表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双星の子守り歌  作者: 宇佐美ましろ
Act Ⅰ:Lumièrefoi
41/54

Op.6

 


 むかしむかし、この国は創世の使徒であり大いなる魔法使いシャルル様とシャルル様と共にこの国の礎を築いたアンリ=ハンゼ=ロゼピーヌによって深淵の脅威から守られ建国されました。

 創造主であるシャルル様は、人の子であるにもかかわらず肩を並べて戦禍を共に駆け抜けた友人であり家族も同然であったアンリの栄光を称え、彼をこの国の国王として民衆を導くように進言しました。アンリ様は自分には過分な言葉だと一度は断りましたが彼の勇敢さと聡明さ、なにより民思う心を深く信頼していたシャルル様は何とかなってくれないかと懇願しました。

 そして、最後にはアンリ様もそれを受け入れ彼はルミエールフォアの初代国王となり、シャルル様は魔塔主として二つの柱はルミエールフォアの新たな光となり人々を照らしました。



 アンリ様は誰よりも民を愛し、その姿はまさに聖王といわれるにふさわしい偉業を何個も残していきました。そして彼の息子も、そのまた息子も、はたまたその息子も娘も民を愛し民のための誠実な統治を行っていました。

 シャルル様はそれを見てこれならばこの国は安心だと、心置きなく国の外に赴き深淵との戦いに身を投じました。しばらくはみんなが幸せでした。しかしいつからでしょう、何代目かは定かではありません。ゆっくりと王様は変わっていってしまったのです。



 いつからか王は自分が富を得ることのみを考え国民のことなどは二の次。また、貴族と手を組んで民に重い税をかけるようになりました。これまで幸せだったはずの民の生活は徐々に深い深い暗闇に転がっていきます。

 病が流行っても、川が氾濫しても、作物が取れなくても王も貴族も何もしてはくれません。民は力を合わせて王に嘆願しました。どうか自分たちの生活を見てほしい、こんな生活の中で重い税は払えない。払っていればきっと自分たちは死んでしまうだろう。王様は答えました。



 ならば死んでしまえばいい。



 民は絶望しました。それどころか王は自分に反抗した人々も誰一人として許さずみんな処刑してしまいました。大人も子供も、女も男も何も関係なくみんな殺してしまいました。




 そして民は思いました、あぁ、あの優しかった王様はもう死んでしまったのだ。今ここにいるのは王なんかじゃない、ただの暴君だ。民は次第に反抗する力もなくなり、ただただその日を生きるだけで精一杯な家畜にもそこらで野良犬にも劣らない貧しい暮らしをするだけでした。



 そんな時代が百年以上続いたとき、このままではいけないと三つの家が手を取って立ち上がりました。三つの家は魔法使いと協力し王の愚かな行いを止めその横暴な政治を見事終わらせたのです。人々は涙を流しながらその三つの家を称え、深く感謝しその家は新たな爵位を得ました。

 そしてそれからはその三つの家が王に代わり民衆を導き、光となったのです。これにてめでたしめでたし。



 とはいかなかったのです。



 実はこのお話にはまだ続きがありました。三つの家とともに王を打ち破ったのはまだ小さく可憐な魔法使いでした。それまで集落を出たことがなかった魔法使いは王を打ち倒す旅の中で初めてのことをたくさん経験しました。

 初めての友達、初めての冒険、そして魔法使いは恋をしました。初めはそばにいるだけで幸せだった魔法使いは彼のために何回も何回も魔法を使いました。濃いとは愛とはなんと素晴らしい物でしょう、魔法使いの毎日はどんな宝石よりも輝き、尊いものでした。



 そして彼らはついに悪である王家を滅ぼし自由を手にしました。



 しかしその頃だったでしょうか?



