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第九十二話

夏休み目前、昼間から伊佐から電話がかかってきた。

今日は木曜日だが俺が履修しているほとんどの教科で休み前のテストも終わりもう講義をしない教授も多くて講義がない日だった。


『お疲れ様でーす。可愛い後輩からの電話嬉しいですかー?』


ピッ


俺は反射的に電話を切った。

なんとなく伊佐のテンションといきなりの発言に思わずスマホの通話終了ボタンをタップしてしまった。

すぐに着信音が鳴りだしたが少し待ってから電話に出る。


「もしもし。」


『ちょっと優也さん!いきなり切らないで下さいよー!』


「いきなり変なこと言い出すから思わず切ったんだよ。」


『変ってなんですか、変って!アタシ可愛いじゃないですか。』


「じゃあまたな。」


『ちょ!優也さん!ごめんなさい。切らないで下さい。』


「わかったわかった。切らないから落ち着け。」


『優也さんはつれないですねー。ちょっとぐらい乗ってくれてもいいじゃいですか。アタシって可愛くないですか?』


「伊佐は普通に可愛いと思うぞ。」


『……………』


「おい、どうした?……おーい?」


『……なんなんですか?急にデレないで下さいよー。こっちが恥ずかしくなっちゃうじゃないですか。』


「デレてねーよ。客観的な事実を言ってるだけだろ。」


『もういいです、その話は。それより今日料理作りに行っていいですか?旅行の話もしたいんですけどバイトあります?』


「今日はバイトは入ってないから大丈夫だぞ。」


『じゃあ夕方行きますね。』


「わかった。」



夕方、伊佐がやってきた。


「お邪魔しまーす。」


「いらっしゃい。」


伊佐は中に入るとさっそく料理を始めた。


「まずは料理作りますね。食べながら旅行の話しますね。彩乃さんと鈴音さんにも優也さんと旅行の話するって言ってますから。」


「今日、うちに来るのも言ってんのか?」


「………今日はぶり大根とお味噌汁を作ります。優也さんってあんまり和食食べてないですよね?」


「俺は料理出来ないし、レストランでも和食は選ばないな。」


「嫌いじゃないんですよね?」


「特に苦手な食べ物はないし和食は好きだぞ。」


「よかった。じゃあ予定通り作りますね。ちょっと待ってて下さい。」


「……言ってないんだな。まあ別に言わないといけないわけでもないんだろうけど。」


「ですよね。悪いことしてるわけじゃないですからね。」


伊佐はもちろん悪いことをしているわけではないがここに来ることが抜け駆けしているような気持ちなのかもしらない。


「出来ました。優也さん、運びの手伝って下さい。」


「ああ。」


二人でローテーブルに料理を運ぶ。


「優也さんはビールですか?和食に合うお酒ってなんですかね?」


「ビールで。どうなんだろうな?日本酒とか焼酎かな。俺はあんまり飲まないからよくわからんな。」


「アタシもビール飲んでいいですか?」


「いいよ。うちの冷蔵庫にある酒なら好きに飲んでいいからな。つってもビールと酎ハイぐらいしかないからカクテルとか他の酒が呑みたかったら自分で買ってきてくれ。」


「じゃあ今度飲んでみたいお酒買ってきますね。今日はビール飲んでみます。」


「ああ、じゃあいただきます。」


「いただきます。」


さっそく伊佐の作った料理をいただく。

もう何度も食べているがやっぱり伊佐の作った料理は旨い。

短時間で作ったのに大根にもしっかり味が染みていて柔らかい。

味噌汁はそれぞれの家庭の味があるというが伊佐の作った味噌汁は俺の好みに合っている。


「旨い。よく短時間でこれだけの大根に味をつけれるな。」


「えへへ。ありがとうございます。短時間でも味を染み込ませるコツがあるんですよ。うまく出来ててよかったです。」


そこで得意気な顔でビールを飲んだ伊佐だが表情が曇り舌を出して「うえっ」と呻いた。


「やっぱりビールって苦いですね。」


「そうか?まあ女子には苦いのかな?昔は男女関係なくとりあえずビールって時代もあったらしいけどな。他の飲んでいいぞ。それは俺が飲むから。」


「いいですか?じゃあお願いしようかな。」


「ちょうど俺のなくなったしそれ飲むよ。」


「って間接キッスじゃないですかー。」


言いながら伊佐は恥ずかしがるわけでもなくニヤニヤしている。


「笑ってんじゃねーか。思春期じゃあるまいし気にしないだろ。」


「……それはそうですけど。」


俺は伊佐の飲みかけのビールをそのまま飲みだした。


「酎ハイ取ってきまーす。」


次の酒を冷蔵庫に取りに行った伊佐の頬がほんのり赤くなっていた事に俺は気付いていなかった。

思ってたより長く冷蔵庫を物色していたようでしばらくしてから伊佐が戻ってきた。


「このぶどうの酎ハイ貰いますね。」


「おう。まだ甘いほうが好きなんだな。」


「そうですね。色々飲めたほうが大人の女性なんでしょうけどまだ舌がお子ちゃまみたいです。」


「飲めないもんを無理に飲むことないだろ?旨いと思うものを飲んだんでいいと思うぞ。」


「それはそうですけどいろんなお酒を飲めるほうが格好いいと思うのでいずれ飲めるようになって見せます。」


伊佐は小柄でどちらかというと可愛い系なので大人の女性に憧れるんだろうか。

俺には伊佐の基準はわからないが酒が飲める女性が大人の女性ということらしい。

俺としては酒よりももっと落ち着いた言動をしたほうが大人の女性に近付けると思うんだが。


食事の後、洗い物などの片付けを終えた伊佐と俺は酒とつまみを準備して家飲みをすることにした。

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