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第七十一話

新学期が始まって数日、俺は神崎に電話した。


『もしもし。』


「おー、お疲れ。俺だけど今大丈夫か?」


『アタシに俺なんて知り合いは居ません。ちゃんと名乗って下さい。』


「そういうのいいから。ちょっと神崎に聞きたい事があるんだけどいいか?」


『よくないですよ。詐欺かもしれないじゃないですか?名前を言って…』ピッ


俺は電話を切った。

登録してある番号からの電話でウソ電話詐欺なんてあるわけがない。

しばらく待ってみたが電話は掛かってこない。

俺から掛けるのもなんか負けたような気になるのでそのまま待っているとようやく着信が入った。


『ちょっと優也さん、なんで掛けてくれないんですか?』


「なんでってなんか面倒くさい奴だなと思ったからかな。」


『なっ!可愛い後輩に向かってなんてことを…』


「自分で可愛いとか言うなよ。」


『可愛くないんですか?』


「……まあどっちか二択なら可愛いんじゃないか。」


『全く優也さんはツンデレですねぇ。』


「違うわ!デレてねーだろ!」


『はいはい、そうですね。それで聞きたい事ってなんですか?』


「……えーっと、お前、誕生日が春だって言ってたよな?何時なんだ?」


『もしかしてお祝いしてくれるんですか?』


「いや、しないけど。二十歳になったら酒を奢る約束してただろ?その確認だよ。」


『それって奢りならお祝いじゃないんですかね?やっぱりツンデレ……』


「前からしてた約束を果たすだけだ。で?何時なんだ?」


『今月の二十日です。』


「来週だな。どうだ?当日飲みに行くか?」


『もっと早く聞いてくださいよー。まさか優也さんに誘ってもらえるとは思ってなかったからもう友達とご飯食べに行く約束しちゃってますよ。』


「ならまた今度だな。」


『ちょっと待って下さい。女友達が奢ってくれる予定なんですけどまだ今ならキャンセルしても大丈夫かもです。』


「それはダメだ。先約はちゃんと守れ。当日しか奢らないってわけじゃないんだからそっちを優先しろ。」


『……わかりました。あっ!じゃあ早めに終わったら優也さんちに行ってもいいですか?』


「ダメ。遅く来たらまた泊めることになりそうだからダメだ。」


『ぶー、誕生日に優也さんに会いたかったのにー。』


「仕方ないだろ?飲みに行くのいつがいいか考えといてくれ。」


『じゃあその週の金曜日はどうですか?』


「いいぞ。」


『じゃあ金曜日にお願いします。前に行った居酒屋がいいです。』


「わかった。予約しとくな。」


『ありがとうございます。』


「じゃあまたな。」


『はーい。おやすみなさい。』


電車を切った俺は神崎の事を考える。

当日、大学で会っておめでとうぐらい言えたらいいんだけどなぁ。

電話では来るなと言ったがおめでとうぐらいは言わないとなにかと理由をつけて家に来そうな気がする。

付き合ってるわけでもないのに料理や掃除もしてくれる後輩だしプレゼントも買ったほうがいいかもしれない。

週末に買いに行くとしてホワイトデーに続いてなにを買うか迷うことになりそうだ。




今日は神崎の誕生日だ。

朝におめでとうのメッセージを送ってから大学に来ている。

空きコマの時間にいつものベンチに行こうとしているとこっちに走ってくる後輩を見つけた。

どう見ても全力疾走だがこのまま突っ込んでくるつもりだろうか。


「ゆーーうーーやーーさーーーーーん!」


全く止まる気配もなく走ってくる神崎。

そして、


ドガッ!ガシッ!「ぐえっ!」


飛び付いてきた神崎をそのまま受け止めたら変な声を出していた。

神崎をゆっくり降ろしたが目を白黒させていた。


「え!え?えーーーっ、なんで避けないんですかー?」


「誕生日おめでとう。ついに一緒に酒が飲めるな。」


「はい!ありがとうございます。……じゃなくて質問に答えて下さいよー。」


「いや、たぶんお前は避けられると思ってるだろうから受け止めたほうがビックリするかと思ってな。」


「そうですよ。避けられても大丈夫なように突っ込んだのにまさか受け止められるとは思いませんでしたよ。しかも優也さん体幹強すぎです。なんで余裕で受け止められるんですか?」


「お前ぐらいなら全力でぶつかっても大丈夫だよ。金曜日はもう予約しといたからな。」


「ありがとうございます。優也さん、今日飲みに行く友達に男は居ませんからね。」


「そうなのか?人気者のお前なら男女大勢でわいわいやるんじゃないのか?」


「優也さんと仲良くなってからは男が居る遊びは全部断ってますからね!」


「男友達だって大事だろ?」


「下心がない男なんてほとんど居ないと思いますし、優也さんに疑われるようなことはしないと決めたんです。ただのアタシの自己満ですから気にしないで下さい。」


「それのどこが自己満なんだよ?」


「アタシが他の男と遊んだら優也さんがどう思うかはわからないじゃないですか。もしかしたら嫉妬してもらえるかもしれないし気にもならないかもしれない。でもアタシは優也さんに胸を張って他の男と遊んでないって言いたいんです。そう言うためだからただの自己満足なんです。」


「なんか耳が痛いな。俺はお前以外とも遊んでるからな。」


「それはいいんです。優也さんにまで同じようにしてくれなんて言いませんよ。ただ最後に優也さんの隣に居るのがアタシであるように頑張るだけです。」


これはもうほとんど告白されたようなものだと思う。

まだ結果を求められてないだけだ。

最終的に俺は誰か一人を選ぶんだろうか。

俺にそんな資格があるとは思えない。

俺のような人間は誰かと幸せになるという選択肢を選んではいけないんじゃないだろうか。


「優也さん、どうしたんですか?なんかアタシ変なこと言っちゃいました?」


「いや、なんでもないよ。じゃあまた金曜日にな。」


「はい!楽しみにしてますね。」


神崎の笑顔を見て俺はおかしな方向へいきそうな考えを止めた。

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