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5.墓穴を掘るって慣用句あるけど、体験教室があるなら一度くらいはやってみたい

「ごめんお待たせ―、、ってゆーくんどうしたの?」

「なんかちょっと疲れてる?」

 ガラガラと玄関の扉が開き、姉妹が制服の恰好で姿を見せた。少年は巫女服時の姉妹を見送ったあたりの位置で、スマホを片手に出迎えた。

「そんなことないぞ、ちょっと暇だったから境内を歩き回ってただけだ」

 別に嘘はついていなかった。あの後、少年はすぐに境内に戻り、大志を探し回っていた――電話口で受けた口撃に対する報復のために。

 だが、大志も予期していたのか、いつもなら本殿で仕事をしているはずの姿はなく、あちこち探しまわっている内に、いつもの登校時間が近づいてしまった。

 数秒、葛藤した後に、絶対に仕返ししてやると心に誓いつつ、この場は諦め、姉妹との登校を少年は優先したのだった。

「そうなんだー、水とかは大丈夫?」

「あぁ、別にそんな激しい運動したわけじゃないし、でも、ありがとうな」

「激しい運動なんて、朝から下ネタは流石にドン引き」

「さすがにそれは多感すぎやしないだろうか、結良さんとやら」

「「……?」」

「佳奈はともかくなんでお前(結良)まで首傾げてんだよ!」

「ま、まぁ、よくわからないけど、学校行こ?あんまりゆっくりしてると遅刻しちゃうよー?」

「確かに佳奈の言う通り、ほら、ゆうもさっさと歩く」

「あれ、いつの間にか俺が原因みたいな扱いになってる⁉」

先行して石段を下り始めた二人を少年は追いかける。

そのまま、姉妹の2段後ろ当たりまで追い付くと、横に並ぶことはせず、二人の歩調に合わせていく。別に後姿を視姦する意図はなく、3人が石段に並んで歩くことで幅をとってしまい、他の参拝客の迷惑になることを考慮しての事だった。

そのため、3人が石段を上り下りするときは、姉妹2人が先、少年が後ろというように決まっていた。

ただ、ほぼ毎日のこととはいえ、この景色は慣れないと少年は思う。

それは当然二人が美人であることも一つの要素ではあった。


姉の佳奈はおっとりした性格で、その性格を体現するかのように、ふわふわとして温かみのある茶色の髪、少したれ目でおおらかさがにじみ出た顔立ち、そして発育のよい体つき。その包容力から、少年の通う学園では聖母と呼ぶ生徒までいた。巫女に対して、キリスト教的な形容はいかがなものかと思いはしたものの、そう表現する人がいるのも仕方がないかもしれないと少年自身も感じていた。


一方妹の結良は、一言で表すならクール。容姿も、腰まで延ばした艶のある白銀の髪、すらりとした目鼻立ち、スレンダーな体系という、姉の佳奈に比べると、猫を思わせる要素を、強く継いでいるようなだった。

姉の佳奈が少年と同い年なのに対し、妹の結良は1学年下。にもかかわらず多くの勇者が結良に告白して玉砕し、犠牲者の数は佳奈と同数近くになっていた、らしい。


そんな学校のひいては町の名物姉妹と一緒にいるのだから、普段でもドキっとすることはあるのだが、少年がなぜ、石段の上り下りに特に慣れないのかというと、偏に姉妹が猫耳と尻尾を持つからだった。

上り下りの際、少年は姉妹の後ろを歩く体制になっている。姉妹の後ろに立つと、二人の尻尾、茶と白銀の尻尾がゆらゆら揺れているのが目に入る。学園のスカートは姉妹用に改造されており、プリーツの部分に尻尾を出すための穴、通称尻尾穴が開いている。そのため、尻尾をぴんと立てたり、左右に振ったりしても中が見えることはないはずなのだが、少年が思春期である故か男の性か、油断すると目で追ってしまいそうになるのだった。


ならば、少年が前で姉妹が後ろであればそんな事態は起こりえないのだし、位置を代わってもらえばいい。少年自身もそのことを理解していたのだが、既に何年もこのフォーメーションでいる以上、変更を要求した場合、確実に理由を問われる。その理由に、正直に答えるのは恥ずかしく、かといって、他に上手い言い訳も思いつかず、結果として言い出せずに、ずっと今日まで続いているわけだった。


石段を下り切って、少し少年が安堵していると、佳奈が少年の方を向いて、話題を切り出す。

「そういえばゆーくん」

「えっ…なんだ、佳奈」

「もー、どーしたの?ボーってしてるけど、、やっぱりお水いる?」

「悪い悪い、ちょっと考え事してただけだから大丈夫だ、それで、どうしたんだ?」

鞄から水筒を探す佳奈を制止し、ぎこちなさを誤魔化すように話題を強引に戻す。

佳奈はと少し心配そうな視線を向けてから、鞄のチャックを閉め、話題を切り出した。

「さっきお父さんに会ったんだけどね」

「今日は大志さん社務所にいたのか、」

あの野郎、そこに隠れていやがったのか、内心の声は隠して少年は適当に相槌を打つ。神社の社務所は帋草家の家と兼用になっている。姉妹たちが着替えているため、少年としては入るを躊躇っていたのだが、その隙を突かれた様だった。


「うん、それでねー、家出る前に、変なこと言われてね、どういう事って聞いたら、ゆーくんに聞けばわかるって言ってたんだけど、、」

「俺に?」

少年の確認に、頷きで返す姉妹。視線で姉妹に言葉の続きを促す。

「いつもゆーくんに送り迎えしてもらっているんだから――

勉強代払ってもらえって」

「ごめん、今からお前のお父さんを葬りに行かなきゃいけない用事ができた、悪いが先行っててくれ」

「ゆーくん!?」

ぐるりと方向転換して石段を登り始める少年に佳奈は慌てて引き留める。

「あの野郎!イジリワードを言いたいがために、脈絡もなくぶち込んできやがって、絶対に一発喰らわせてやる!」

「だめだよゆーくん、それに今から戻ったら遅刻しちゃうよ!?」

「朝から大声はよくない、近所迷惑。それに――なんで勉強代がイジリワードになるの?」

結良の疑問にピタッと少年の動きが止まった。固まったまま冷汗がだらだらと流れ出る。

「い、いやー何でだろうな、確かに、冷静に考えると、タシカニソウダナー」

そんな滑稽な少年の様を、猫を思わせる瞳でじっとみていた結良は、ふん、と納得したように呟いた。

「とりあえず、その言葉がゆうのトラウマになっていることはわかった」

「い、いやだから別にトラウマになんて――」

「教えてくれてありがとう。勉強代、払った方が良い?」

「頼むから勘弁していただけないでしょうか、結良さん!」

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