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第七十三話

アパートに帰った俺たちは赤ワインを開けて今日二度目の乾杯をした。


「よく赤ワインはお肉、白ワインはお魚が合うって言うじゃないですか。実際そうなんですか?」


「俺には赤と白の味の違いなんかわからんよ。滅多にワインなんて洒落たモノは飲まないしな。」


「友達も同じような事言ってました。飲めればなんでもいいみたいな。」


「まあ酔ったらなんでも旨いのは確かだな。」


「合うって言われてるモノだとさらに美味しいかもしれませんよ。赤ワインに合わせてお肉でも焼きましょうか?」


「なんでだよ。今日は働こうとするなよ。居酒屋で飲んだ後なんだから味の違いもわからないだろ?」


「ですねー。今日は買ってきたつまみだけにしときますか。」


「それで十分だよ。お前っていろいろやってくれるけどそもそもなんでなんだ?最初にお前を助けたけど恩返しにしてはやりすぎだろ?」


「そうですねぇ。きっかけは恩返しですけど優也さんの隣ってなんか居心地がいいんですよね。なんでかって言われるとよくわかんないですけど。優也さんに料理作るのは楽しいですし二人で食べたほうが美味しく感じるんですよね。」


「掃除までしてもらった世話かけまくりだけどな。」


「掃除もここに来る理由になりますからね。」


話していると赤ワインが空になった。


「どうする?白も開けるか?」


「飲みたいですけど開けたら遅くなっちゃいますよね。そろそろ帰らないと優也さんの迷惑になりそうですし。」


「………泊まっていくか?」


「いいんですか?」


嬉しそうに聞いてきた。

今日はけっこう飲むだろうと思っていたから泊めることも考えていた。

もちろん酔った勢いで、みたいな事にはならないようにしないといけないが。


「今日は特別だ。これから泊まっていいって訳じゃないからな。」


「……わかってますよ。でも優也さんから言ってくれたのは初めてですよ。」


「そうだったか。じゃあ白も開けるな。」


「はい。おつまみ取ってきますね。」


ワインをグラスに注ぎ、つまみを広げる。

白ワインを飲んでみたが正直、赤ワインとの違いはあんまりわからなかった。

普通に旨いから問題はないのだが。


「今日は泊めてもらえるからゆっくり話せますね。さっきの話なんですけど……」


「さっきの話?」


「恩返しってやつです。アタシってここにいろいろ持ってきてもうキッチンってアタシのテリトリーって感じじゃいですか?」


「……そうだな。」


「正直なところ迷惑になってませんか?」


「迷惑じゃないよ。飯作って掃除までしてもらってるだぞ。感謝してるよ。」


「よかった。ずっと気になってたんですよね。もし優也さんが彼女作ろうとしたらアタシって邪魔じゃないですか?」


「今のところ作るつもりもないけどな。」


「前から聞きたいと思ってたんですけど()()()()とはそういう関係になったことないんですか?」


「ないよ。ってそれより鈴音さん?」


「あっ!」


「いつの間に鈴音のこと名前呼びになったんだよ?」


「あはは。」


神崎は焦って冷や汗を流しながら目を反らしている。


「おい、話せよ。」


「……えーっと、……ほら、前に三人がここにお見舞いに来たじゃないですか?その後にちょっと三人で話しまして。……あの、出来ればあんまり聞かないで貰えると助かります。」


「まあ俺からとやかく言えることでもないか。今回は聞かなかったことにしといてやる。鈴音とはずっと親友としてやってきてるよ。」


「でも鈴音さんは優也さんの昔の事知ってるんですよね?」


「そうだな。あいつには昔話したからな。」


「やっぱり優也さんと今より仲良くなるためにはそれを話してもらえるようにならないとですよね。」


「そんなこともないぞ。一年の頃に彼女が居たことあるけど昔の事は話してないからな。」


「それでも鈴音さんに勝つには話してもらえるぐらいにならないとダメですからね。」


「鈴音に勝つってなんだよ?」


「なんでもありません!こっちの話です。」


深くは聞かないほうがいい気がする。

ちょうどワインも空になったのでそろそろ飲むのは終わりにする。


「そろそろ風呂にするけど溜めたほうがいいか?」


「入りたいけどこのまま寝たいです。」


「かなり飲んでるからキツいかもな。俺はシャワー浴びてくるからその間に着替えとけよ。」


「……わかりました……」


俺はシャワーを浴びに風呂場に入ったが神崎はあのまま寝てしまうんじゃないだろうか。

まあ寝てたらベッドに運べばいいだろう。


風呂から出ると神崎は寝巻きに着替えてベッドで寝ていた。

ずっと飲んでなかったらしいのであれだけ飲めば寝落ちするのも当然だろう。

なるべく音を立てないように寝る準備をして電気を消して床に横になる。

俺もけっこう飲んでるからかすぐに睡魔が襲ってきたので抵抗することなく眠りについた。


夜中に神崎の動く気配を感じて目が覚めた。

洗面所のほうに向かったのでトイレかなにかだろうと俺は目を開けずにそのまま寝ることにした。

が、神崎は戻ってくると俺の隣で横になる。


「優也さん、今日はありがとうございました。」


神崎は小声で囁いている。

たぶん俺が起きているとは思ってないんだろう。


「迷惑じゃなくてよかったけどまだ名前で呼んでもらえてないんですよねぇ。」


「伊佐」


「起きてたんですか!?」


「ああ、目が覚めた。これからは名前で呼ぶようにするよ。」


「いいんですか?」


「呼び慣れてないからすぐには切り替えれないけどなるべく名前で呼ぶようにするよ。」


「ありがとうございます。優也さん、これからもよろしくお願いします。アタシは鈴音さん以上の関係になりたいと思ってますから。」


「お前、それって……」


「まだ早いと思うんで言いませんよ。」


神崎は……いや、伊佐はベッドに上がって横になる。


「優也さん、おやすみなさい。今日はよく眠れそうです。」


俺は返す言葉が見つからず「おやすみ。」とだけ言って再び眠りについた。

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