 魔法使いは満たされることのない愛に手を伸ばし始めました。彼女は青年へ今まで以上の愛を求め青年がそれに応えても次の日には倍の愛を要求するのです。青年も必死に愛を伝えましたがそれが魔法使いに伝わることはありませんでした。

 そうして魔法使いはもう青年は自分のことを愛してはいないと思い込み青年を憎むようになりました。



 これまでこんなにも尽くしたのに!



 魔法使いは復讐を誓いました。青年のもとを去った魔法使いは深淵と契約を交わし強大な力を手に入れるとその力を使ってこの国をすべて壊そうとしました。青年は何とか言葉で魔法使いを説得しようと試みましたが憎しみの炎を燃やし続ける魔法使いには何も通じません。

 心優しき青年はついに諦め魔法使いを自分の手で眠らせてあげることにしたのです。そして青年は魔法使いを打ち取り、一人で眠るのはかわいそうだとその魔法使いと同じ集落にいた魔法使いもすべてを眠らせました。



 二度も大きな危機からルミエールフォアを守った英雄は民衆から深く愛され今度こそ幸せに暮らしました。



 ユールとソルナはベッドの上で寝ころびながらステルチェから渡された本を読んでいた。小さな子供には少し難しいが今の自分たちにとっては物足りないような童話はこの国を知るための情本源という面から見れば及第点といったところだろうか。



「なんか、ありきたりなお話って感じだね」

「まぁ、ここの人たちはこれを信じているんだからそんなこと言わないであげなよ。それにこの話の中でも魔女だって最初は公爵家側の力になっていたみたいだし、全部が全部悪だとは言い切れないんじゃない?ほら、恋は盲目っていうしさ」

「恋は人を狂わせるってこと?たしかテオクラティアにもそんな話あったよね。ほら、文殿で読んだやつ。それにしても、たぶんこの魔女を打ち取ったって言うのがスティのご先祖様なんだよね?よっぽど強かったんだなぁ、会えるなら一回手合わせをお願いしてみたいね」

「もしかしたら、この初代大公も魔法が使えたりしてたとかかもよ」

「あはは、それか実は初代大公の正体は魔女の兄だったとか?わたしがこの物語を書くならそういうすじがきにするな」



 ルミエールフォアの人々が聞いたら発狂しそうなことを冗談交じりに話しながらソルナは手の中にあった本の表紙を閉じた。夜空には宝石のように輝く月がはっきりと浮かび上がり街は先ほどの活気に満ちた賑わいはどこへ行ったのかあっという間に静まり返り、聞こえてくるのは途切れ途切れな野犬の遠吠え。二人は野犬の声に少し警戒をするも鳴き声の主は遥か彼方にいるようで二人の耳に入ってくるのは木霊したその断片だったようだ。

 身体が冷える前に早く寝てしまおうと掛布団をまとえばだんだんと眠気は増し、瞼は降りてくる。ルミエールフォアでの旅はまだ始まったばかりである。二人は月明かりが優しく部屋を照らす中眠りについた。








 太陽が東の空から爽やかな夜明けを連れてくる。

 ユールとソルナがルミエールフォアにきて、まだ眠い目をこすりながら目を覚ました。この頃、ユールの寝起きの悪さは劇的に改善され、今では三日に一回くらいはソルナの後を追うように目を覚ますこともあった。今日はちょうどその日だったようでソルナがベッドの上で背を伸ばしていると目をぱちぱちさせながら大きくあくびをする。



「……はよう、ん、いまなんじ?」

「おはよ。今はね……七時ちょっと前くらい。ユール最近寝起きがすごい良くなってるけど何かあったっけ?前まで私が投げ飛ばさなきゃ起きてこなかったのに」

「ふぁ、あ、そんなわけないだろ。でもなんでだろ、特に変わったことはなかったんだけどな」

「まぁ、成長してるってことでしょ!ほら早くご飯食べて外に行こう。昼にはスティと合流するんだからその前に今日は街で聞き込みをしよう」



 起きたというのに今だ半目のユールを引っ張り起こし、ソルナはその背を押しながら洗面台へと向かう。結局またベッドに戻りそうになるユールを引きずり寄せたり、ソルナの寝癖が治らないなどなんだかんだ支度が整ったのはそれから三十分も後のことであった。すっかり目を覚ましたユールはこちらを見てくる萌黄の冷めきった瞳を見ないようにソルナから逃れるように宿の扉を開ける。



