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双星の子守り歌  作者: 宇佐美ましろ
The Opening Act:Theokratia
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Op.3

 


「やっぱり、これ地図だよ!」


 

  ユールは紙を持ち天井へ向けて広げる。古びてところどころ細かな傷は目立つもののしっかりとした羊皮紙は依然と地図としてのその姿を保っていた。その地図には右上には東西南北を示すコンパスが描かれ、かすかにその針が揺れているように見える。そっとなぞっていくとある個所に赤くバツ印が書かれていた。



「えっと…ここは、エルダーグリーム…って読むのかな?ほら、ソルナも見てよ。」

 


  ユールは手元へ地図を下ろしソルナとともに地図を見つめる。



「ここが今いる場所なんだね。うん…私もエルダーグリームって読むので合ってると思うよ。あとは…」



 二人はしばらく地図を見て考えると、この地図はエピュフォニアという大陸を示していること、ここから一番近いのがテオクラティアという国であることを読み取ることができた。そしてつかの間の話し合いの結果、二人は少し申し訳ない気持ちが残るもののこの地図を拝借することにし、今日はここで一夜を明かすことに決める。そして、明日以降はテオクラティアという国へ向かうことを決した。



「それにしても不思議な地図だね。ほら、このコンパス。ちゃんと針が動いているんだよ。しかも時間も示してくれてるし!」


 

 ソルナは地図を片手に部屋をぐるぐると歩き回っている。その様子を見ながら、頃合いを見てユールはソルナの肩をたたく。



「じゃあ、日も沈んできたし今日はここを借りよう。ここにはまだ何かあるかもしれないし。」


 

 ユールは、勝手に持っていくのは忍びないんだけど、とバツが悪そうに付け足すもののソルナも考えは同じで二人は腹をくくり、テーブルにあったティーポットも拝借し川の水を汲みに外へ出た。そして小屋に戻った二人は再度、部屋を軽く見て回る。ベッドの横には小さな棚があり、ソルナは心の中であやまりながらもその棚を壊さぬように丁寧に開ける。そこにはマッチの箱と不思議な形のキャンドルが、その横には四つ折りにおられた羊皮紙が何枚かまとめられていた。



「ソルナ、何かあったの。」



  ソルナがまとめて取り出していると後ろからユールの声が聞こえる。ソルナは見つけたものを優しくテーブルの上に置き、キャンドルに光をともす。外はすでに日が傾き、森の中は深い闇に包まれ始めていた。そして、テーブルの上おぼろげな明かりの中、ソルナがゆっくりと羊皮紙を束ねる麻ひもをほどいていた。二人はそれぞれ羊皮紙に目を通すとその内容を確認した。しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはユールであった。



「…これは手紙なのかな。あて先は…ルイス…さんかな。差出人はルートヴィヒって読むんだろうね。」

「うん、こっちは差出人にハンスって書いているよ。ここはルイスさんって人の家だったのかな。」


 

 二人は数枚の紙を読んだところで再びたたみ、元の棚へと戻した。手紙は読んではいけない、誰かがそう言っていた記憶がかすかに頭に浮かぶも誰だったかは思い出せない。手紙をもとの位置に戻しほっと息をつくと、途端に二人は眠気に襲われる。朝から何もわからないまま酷使し続けた身体はとうに限界を迎え、二人はベッドに横たわる。埃臭かった部屋とは対照的にベッドは柔らかく、先ほどまで日に干していたかのような心地よい良い香りとほのかに香る紅茶の香りに包まれていた。ソルナは絶えず訪れる眠気に抗えず静かに瞼を下ろす。



ユールのまどろんだ声でのささやくにソルナは耳を傾けたがすでにソルナの頭は意味を理解できるほど働いていなかった。



「ソルナ…明日は起きたらちゃんとおはようっていってね…おれもぜったいに…」



 続きを言おうと口を開いたがユールが発したと思った声は音にならず空気に溶けていく。二人はもう離れないように固く手をつないで眠りの世界へと足を踏み込んだ。


 ___________________

 

 


 地面が揺れ動く。足がもつれてうまく進めない。空を見上げると天蓋は裂け絶え間なく星が降ってくる

 




 足が痛い。息が上がってもう動けないと頭の中では警鐘が鳴り響いているのにこの身体は狂ったかのように足を止めない。





 違う、止めないのではない。止めれないのだ。誰かが手をつかんで離さない。痛い!と口から出そうとした言葉は吐く息にさいなまれ喉の奥に消えた。






『___もうすぐ……だから…!』






 誰かが叫んでいることも耳まで届かない。地響きとともにいっそう固く握られた手は離れないと思っていたのに。突然地面が気が付いた時には裂け深く暗い深淵に見つめられていた。きみの声が遠くなる。さっきまでは痛いと思っていた手の感覚はすでにない。




『             』







『__必ずむかえに行くから。』



 ___________________




 目を覚ますと森は霧がかり、空はかすかに白んでいた。夜明けはすぐ近くまで来ているのであろうか、窓の外を見ようと身体を窓へ近づけようとしたとき、手を引っ張られる感覚に目をやると未だ眠っている自らの片割れが目に入る。どんな夢を見ているのだろうか、その寝顔を眺めていると、はて、自分の夢の内容は何だったか思い返す。されど、どれだけ考えても一片のかけらでさえ思い出すことはできない。



「あれ…?どんな夢だったんだろう…」



 もう少し眠ろうと再びベッドへ身を沈める。



 夜明けまではまだ遠い。


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