第八十九話
里佳は早苗ちゃんと俺の表情を見てなにかを察したのか神妙な顔をした。
「…えーっと、どうなったのか聞きたいところだけどもう閉園間近だからとりあえず出ましょう。」
里佳の言う通りもうすぐ閉園なので話をするのはここを出てからすることにした。
里佳が真ん中で左右に俺と早苗ちゃんという立ち位置で歩く。
遊園地から出てちょっと歩いたところで立ち止まった。
結果的に里佳が居てくれてよかったような気がする。
早苗ちゃんと二人だとなにを話せばいいのかわからない。
「優也、早苗と先に話していい?」
「ああ、いいよ。」
「ありがと。ちょっと待っててね。」
里佳は早苗ちゃんを連れて俺から離れたところで話し出した。
俺が聞かないほうがいいと思ったので意識を向けないためにスマホをいじることにした。
しばらくすると里佳が俺の前に歩いてきた。
「おまたせ。ごめんね優也。今日はもう早苗は帰らせるわ。」
「えっ?一人で帰らせるのか?」
「ええ、子供じゃないしまだ夕方で明るいから大丈夫でしょ。さすがにこのまま一緒に行動するのは無しでしょ。」
「まあそれはそうかもだけど……」
「大丈夫だって。」
そこに早苗ちゃんが近付いてきた。
「優也さん、今日はありがとうございました。優也さんとはこれからも友達ですよね?」
「もちろん。早苗ちゃんさえよければこれからも友達でいたいと思ってるよ。」
「よかったです。これからもよろしくお願いします。じゃあ今日はこれで失礼します。」
俺の返事を待たず早苗ちゃんはきびすを返し駅に向かって走り出した。
一瞬、追いかけようとしたがふった俺が追いかけてどうするんだと思うと動けなかった。
「俺が言うのもなんだが里佳は追い掛けなくてよかったのか?」
「今は一人になりたいんじゃないかしらね。夜に愚痴でもなんでも聞いてあげるわよ。なんならやけ酒にでも付き合ってあげようかしらね。」
「早苗ちゃんは未成年だろ?」
「家で飲むぐらいなら大丈夫よ。早苗が飲みたいって言えばの話だしね。」
「まあ俺には出来ないからケアしてあげてくれ。バイトで会ったときに普通に接したいしな。」
「時間がたてば大丈夫だと思うわよ。今からどっかでご飯食べましょ。早苗も一人の時間があったほうがいいと思うからすぐには帰らないほうがいいと思うし。」
「まあそうかもな。でも酒を飲む気分じゃないからファミレスとかだぞ。」
「私だってこの状況で優也と飲もうとは思わないわよ。」
二人で駅のほうにゆっくり歩いていると全国チェーンのファミレスがあったので中に入る。
案内された席で注文を済ませた後、二人とも無言だったが運ばれてきたメニューを食べ始めたところで里佳から話し出した。
「やっぱり優也にとってあのコは恋愛対象じゃなかった?」
「まあぶっちゃけ女性というより子供に見えてたかな。」
「まだ早かったって事かな。でもゆっくりしてたら三女神の誰かと付き合い出すかもしれないもんね。」
「……なくはないかもな。」
「ねえ、私って恋愛対象に見れるの?」
「…おい、それは…」
「あー、いやいや違うわよ。妹をふった相手と付き合うつもりはないわよ。ずっと先の話ならわからないけどこのタイミングはあり得ないから。」
「ならいいけど………里佳は鈴音の友達だからな。そういう対象としては見れないかな。」
「それって鈴音のことが好きってことじゃないの?」
「どうなんだろうな。俺も鈴音のことをどう思ってるのかよくわからん。最近はただの親友って言いきれないところもあるんだよなぁ。他の二人のこともあるからいい加減自分の気持ちを整理しないといけないとは思ってるけどな。……鈴音に言うなよ。」
「言わないわよ。私たち姉妹じゃ勝てないと思うしもう三女神の誰かと付き合っちゃいなさいよ。その方が早苗も次に進めると思うし。」
「もうちょっと待ってくれ。そんなに急いで誰かと付き合おうとか思ってないからな。」
「そっか。それで三女神とはどうなの?最近は大学でも当たり前の光景になってきて噂も減ってきたとはいえ一部の人はまだ三股とか言ってるわよ。」
「そんなんじゃないよ。でも夏休みになったら旅行に行く話になってるよ。」
「えっ?四人で?」
「いやいや、それはないだろ。それぞれと行くことになると思うんだけどスケジュール的に三回も旅行に行くのは大変なんだよなぁ。」
「でしょうね。」
「ただあの三人ってお互いに連絡取り合ってるみたいなんだよ。どんな話してるのかはわからないけどな。」
「…………」
「どうした?」
「言っていい?」
「なんだよ?言いたいことがあるなら言えよ。」
「優也一人が三回旅行って難しくない?三人が連絡取って決めるんなら四人で旅行になる可能性が高いと思うわよ。」
「…………」
里佳に言われて考えてみるとその可能性もあると思った。
いや、むしろそうなるような気がする。
「そんな気がしてきた。明日、鈴音と会うから聞いてみるよ。」
「もしそうなったら行くの?」
「旅行の約束はしてるし行くよ。」
「帰ってきたら話聞かせてね。」
「いやいや、まだ四人で行くって決まってないからな。」
「フラグが立ってるわよ。」
「勘弁してくれ。」
食事が終わりファミレスを出て駅に向かい電車に乗った。
最寄り駅に戻ってきた俺たちはそこで別れる。
「じゃあ今日はありがとな。早苗ちゃんのことよろしくな。」
「任せなさい。妹のケアは姉の仕事よ。じゃあまたね。」
「またな。」