 ステルチェと合流するまではまだ、三時間余りある。ユールとソルナはその間ヴァンフルールの中にある診療所や薬屋を中心に聞き込みをしていくことにした。しかしどこの医師に聞いても、そこまで真新しい情報を聞くことはできず、聞き込みから二時間しないうちに二人は人気の少ない小道の階段に腰を下ろしてうなだれる。

 医者や薬師が話してくれることは既に知っている情報ばかりで挙句の果てには二人がテオクラティアから来たということを知った彼らから何か有効な手立てはないのかと質問返しにあったばかりであった。



「まさかここまで何にも情報がないとなるとどうしようね」

「もうお手上げだよ!ヘシオドスってばこんなに大変ならもうちょっとなんか言ってくれてもよかったのに」



 ちゃっかり片手に甘い香りを漂わせるアイスショコラを持ちながらソルナはムスッと口をすぼめる。確かに依頼は調査だとは言われていたため、ある程度調査は難航するかもしれないと踏んでいたが二人もここまで情報が得られないとは思っておらず、書こうと思っていた手帳にはインクの一滴だって落ちていない。

 一向に埋まる気配のない手帳にユールの困ったように笑いながら待ち合わせまでの残り時間をどうしようかと、ぼんやりと目の前を眺めていると自分たちの目の前を二人の子どもが駆けていく。



 二人はその身体に見合わない大きさの花束を抱えているせいか、目の前が見にくいようで危なっかしく石畳の道の上をフラフラと走っていた。


「あっ、」





 双子が反射的に声を漏らした時にはもう遅く、男の子の後に続いていた小さな女の子はどうやらちな決めの僅かな段差につまずいたようで鈍い音を立てながら派手に転んでしまった。

 腕に抱えていた花束は勢いで女の子の数歩先へと飛んでいき、本人は何が起きたのか分かっていなかったのか転んですぐは転んだ姿そのまま動かなかったが遅れて痛みがやってきたのか、ユールとソルナの耳にはすぐに子ども特有の高い叫声が体当たりするかのように鼓膜の奥まで響いてくる。



「リンネ!大丈夫?」

「うわぁん、にぃに!!」



 女の子の少し前を走っていた男の子は音にぎょっとして振り返るとすぐに転んだ女の子のもとに駆け寄って転がったまま涙を流す女の子を何とか起こして座らせる。女の子の菜の花色のドレスは裾がすれ、土汚れがついてしまっており裾から見えた膝はこけたときのできたのであろう傷から真っ赤な血が出ていた。

 ユールとソルナは階段から腰を上げ、自分たちの少し先で座り込む二人の元へ行こうとしたとき、背後から音もなく自分たちよりも早く二人の元へ向かう影が抜。



「おや、君たち大丈夫かな?ほら、このハンカチを使って」



 なんとユールとソルナよりも早く子どもたちの元へ駆けていったのは、ここにはまだ来るはずのないステルチェであった。グレーのシャツに黒いスラックスを身に着け胸元には薄紅色のコサージュが挿されている出で立ちはぱっと見ではとても公爵家お嬢様というよりも、それに使える騎士と言われた方がしっくりとくる。

 ステルチェは女の子の前にしゃがむと真っ白なハンカチで傷に染みないように丁寧に血をふき取ると、腰のポシェットから出した包帯で器用に傷口を巻いていく。女の子はステルチェの優しい手つきにいつの間にか泣き止みぽかんとした表情で彼女の顔を見つめていた。



