵のせいだ。決して王妃のせいではない。


「王妃様、それは王妃様のせいでは…」

「いいえ。直接的ではないにせよ、間接的には原因があるわ。誘拐されたのも、私が呼び出したからだもの。……せめて、何かお詫びをさせてほしいの。なんでもいいわ。できるかぎり叶えたいの」


 そう言って王妃は、ソニアを申し訳なさそうに見つめた。

 その目に、ソニアはこれ以上「気にしなくてもいい」とは言えなくなった。


(旦那様と同じだわ。でも、私には何も…)


 ソニアは十分クラレンスに色々してもらっている。

 衣食住は揃っているし、その上でさらにクラレンスに色々頂いているのだ。

 これ以上何かと聞かれても、ソニアには何も思いつかない。

 悩んでいるソニアに、王妃は苦笑いを浮かべた。


「無欲なのね、ソニアさんは」

「そういうわけ…では、無い…と思います」


 なんとなく否定してしまったけど、実際何も思いつかないのでそれ以上は何も言えない。

 そんな様子のソニアに、クラレンスが助け舟を出してくれた。


「では王妃様、今回の件は『貸し』でよろしいでしょうか?」

「ああそうね。これ以上はソニアさんを困らせてしまうし。それでどうかしら?」

「は、はい、ではそれで…」


 王妃に『貸し』も畏れ多いのだけれど、ソニアはこの状況を早く終わらせたくて頷いた。

 その後、国王夫妻と緊張と落ち着かない茶会を過ごした。

 王妃からは「また氷龍に乗せてほしい」とねだられ、「ならば私も乗る」と国王にも言われてしまい、国王夫妻を氷龍に乗せたり。

 そうして何とか茶会を終え、ソニアとクラレンスはちゃんと扉から後宮を後にした。


「フォースター公爵、ちゃんとソニアさんを送り届けてあげてくださいね」

「はい、もちろんです」


 王妃にそう言われ、クラレンスはしっかりソニアを馬車までエスコートし、一緒に乗り込んだ。

 馬車で座ったソニアは、ぐったりとして背もたれに寄り掛かっている。


「お疲れさまだ、ソニア」

「…いえ、旦那様もお疲れ様です」


 そうは言ったが、クラレンスに疲れた様子は無い。彼は公爵だ。王族との面会くらいで疲れはしないだろう。

 自分だけが場違いな感じがして、ソニアは居心地の悪さを感じてしまう。


(…これからも、ずっとこんな感じなのかしら)


 ソニアは社交界に出ていない。デビュタントも済ませていないのだ。

 社交界自体は公爵家と侯爵家の没落で混乱しているし、王宮の復旧もやっと終わりが見えてきたくらい。

 それに、どちらにせよソニアは仮初の妻だ。

 あれからもうすぐ半年になる。あと半年経てば離婚し、ソニアはフォースター家を離れる。

 そう思った時、ふとソニアは考えた。


(私、離婚した後、どうしたらいいのかしら?)


 もう生家であるリベルト家は無い。いや、離婚した後にリベルト家に戻りたいという気持ちはないが、かといって行き場が無いというのも困りものだ。


(おじいさまに相談してみましょう)


 背もたれにぐったりしたまま、ソニアはそんなことを考えていた。


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