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8.一周回って安全

「誤解なんです、小百合さん。貴方が私の婚約者であることは認識していますし、私はその事実に対して不満など一切ありません。寧ろ光栄だと思っています。ただ、」

「ただ、何です?」

「佳奈様のことを崇拝しているだけなのです」

「だからそれが問題なんですと何回言ったら分かるのですか!」

 全身でぷんぷんと怒りを表現する小百合。ただ、本気で怒っているという風ではなく、形式的に怒っている様な、そんな気配も見せていた。

 それは、英也と小百合、二人の関係が非常に良好であるからだった。何時も登下校は一緒で、テスト期間は二人きりで勉強会、デートも毎週のように重ねてたりと、二人の時間を重ねており、普段の何気ない振舞いからしても、互いが互いを思いやっていることが見て取れた。だからこそ、佳奈の話題さえなければ、満点のカップルと呼んでも差支えない程だった。

「というか、崇拝って、佳奈のことを神仏の類だと思っているのか?」

「少なくとも奈良の大仏よりはご利益があるとは思ってる」

「ご利益の最上級じゃないか、多分」

 ただ、佳奈のことに限っては幼い恋心を拗らせすぎた結果、思いが変容し、いつしか崇拝の域に達していた。

  なら、もっと積極的に佳奈にアプローチすればいいじゃないか、と以前クラスメイトから指摘された時、


『まだ全然徳を積んでいない僕が佳奈様なんかに話しかけたられるわけがないだろう?それに、婚約者のいる身でありながら佳奈様に近づこうとするなんて、佳奈様が穢れてしまう。――少なくとも、今世では話しかけることはできないだろうね。』


 なんてことを英也は真顔のまま、平気で言ってのけたのだ。だからこそ、仮にいくら少年を煽ったとしても、本気で実行するわけがない。少年はそう思っているので、軽くあしらっていたのだった。

「どうかしました?高井さん、私の顔を見て」

「いや、お前もよくこいつの婚約者続けられるなと思って」

「何ですか、それ」

 さっきからひたすらに、佳奈の有難さを問いている英也を無視しながら、少年はつくづく思っていたことを小百合に伝える。それを聞いた小百合は少しおかしそうに笑った。

「だって好きなんですから、当然のことです」

「お、おう、こんな奴でもか?」

「こんな方だからいいんです、」

「……いや普通、同じクラスメイトの魅力ばかり語る奴なんていやだろ、」

「そうでしょうか?……佳奈さんへの思いが恋慕ではないことを知っているので、あまり気にしたことがありませんが、、、でも、英也さんの魅力を私だけが分かっているというのは、案外、心地よいかもしれませんね」

「今の会話で惚気られる余地ってあったんだな」

 そんな他愛もない雑談を交わすうちに、チャイムが鳴り、少年の担任が教室に入ってくる。

 担任は入ってきた流れで、誰に向かってか延々とマシンガントークで佳奈の魅力を語っていた英也の頭を引っ叩いて正気に戻し、ホームルームを開始した。

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