第九十五話
自分たちの席を見つけてさっき言っていた順番で席に座る。
「帰りは逆側になるからね。」
鈴音の言葉を聞いても理由がわからなかった。
「そうなのか?なんでだ?」
「色々調べてたら富士山が見えるのが行きはこっち側で帰りは反対らしいのよ。まあ別に見たいわけじゃないけどどうせならと思ってね。」
「なるほどな。やっぱり富士山ってのは特別なのか?」
「どうだろ?私はそうでもないけど沖縄行きの飛行機調べたときに富士山見るならこっち、みたいな記事があったからそうしただけなのよね。」
俺は特になんとも思わないが鈴音も富士山が見たいわけでもないらしい。
いろんなテレビ番組やニュースでよく話題になっているので富士山が多くの日本人にとって特別な存在だというのはわかっている。
「伊佐は富士山見たいとか思うのか?」
「そうですね。登りたいと思わないですけど飛行機からだと上から見えるから見てみたいとは思いますよ。」
「そうか。飛行機じゃないと上からは見えないもんな。彩乃はどう?」
「見てみたいよ。彩乃の体力じゃ登れないと思うし珍しい景色だから。」
「なるほどね。」
二人は見たいらしい。
そこで機長からのアナウンスは始まった。
もうすぐ出発らしい。
俺は子供の頃に飛行機に乗ることもよくあったので慣れている。
この飛行機のような大型機ではなかったが。
飛行機が動きだし滑走路にスタンバイした。
前に聞いたら伊佐だけは飛行機に乗ったことがないという事だった。
飛行機が加速を始め、体にGを感じ初める。
離陸し始めると隣の伊佐は窓から外を見つめる。
高度が上がり始めると興奮した表情で俺のほうを向き話しかけてきた。
「優也さん、上がり始めましたよ。おー、どんどん上がってますねー。」
飛行機だから当然だが初めて乗るとこんなになるのもわからなくもない。
しばらくすると巡航高度になったらしく上昇しなくなった。
「上昇が収まってきたな。」
「じゃあこの高さでずっと飛ぶんですか?どれぐらいの高さなんですかね?」
「たぶんな。高度一万メートルぐらいらしいぞ。」
「……よくわかりません。」
「地上から十キロぐらいのほうがわかるか?」
「……なんとなくイメージは出来ました。」
伊佐はよくわかってなさそうだった。
そこで彩乃も話に入ってきた。
「それぐらいで飛ぶ理由ってなんだろ?」
すると向こうの席から鈴音が答えを教えてくれた。
「なんかそれが一番効率がいいらしいですよ。高度が高いほど空気が薄くなって抵抗がなくなるらしいけどそれ以上高くなると燃料を燃やす空気が足りないんだって。それで一万メートル前後で飛ぶようになったんですくって。」
「鈴音ちゃん詳しいね。」
「前に調べたことがあっただけなんですけどね。」
彩乃の言葉に鈴音は照れ臭そうに答えている。
俺も鈴音が言っていた事は聞いたことがあるが実際は短距離飛行ならそこまで高度を上げないこともあるし、軍用機ならもっと高度を上げて飛べる飛行機も存在するがわざわざいうこともないだろう。
地図を見てみるとそろそろ富士山の近くを通る通るいうところで伊佐が声を上げた。
「あっ、あれが富士山ですかね?」
俺は伊佐が覗いてる窓から一緒に外を見る。
思った以上にしっかり見えるし間違いようもなく富士山だった。
興味はないつもりだったがここまではっきり見えると不覚にも感動してしまった。
「凄いな。こんなに見えるだな。」
「ですよねー。晴れててよかったです。」
「あー、曇ってたら富士山が雲の下になるから見えないのか。」
後ろを向くと彩乃も見たそうにしていたので俺は彩乃と席を入れ替わった。
「うわ、凄い。こんなにはっきり見えるんだね。」
「ですよねー。アタシもびっくりしました。」
俺は通路側に移ったが彩乃と伊佐がそのまま会話しているので俺は鈴音に話しかける。
「お前は見なくていいのか?」
「私は見たことあるからいいわ。あんたたちが見てテンション上げてんのを見てるほうが面白いしね。」
「そう言われるとなんか恥ずかしいな。」
「旅行なんだしいつもよりテンション上げて楽しんだもん勝ちよ。」
「それはお前もな。いつもの離れて俯瞰するんじゃなくて楽しめよ。」
「別に俯瞰してるつもりはないんだけどね。あんたもよ。あんたの場合は達観しすぎなのよ。」
「……お互い今回は目一杯楽しもうぜ。こんなメンバーで旅行なんて最初で最後だろ。」
「そうね。知り合いもいないだろうしちょっとぐらい羽目外してもいいかもね。」
「それでいいと思うぞ。」
「あんたもだからね。」
「わかったよ。」
富士山も見てなくなって元の席に座り直した。
「着いたらレンタカーは空港で受け取ることになってるからね。」
「そんなのあるのか?レンタカー屋まで送迎じゃなくて?」
「空港ですぐ借りれるのもあったからそれにしたわ。荷物多いと思ったからね。返すのも空港乗り捨て出来るから便利でしょ?」
「それは楽だな。」
「鈴音さん、ありがとうございます。アタシ旅行にあんまり行ったことなくて計画とかしたことないから全部お任せしてしまって。」
「いいわよ。旅行って計画するのも楽しいしね私プロデュースだから退屈はさせないわよ。」
「彩乃も親の計画した旅行しか行ったことないから色々準備してくれた鈴音ちゃんには感謝だよ。」
「そんな持ち上げてもなんにも出ませんよ。」
その後も沖縄での予定やしたい事、食べたい物などの話をしていたらいつの間にか沖縄間近になってきた。
外を見ていた伊佐が「沖縄が見えてきましたよ。」と言うので俺も外を見る。
「おー、飛行機から見ても海が綺麗だな。」
「ですねー。この海で泳げるの楽しみです。」
「予定を決めてない時間もけっこうあるから何回か泳ぎにも行けるわよ。」
「さすが鈴音さんですね。」
機内アナウンスが始まり、席に座りシートベルトをするように指示があった。
指示通りにして待っていると高度が下がってきて着陸体制に入る。
無事、着陸してトラブルなく預けた荷物を受け取った俺たちはレンタカーの受け取り場所に向かった。




