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第八十二話

六月に入ったが俺の生活はあまり変わっていない。

平昼間は大学に行き夜は彩乃のマンションに行くか伊佐が料理、掃除などをしに来てくれるかで週末になると鈴音のマンションに行く。

村田姉妹とは大学やバイト先で会えば話をするがそれ以外ではあまり会っていない。

こんな生活をしていていいのかと思わなくもないが誰かに迷惑をかけているわけでもないので止めようとも思わない。

そんな日々を過ごしていたある日、彩乃から電話がかかってきた。


『優也くん今大丈夫?』


「大丈夫だよ。どうかした?」


『今度、優也くんの時間があるときにお店に来てほしいの。バイトにもだいぶ慣れてきたし店長さんにいろいろ教えてもらって試作のスイーツ作ってるから優也くんに食べてもらいたいの。』


「それはいいけどいつがいい?やっぱり週末かな?」


『週末だと忙しいから平日のほうがいいかも。試食は閉店後になると思う。』


「なるほど。遅くなっても俺が送れば大丈夫だしね。」


『うん。優也くんなら送るって言ってくれると思ってた。』


「もちろんだよ。俺はいつでもいいよ。」


『じゃあ店長さんに聞いてみるね。たぶん明後日になると思う。』


「了解。ちょうどバイトもないから大丈夫だよ。何時に行けばいいか連絡してよ。」


『うん。わかった。』


電話を切って考える。

彩乃は夢に向かって頑張っていて凄いと思う。

俺のようにただダラダラと生きている人間には眩しく見える。

今の大学に入ったのも鈴音と一緒に受けただけだし卒業後にやりたいこともない。

実は働かなくても暮らしていけるぐらいの金なら持っているし海外に住んでいた頃の仕事ならいつでも復帰出来るだろう。

今さら昔のような生活をしたいとは思わないし、もうあの頃のようには仕事をこなせなくなっていると思うが。




今日は彩乃との約束の日で夜の七時に閉まるスイーツ店なので俺は一時間前に店に来ている。

彩乃がウェイトレスとして働いているのを見ながらコーヒーを飲んでいると店の制服を着た体格のいい女性?が話しかけてきた。


「どーも。こんにちは。私はこの店の店長のヒカルです。あなたが彩乃チャンのお友達の優也クンね?」


話しかけてきたのは店長らしい。

身長は百九十センチぐらいありそうで筋骨粒々な女性だ。

総合格闘技のヘビー級で世界を狙えるんじゃないかと思えるぐらいの体格だが動きを見る限り女性で間違いないだろう。


「どうも、はじめまして。友達の彩乃がお世話になってます。」


店長さんは俺を値踏みするように見つめている。

この店の客層は若い女性が多いと思うがこの店長に見つめられると逃げたしたりすんじゃないだろうか。

俺は平気だがそう思えるぐらいに迫力がある。


「あなた凄いわね。私を見ても眉毛一つ動かさないし落ち着いてるわね。」


「店長さんがいきなり襲ってきたりするわけないですからね。」


「それはそうだけど私を初めて見た人ってだいたいビビっちゃうのよねぇ?なんでなのかしら?」


「………………」


いや、絶対気付いてるだろ?と思ったがとりあえず黙っておくことにした。


「なにか言いたいのかしら?」


「……いえ、別になにも……」


「私の作ったスイーツを食べてくてた人に感想聞きたいだけなのになぜか逃げられちゃうのよねぇ。」


「あんたの見た目が怖すぎるんだよ!」


ダメだった。

我慢できずに突っ込んでしまった。

初対面の相手にあんたはないだろ、と思ったが一回言ってしまったら何回でも変わらないだろう。


「あんたのガタイで迫られたら普通の奴ならビビるだろ?」


「……そうなのかもね。でもあなたは平気そうね?」


「俺は慣れてるんでね。それで彩乃は……」


「優也くん、いらっしゃい。」


彩乃が店の奥から出てきた。

可愛らしい服を着ていて似合っている。

よく見ると店長も同じ服なのだが全く違った雰囲気である。

手にはチョコケーキの乗ったトレイを持っていて俺に差し出してした。


「これは店長さんからのサービスだよ。」


俺の前に置かれたケーキが置かれたので店長のほうを見ると軽くウインクされた。

ちょっと怖い。


「せっかくだから私のケーキも食べてみてちょうだい。後で彩乃チャンのケーキも試食してもらうけどまずはこの店の味も知ってもらわないとね。」


「ありがとうございます。いただきますね。」


「優也くん、今日はお客さんが少ないから奥でスイーツ作ってるね。また後で。」


彩乃は軽く手を降って奥に入っていった。

俺は気になった事を店長さんに聞いてみる。


「いいんですか?バイトなのに接客もしないでスイーツ作りとかさせて。」


「いいのよ。今日はお客さん少ないしあなたと話してみたかったのもあるから。彩乃チャンから聞いたのよ、ある友達の影響で夢に向かうことが出来るって。あなたの事でしょ?だからあなたとお話してみたかったのよねぇ。」


「俺はなにもしてませんけどね。彩乃が頑張ってるから応援したいと思っただけですよ。」


「それでも彩乃チャンはいっつも優也クンの話ばっかりしてるわよ。彩乃チャンの夢を応援してるもの同士だし連絡先交換してもらえないかしら?彩乃チャンの帰りが遅くなりそうな時とかに連絡したら迎えにきてもらえない?」


「そういう事なら交換しときましょう。遅くに彩乃一人で帰らせたくないですからね。でもいいんですか?店長さんが仕事中に客と連絡先交換なんてして。」


「目的が男女のソレじゃないからいいのよ。それとも今度、私とデートでもしてみる?」


「嫌です。」


「恐ろしいぐらいにはっきり言うわね。」


言いながらヒカルさんはスマホを出してLINEのQRコードを俺に見せる。

俺もスマホを取り出し読み取ると友達登録した。


「じゃあ彩乃は一人暮らしだしなにかあったら優也クンに連絡するわね。それにしても彩乃チャンも大変ね。」


「大変?」


「優也クン相当モテるでしょ?」


「そんなことはありませんよ。」


「謙遜は相手によっては嫌みにもなるわよ。彩乃チャンにはライバルが多そうね。」


「それは俺に言ってもいいんですかね?」


「……失言だったわ。ごめんなさい。出来れば忘れてもらえないかしら?」


「……俺はなにも聞いてませんよ。」


「…優也クンはいい男ね。私がもっと若ければほっとかないのになぁ。ねえ、今度二人で飲みにでも行かない?」


「行きませんよ。」


「あら、残念。」


言いながらニコニコしているヒカルさんだった。


「全然残念そうじゃありませんね?」


「残念なのは本当よ。断られると思ってたけどね。じゃあ私も仕事に戻るわね。閉店までゆっくりしててね。」


ヒカルさんは店の奥へと入っていった。

よく喋るし見た目にもインパクトのある店長だった。

ただ大人しい性格の彩乃が働くならあれぐらいグイグイくる店長のほうが合っているのかもしれないと思った。

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