第七十話
春休み最後の日。
今日は鈴音に呼び出されてショッピングモール買い物に来ている。
新学期に向けて買う物があるらしい。
俺はなにも買う予定はないのだが。
「ねえ、そういえば地元で恭子さんと恭華ちゃんに会ったわよ。」
「そうなのか?元気だった?」
「ええ、二人とも元気だったけどやっぱりあんたに会いたがってたわよ。でも帰ってこいとは言いにくいみたいよ。せめて連絡ぐらいしなさいよ。」
「わかったよ。今度一回顔出すかな。」
「そうしてあげて。」
「お前の両親は元気なのか?」
「元気よ。うちの親もあんたに会いたがってたわ。」
「そっか。夏には帰るとするかな。」
「そうしなさいよ。タイミングよければ一緒に帰りましょ。」
「で?今日は何を買うんだよ?」
「主に服ね。大学での立ち位置をキープするためには去年と同じ服は着れないのよねぇ。」
疲れたようにタメ息をつく鈴音。
やはり陽キャだと身嗜みも大事なんだろう。
俺のような隠キャだと毎年同じ服を着回しても誰も気にも止めない。
「陽キャも大変だな。まぁお前のセンスなら問題ないだろうけど俺なら毎年流行りの服とか選ぶとか無理だな。」
「後であんたの服選んであげよっか?イケメンフォーム用のやつ。」
「あの格好はもうしないって言ってんだろ。」
「いやいや、どっかで絶対またやることになると思うから一着ぐらい増やしといた方がいいわよ。」
「…………」
それからいくつかのアパレルショップを回って鈴音は数着の服を買った。
そもそも呼ばれた理由は荷物持ちの為だとわかっているので買った服は全て俺が持っている。
昼過ぎになりマックで昼食を取ることになった。
二人ともセットメニューを頼んで席に座る。
「しかし鈴音も変わったよな?」
「なにが?」
「前までなら俺を買い物に付き合わせる事なんかほとんどなかっただろ?」
「……そうかもしれないわね。」
「前は外では俺との距離感を考えて行動してただろ?」
「そうかもね。前はあんたとは回りの目を考えてある程度距離を置いてたけど最近はもう気にしなくていいかなって思うようになったかもね。」
「ふーん。」
「他人事みたいな反応ね。」
「俺は回りの目とかどうでもいいからな。」
午後からも鈴音に付き合っていろんな店を見て回った。
一通り行きたい店に行ったのか鈴音は満足そうな顔をしている。
「それじゃあんたの服を見に行くわよ。」
「え?さっきのマジだったの?」
「そうよ。さあ私の着せ替え人形になりなさい。」
「えー?適当に買って終わりでいいよ。」
「ダメよ。私のコーディネート力を見せてあげるわ。」
ヤル気満々な鈴音を見て俺は諦めた。
この表情の鈴音には何を言っても無駄なのだ。
鈴音の気が済むまで本当に着せ替え人形にされるんだろう。
予想通りされるがままに着替えさせられ俺は疲れきっていた。
「なかなかいい買い物が出来たわね。奢ってあげたんだから感謝しなさいよねって……あんた目が死んでるわよ。」
「疲れた……お前はなんでそんなに元気なんだよ?」
「久しぶりで楽しかったからね。」
なにが楽しかったのかは言わなかった。
単純に服を買うのがなのか俺と出掛けるのがなのか俺にはわからなかったがなんとなく聞かないほうがいい気がした。
「さて、ご飯どうしよっか?けっこう遅くなっちゃったわね。作ってもいいけどどうする?」
「今から料理は大変だろ?よし!久しぶりに焼肉食べ放題行こうぜ。ここまで全部奢ってもらってるからな。最後は俺が奢るぞ。」
「いいわね。歩き回ってお腹空いたし食べまくりましょ。」
「だな。」
ショッピングモールから出て近くの焼肉屋に向かう。
店は混雑していたが二人席が空いていたのですぐに座ることが出来た。
焼肉&アルコールの食べ飲み放題を頼んだ。
気を使う関係でもないのでお互いが好きなものを自由に頼む。
「春休みはどうだったの?後輩と映画行くって言ってなかったっけ?」
「あー、映画行ったよ。その後輩なんだけどうちの大学に入るらしいんだよ。」
「もうすぐ入学式じゃない?」
「たぶんな。」
「あんたを追いかけてきたんじゃないの?さすが天然女たらし。」
「たらしてねーよ。それで思い出したけどそのコなんだけどな、里佳の妹だったらしい。」
「……え?ほんとに?」
「里佳が言ってたから間違いないだろうな。」
「それはまた……姉妹を落とすつもりなの?」
「どっちもそんなんじゃないよ。友達だ。」
「向こうがどう思ってるかはわからないじゃない。」
「そうだけど現状では友達でしかないからな。」
「………現状では………」
鈴音はなにか考え込んでいる。
鈴音にはもう一つ言っておく事がある。
「それと休み中に彩乃のお父さんに会ったんだけどな。」
「え?父親に紹介されたの?結婚を前提に的な?」
「いやいやいやいや、そんなんじゃなくて友達としてなんだけどな。その父親が昔の俺と会ったことがある相手だったんだよ。」
「私と知り合う前ってことよね?」
「そうなるな。俺もなんとなく覚えてるし。」
「まさかの展開ね。大丈夫なの?」
「昔のことを聞いたりはしないって言ってたから大丈夫だよ。」
「……ならいいけど、……」
オーダーストップぎりぎりまで食べて飲んだ俺たちは歩いて帰っている。
酔っているのか足元がおぼつかないようで俺に寄りかかるようにして歩いている。
「ねえ、あんたは私が変わったって言ってたけどそれはあんたもよ。」
「俺が?」
「前のあんたなら私が大学で親しくしようとしたら距離を置いてたわよ。今の私の立ち位置を考えてなんでしょうけど面白くはなかったわ。でも最近のあんたは私との関係を隠そうとしてないでしょ?」
「周りに女友達が増えてきたのにお前と距離を置くのはあり得ないだろ?」
「そりゃそうよ。今まであんたとは高校からの同級生だから仲が良いだけと思われるようにしてたけど止める。堂々と私にとって一番大切な存在だって言うことにするわ。」
「……一番大切って……お前それは……」
「なんか文句ある?……あっても聞いてやらないけど。」
「……ないよ。やりたいようにやればいいよ。」
「言質は取ったからね。やりたいようにやるわね。」
「まあほどほどにな。」
鈴音のマンションの前まで帰って来た。
「今日はありがとね。新学期が始まるけど明日からもよろしくね。」
「ああ、よろしくな。」
俺は鈴音がマンションに入って行くのを見送ってから自分のアパートに向かって歩きだした。
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