第九十三話
「優也さん、旅行の話なんですけど鈴音さんから聞いてますよね?」
飲み始めて少ししてからの伊佐の言葉だった。
そういえば電話でも旅行の話をすると言っていた気がする。
「ああ、四人で行くって話だろ?お前はそれでいいのか?」
「はい。彩乃さんは四年生ですし四人で旅行なんて最初で最後じゃないですか。せっかくお二人とも仲良くなったし行ってみたいと思ったんです。優也さんとはまた行けると思ったんですけどダメですか?」
「俺と行く機会があるかはわからんけど四人で行くのはいいよ。鈴音にも言ったからなんか話してるんだろ?」
「ええ、行く場所はだいたい決まりましたよ。アタシからはまだ言いませんけど。日にちはまだ決まってませんから。」
「そうか。まあちゃんと決まったら教えてくれ。」
「優也さんってジンベイザメが好きなんですか?」
「鈴音から聞いたんだな。好きっていうか見てみたいって話しただけだよ。そのことを話してて夏に旅行となると行き先は予想がつくな。」
「あはは、バレました?でもアタシから言ってはないですからね。」
ほとんど言ってるようなもんだと思うがそこには触れないでおこう。
「この際だから四人で話して決めたほうが早いんじゃないか?」
「それもそうですね。どうします?お二人にはアタシから連絡しましょうか?」
「いや、俺からするよ。」
「今からします?」
「お前と飲んでるときに他の女性に連絡するのはダメだろ。」
「さすが優也さん、紳士的ですね。」
「そんなんじゃないけどな。旅行の話はそれぐらいか?」
「ですねー。あっ、旅行繋がりで一つあるんですけど水着新調するんで着いてきて下さいよ。」
「嫌だ。女性の水着の店に付き合うとか地獄じゃねーかよ。」
「なんでですか?いろんな水着姿が見れて役得じゃないですか。」
「それ以上にそういう空間に居るのが苦痛なんだよ。」
「役得の部分は否定しないんですね。」
「……そりゃあ、まあ……」
「よかった。アタシの水着姿を見たくないわけじゃないんですね。」
「見たいか見たくないかで言えば見たいってこんなこと言わすなよ。」
「アタシが言わせたわけじゃないじゃないですか。優也さんは旅行はいつでもいいんですか?」
「大丈夫だよ。お前はいいのか?」
「大丈夫ですよ。夏休みは暇人なので。」
旅行の話は終わってそれからはいつもの雑談をしながら飲むことになった。
「もうすぐ十二時ですね。そろそろ帰りますね。」
「いつもはなにかと理由をつけて泊まろうとしてたのに今日は泊まろうとしないんだな。」
「なんとなくですけど旅行の前に泊まるのはフェアじゃない気がするんです。」
ちょっと前まで泊めるのに抵抗があったのに今日は帰ろうとしていることを意外に思ってしまっている。
付き合っていない女性を泊めることに慣れてしまってはいけない。
友達としての距離感をしっかりしなくては。
「よし、送っていくよ。」
「ありがとうございます。片付けたら帰りますね。」
「遅くなるから後で俺が片付けるよ。」
「いいんですか?」
「大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。」
何度も送っているので見慣れた道を通る。
そして見慣れたマンションに伊佐が入っていくのを見送った。
夏休みに入ってすぐに彩乃に電話をかけた。
『もしもし。優也くん、どうしたの?』
「旅行のことなんだけど他の二人とは少し話したけど彩乃とは話してなかったから話そうと思ってね。」
『彩乃はいつでも大丈夫だからほとんど二人に任せてるよ。』
「そうなの?バイトは?」
『夏休みは帰省してる学生が多いからお客さん少ないらしいし高校生のバイトの子も居るからスイーツ作りの勉強しかしないつもりなの。』
「そうなんだね。」
『うん、だからいつでも行けるよ。』
「なるほどね。」
『優也くんはどうなの?』
「俺もいつでも大丈夫なんだよね。」
『彩乃、友達と旅行なんて行ったことないからすっごく楽しみなの。』
「考えてみれば俺も初めてだよ。じゃあ他の二人と連絡取って日程決めるね。」
『うん、ありがと。』
それからは鈴音が中心になって連絡を取り合い予定を決めた。
行くのは予想通りの沖縄、日程は火曜日出発の三泊四日で金曜日に帰ってくる。
この時期に土日を絡めると空いているホテルがなかったかもしれないが俺たちは学生で曜日の縛りもなく予約できた。
夏休み料金で飛行機もホテルも高額だが平日だと少しは値段が下がるのでちょうどよかった。
余談だが三人とも新しい水着も買っていくらしい。
もちろん買いに行くのに俺は付き合わなかった。
俺も水着を持ってなかったので一人で買いに行ったりしたのだが。
来週出発なので準備をしないといけないがほとんど旅行に行ったことがないのでなにを持っていけばいいのかわからない。
とりあえずバッグに水着と数日分の着替えを入れたがあとは財布とスマホぐらいしか思い付かない。
そして旅行当日、始発の電車に乗って空港に向かうということで俺は朝早くに駅に向かった。




