3. 遠足のスナップショット写真で、自分の映っているものがやけに少なかったときと似たような
三人が雑談に花を咲かせていたころ、盗撮した男は、学校近くの路地裏に逃げ込んでいた。
「はぁ、、はぁ、、ここまでくれば大丈夫だろう」
しばらく全力で走ってきた足を緩め、見つからないように室外機の影に座り込んだ。
カバンの中を漁り、ペットボトルの水を取り出す。蓋を外し口に含めると、残っていた水を一気に流し込んだ。
空の容器を近くに投げ捨て、一息入れた男は、お腹に抱えていたカメラを大事そうに抱え、戦果を確認することにした。
画面に映し出されるのは、朗らかに笑っている佳奈と無表情でもどこか機嫌が良さそうに見て取れる結良。
男が深夜から境内の茂みに張り込むことで得た、満足のいく一枚だった。
「あいつらは耳がいいから寝ている間にポジション取りしておくのがベストとは聞いていたが、まさかここまで良いのが取れるとはなぁ」
当然、男も盗撮が悪であることは認識していたし、罪悪感がないといえば嘘になる。ましてや、別に彼女たちを撮影するのが全く以って禁じられているわけではないことも認識していた。
毎年実施している彼女たちの神社の例大祭では撮影が許可されていること、稀に神社主催で撮影会を開催していること、それ以外の時でも一声かければ撮影許可が貰える場合もあること、単に無許可な撮影が禁止されていることも全て男は認識していた。
しかし、それでも男は深夜に茂みに入り来み、全身を襲う虫刺されに耐え、空腹と眠気に耐えてまでも、盗撮したいという欲を抑えられなかった。
それは、男が少女たちの自然体な姿を写真に収めたい、というシンプルな動機による。
始めて彼女たちを見たのはSNSに偶然流れてきた投稿だった。その可憐さに男は一瞬で虜になり、ファンになるのと同時に、その投稿に対してどこか不満も感じていた。
なぜこんな不満なのか、見比べていくうちに、不満を感じた写真は撮影が許可された時のものであることに気が付いた。撮影が許可されている場というのは被写体に硬さが出る。しかし、男は無意識的に少女たちの普段の顔、素を求めていた。
ネットにある彼女たちの写真はほとんどがそういう場で撮られたものであるが故に、男が求める巣の表情が写真からは読み取れなかった。
そして、そういう写真はほとんど出回っていない。ないなら自分で撮りに行けばいいじゃないと思いいたり、自分で情報を集め、決行したというわけだった。
だからこそ、完全に意識していないこの写真は,、男にとってまさに快心の1枚だった。
「まぁ、これがバズれば、あの神社も儲かるわけだし、そう、これは見方を変えれば慈善行為なんだ」
あまりの写真のできっぷりに、先ほどまでの罪悪感が薄れ、寧ろ善行をした気分に男はなった。
そのまま、達成感と全能感に浸りながらニマニマとその写真を眺める、
「へ、へへへへへ流石俺といったところか、いい写真だ、あの男もいい具合に画角から排除できたし」
「ふむ、確かにいい写真ですね、被写体のなんとも自然体な感じが伝わってきますね」
「そうだろうそうだろう、それこそが僕の求めていたものなんだよ、話が分かるねえ」
「なんかこういう写真撮るときってコツとかってあるんです?」
「いい質問だねぇ、それはだね、常に対象に意識とカメラを集中して、ここだっていう瞬間を逃さないことだよ」
「へぇー、そうなんですねぇ、、、つまりこの写真はあいつらをずっとファインダーに映し続けたことの賜物なんですね、、、無許可で勝手に」
「それはこういう写真と撮るためには必要なコストというものだよ、僕から言わせれば巫女服に袖を通している時点で――ん?」
独り言に反応する声に違和感を持った男がふと、視線を上げると、先ほどまでは誰もいなかった室外機の上に少年が座り、ニコニコとカメラをのぞき込んでいた。
それが先ほどまで境内で少女たちと談笑していた奴だと認識した男は慌てて立ち上がり、カメラを守るよう後ろに隠した。少年も室外機からピョンと降りて、男に相対する。顔は変わらずニコニコした表情で
「や、やぁ君は、」
「どうも、なんか写真ではいい感じにはぶられた高井です、以後お見知りおきを」
「ど、どうも、それは失礼したね、あははは、そ、そうだ、今から君も撮ってあげようか?、な、なんて」
「えー本当ですかー、あんだけきれいに撮れる人の提案ですからねー、迷っちゃいますねー」
「そ、それなら今から撮ろうよ、ほら、ポーズ撮って」
「いや普通にその写真消しましょう?普通に、何で乗り切れるとか思っちゃってるんですか」
「ひっ!?」
何とかこの場をしのごうとする男に、内心ブチぎれた少年は笑顔を消し、男に迫る。
男は少年の迫力に気圧され、引き攣った顔で後ずさった。
「た、たらればの話になってしまうんだけど、」
「何ですか?」
「君もあの写真に写っていたら、消さなくてもよかったりしたのかい?」
「いや、存在消されてたから怒っているわけじゃないですけどね!?」
嘘です本当は1ミリくらい怒ってます、内心少年は思ったが、言ってしまったらなんか負けな気がしていた。