「はい、これでもう大丈夫かな。気を付けてね、この辺りは道ががたついているから」

「……ステルチェ公女さま、ですか?」

「あれ、あたしのこと知ってるのかな?どこかで会ったことがあったっけ」

「ううん!でもその髪の毛の色はヴァンドール大公さまの家の色ってお父さまが言っていたから」



 言われて気が付いたのか、ステルチェは自身の髪に手をやる。丁寧に手入れをされたオルタンシアの様な色合いの髪は後ろで一纏めにされていた。



「そっか、言われてみればそうだね。はい、もう立てるよね」



 ステルチェは優しい笑みを浮かべながらしゃがみ込んでいた二人の手を取り、ゆっくりと立ちあがらせる。リンネの痛みはどこかに行ってしまったようで痛がる様子もなく立ち上がるとステルチェ安心したようにはにかんで土汚れを払いながら立ち上がった。



「あの、ステルチェさまありがとうございます!ハンカチもちゃんとお返しします」

「あはは、いいよそんなの。怪我が治ったら捨ててくれ。それよりも君たちお名前は?」

「おれはリンツ!」

「わたしはリンネ、あのでもだいじなハンカチじゃ……」

「大丈夫だよ。それよりももう転ばないようにね」


「リンネだっけ?はいこれも」

「軽く見せてもらったけどどこも汚れてないみたいだよ。それにしても綺麗なお花だね」



 リンツとリンネの後ろからユールとソルナは二人を驚かせないように転がっていた花束を差し出す。リンネはその声にはっとし花束を受け取るとユールとソルナにお礼を言う。ユールはもう落とさないようにねと言い場がら渡そうとすると、視界の隅で持ち手のリボンが解けかけていることに気が付いた。



「ごめんね、ちょっと待って……はい、これでもう大丈夫」

「ありがとう!」

「このお花誰かに渡すのかな?」

「うん、今日はお父さまとお母さまのが結婚をした日だからお花をプレゼントするの!」

「そうなんだね!それならなおさらもう落とさないようにね」



 ソルナの言葉に二人はうんとうなづくともう行かなくては、と三人に手を振りながら行ってしまった。また転ばないかひやひやしていたが、二人も気を付けているようで先ほどよりも足元に気を付けながら走ってゆきそのまま姿が見えなくなる。



「おはよう、二人とも。ちょっと早く来すぎちゃったかな」

「そんなことないよ。おはよう、スティ」

「おはよ!わたし達もちょうど行き詰ってたからむしろ早めに来てくれてよかったよ」

「ならよかった!さて、今日はいったい何をするのかな?」



 腰に手を当て笑いながら尋ねるステルチェにユールとソルナは自分たちが受けた依頼内容を簡単に伝えるとステルチェは少し考えこんだ後ならヴァンフルールを出て少し下ったところにある街に行ってみようかと提案をしてきた。



「あ、アリオンの丘は行ったんだけどあんまり話は聞けなそうで……」

「アリオンの丘?……そっか、二人はまだルミエールフォアの地理分かんないよね!ヴァンフルールっていうのはもともとここら辺一体のことを指していた地名なんだ。だから、アリオンの丘もいちおうヴァンフルールってわけ。まぁ、今じゃヴァンフルールっていえばここら辺の栄えているところだけを指す言葉みたいになっちゃってるけど」


「で、ヴァンフルールのすぐ近くにランツェって町があるからそこに行ってみようかなって。あそこは魔術師が多い街だから何か聞けるかもしれないしね」

「そういうことなんだね。じゃあ、そこに行ってみようか」



 ユールとソルナはステルチェの案に賛成し、早速その町に向かうことになった。ステルチェの説明によればランツェまでは歩いて一時間と少しほどらしい。もっとも、箒で行くことができればもっと早く着くのだがユールとソルナは箒には乗れないうえステルチェもさすがに三人で箒に乗ることは嫌だと首を振った。



「でも話しながら行けばあっという間につくよ!さ、早く行こう」


次回更新は5月11日予定です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