第八十四話
「優也くん、今日はありがと。」
帰り道、彩乃からお礼の言葉が出た。
「いやいや、旨いケーキを食べさせてもらったしお礼を言うのは俺のほうだよ。ありがとう。」
「ううん、ケーキの試食もだけどこうやって送ってもらってるし優也くんにはお世話になりっぱなしだよ。」
「俺は大したことしてないしご飯食べさせてもらってるからね。」
「それは彩乃がやりたくてやってるだけだから。」
「それでもご馳走になってるからね。今日もスイーツ食べさせてもらったし。」
「今日のケーキはどうだった?」
「俺の好みで言えばチョコのほうだけどヒカルさんの言うように万人受けするのはイチゴのほうだろうね。」
「うん。彩乃もそう思う。やっぱりそういうケーキのほうがいいのかな?」
「うーん、どうだろ?たしかにヒカルさんの言うほうが誰にでも受け入れられていい気もするけど一つ一つターゲットを絞ったケーキもアリだと思うんだよね。どっちが正しいとかじゃないんじゃないかな?」
実際にはどこで店を出すかも関係してくるだろう。
この辺りだと大学が多くて学生がたくさん住んでいるから旨いのは当たり前として見た目の映えも重要だと思うけどビジネス街や住宅地だと違ってきそうだ。
まずはケーキ作りの腕を上げるのは当然としてどんなケーキを出すかは店の場所や規模で変えなくてはいけない気がする。
そんな俺の考えを彩乃に伝えた。
「なるほど。まずはいろんなケーキを作れるように頑張らないと。出すケーキは後から考えていいってことだね。」
「あくまで俺の考えだけどね。」
「でも優也くんの言う通りだと思う。ありがと。優也くん、ご飯どうしよっか?彩乃のうちで食べる?」
「さすがに今から彩乃の家に行って作ってもらうのは悪いよ。ケーキであんまりお腹空いてないからどっかで軽く食べようか?」
「じゃあそこのファミレスに寄ろうよ。」
「そうだね。」
二人で近くのチェーン店のファミレスに入り俺は唐揚げ定食、彩乃はカルボナーラを頼んだ。
夜ご飯には遅い時間で他の客も少なくわりとすぐに注文した品が出てきたので食べながら雑談していると彩乃が真剣な表情で俺を見ているのに気付いた。
「どうしたの?」
「優也くんに聞きたいことがあるんだけど聞いていい?」
「俺に答えられることならいいけど…」
「…あの……二人に聞いたんだけど……えーっと…」
彩乃は少し緊張しているのかぎこちなくしどろもどろになっている。
二人というのは誰のことだろうか。
彩乃の親友のハルさんとトモさんとは俺はほとんど関わりがないから違うだろう。
やっぱり三女神の二人かな。
三人でLINEグループを作っているらしいので俺の知らないところで交流があるんだろう。
「鈴音と伊佐からなにか聞いたってことかな?」
「…うん。連続に二人と旅行に行く予定だったった聞いた。」
「最初に鈴音と旅行に行こうって話になってね。それを聞いた伊佐が自分も行きたいって言い出したから二人とそれぞれで旅行に行く流れだったんだけど結局行かなかったよ。それで夏休みになったら行こうって話になってる。」
「…二人だけズルい。…彩乃も行きたい…」
彩乃は俺に聞こえるか聞こえないか微妙な小声で喋っている。
うっすら聞こえているし聞こえなくてもなにが言いたいかはわかる。
「彩乃も行く?」
「行きたいけどいいの?」
「彩乃とだけ行かないってことはないよ。ただ三回も旅行に行くとなると予定立てるのも大変だから三人で話して日程決めてもらわないといけないね。泊まるとことか早めに予約しないといけないだろうし。」
「じゃあ二人と話してみるね。ところで優也くん伊佐ちゃんのこと名前で呼んでた?」
「前は名字で呼んでたよ。でも伊佐に名前呼びにしてくれって言われてて親しくなって改めて言われたから名前で呼ぶようになったんだよね。」
「そうなんだ。伊佐ちゃんとすっごく仲良くなってるってことだよね?」
「と言っても彩乃は最初から名前呼びだったけどね。まあ後輩から友達に変わったのかな。」
「鈴音ちゃんは知り合って最初から名前で呼んでた?」
「いや、知り合ったのは高校だけど話すようになってからもずっと名字で呼んでたかな。親友って言える仲になったのはだいぶ後だからたし名前呼びはそれからかな。」
「そうなんだね。優也くんはそれまでは海外暮らしだったんだよね?」
「そうだね。」
「その頃から今でも仲のいい女の子っているの?」
「海外にいた頃にそれなりに話す人はいたけど今でも連絡を取ってる人はいないよ。」
「そっか。」
彩乃は安堵の表情を浮かべて「ならそこは心配しなくていいのかな。」と小声で呟くが俺の耳には普通に聞こえていた。
食事代をお互いに自分が払うと一悶着あったが俺が払うことでなんとか落ち着いてファミレスを出た。
彩乃を送るためにマンションに向かうが俺のアパートも近いので送っている感覚もなかったりする。
「優也くん今日はありがと。まだ今はお店を出すことは考えないでとにかくスイーツ作りの経験を積むね。」
「それが良さそうだね。」
「また試食お願いね。あとうちにもご飯食べに来てね。」
「ありがとう。じゃあまたね。」
「うん、バイバイ。」
彩乃は嬉しそうな表情でマンションに入っていった。
見送った俺は最近身体がなまっている気がしたのですぐにアパートには向かわずランニングで遠回りして帰ることにした。
次回は十月一日に更新します。




