第五十九話
ホワイトデー当日、今日はいつもより少し大きめのカバンに講義の教材とバレンタインのお返しを詰め込んで大学に向かう。
まずは講義がある教室に入ると里佳を見つけた。
鈴音は見当たらなかったので里佳のところに向かった。
「おはよう、里佳。これ、バレンタインのお返しだから受け取ってくれ。」
「おはよう、優也。ありがと。なんか良い物入ってるのかしら?」
「いや、普通にお返しのお菓子だよ。」
「ざんねーん。なんか面白いものとかに期待してたんだけどなー。」
「俺にそういうのは期待すんなよ。じゃな。」
「え?離れなくても隣に座ればよくない?」
「それもそっか。」
言われてみればわざわざ離れる必要もなかったのでそのまま座るのとにした。
「鈴音が来たらそっちに行ってもいいわよ。」
「いや、いつも鈴音の近くには座ってないからな。」
「そういえばそうだったわね。でも鈴音にもお返しあるんでしょ?もしかしてもう渡してるの?」
「まだだけど今渡さないといけないわけじゃないしな。」
里佳と話してると鈴音が友達数人と教室に入ってきた。
俺にチョコをくれた二人も一緒なのが見えたところで鈴音が俺に気付いた。
鈴音は俺の隣に里佳が居るのを見てから俺と目を合わせた。
俺は「後でな」と思いアイコンタクトで伝えると理解したらしい鈴音は一瞬頷くように顔を動かしてから遠い席に座った。
「なんか話さなくてもお互いを理解してそうだねー。」
「まあ長い付き合いだからな。」
「それだけじゃない気がするけどなー。まあいいわ。そろそろ教授来るわね。」
そこでちょうど教授が来て講義が始まった。
こう言ったら失礼だとは思うが意外なことに里佳は真面目に講義を受けていた。
大学の講義はとりあえず出席して後はテストで点が取れれば単位が貰えるので真面目に講義を聞いている学生は少ない。
高校と違い講義中に寝ていても注意してくる教授は少ないので寝ている学生がけっこう居たりする。
そんなどうでもいいことを考えていると講義が終わった。
「優也、また今度遊びに誘っていいわよね?」
「いいけどもうあの格好はしないからな。」
「残念。まあいいわ。また連絡するわね。バイバイ。」
「じゃあな。」
里佳はヒラヒラと手を降り教室を出ていった。
今日の里佳はいつもより少しだけテンションが低いように見えた。
だからといってなにを言えばいいのもわからないのでそのまま見送った。
気を取り直して鈴音たちのところに向かう。
「おっす。ちょっといいか?」
「優也、お疲れ。今日は朝から来てるのね。」
「今日はさすがにな。鈴音、バレンタインのお返し受け取ってくれ。」
「ありがと。なに買ってくれたの?開けていい?」
「止めろ。ここで空けるな。」
「えー?ここで開けて優也のセンスを確かめたいんだけど。」
「おい!マジで止めろ!」
「冗談よ。ありがと。帰ったら開けるわね。」
「そうしてくれ。」
鈴音は実際には開けるつもりはなかったと思うが周りに人が居るのでこんな態度だったんだろう。
鈴音に渡したのはお菓子とは別にピアスを渡した。
割りとリーズナブルな店で選んだので二組のピアスを選んだ。
一つは小さめでシンプルなデザインのピアスにしてもう一つは大きめの物にした。
ピアスなら指輪やネックレスと違って毎日違う物を着けるし何個あっても困らないだろう。
「それからこれ、バレンタインのお返しだからどうぞ。」
そう言ってチョコをくれた鈴音の友達二人にお返しを渡す。
「あっ、ありがとー。」
「お返しなんかよかったのに。鈴音の友達だから渡したいだけだし。」
二人はそれぞれ違う反応だがとりあえず受け取ってくれた。
大学に入ってからは大人しくしていて鈴音以外からチョコを貰ったことがないのでホワイトデーに他の女性になにかを渡すのは少し緊張していた。
「じゃあ鈴音、またな。」
「お返しありがと。またね。」
俺は教室を出て中庭に向かうといつものベンチに座る。
かなり寒いが俺は暑さ寒さに強くて一人になれるこの場所がお気に入りなのだ。
この中庭は教室間を移動する学生もあまり通ることがなく比較的静かなので俺はよくここのベンチで暇を潰している。
他の学生が全く人がいないわけではないが普通は学食や空き教室で駄弁る学生が多い。
彩乃は家が近いので大学で会わなければマンションに渡しに行くことも出来るので先に神崎に渡そうと思いメッセージを送る。
『お疲れ。今日は大学に居るのか?居たら渡すものがあるんだが。』
送信してしばらくたまに通る学生をぼーっと見ているとメッセージが届いた。
『今、学食に居ますから来てくれますか?』
学食に居るらしいがあそこは多くの学生が居るので目立ってしまう。
晒し者のようになりそうなので行きたくない。
『学食は勘弁してくれ。今日無理なら今度うちに来た時に渡すよ。』
『なんでですかー?大学に居るんですから今日渡して下さいよー。』
『学食以外でなら渡すぞ。』
『仕方ないですねー。じゃあ優也さんのとこに行きますよ。いつのもベンチに居ますか?』
『居るけどここわかるのか?』
『前からよく見掛けてたからわかりますよ。ちょっと待ってて下さいねー。』
ここに来てくれるらしいのでこのまま待つことにした。
しばらく待っていると神崎が小走りで近付いてきた。
「優也さーん、お疲れ様でーす。」
「おー、お疲れ。悪いな、わざわざ来てもらって。」
「ほんとですよー。ここ寒すぎますよ。せめて建物の中に居ましょうよ。」
「すぐ済むからこのままでいいだろ?これ、バレンタインのお返しだ。受け取ってくれ。」
「おっ、ありがとうございます。」
神崎は嬉しそうに受け取った。
渡したのは小箱が二つ入った袋だ。
「これって一つはお菓子ですよね?もう一つはなにか物を買ってくれたんですか?」
「お前も財布くれたからな。お菓子だけはあり得ないだろ?」
「お世話になってるからアタシが渡したかっただけですから気にしなくていいのに。」
「世話になってるのは俺のほうだろ。」
「開けてみてもいいですか?」
言いながら俺の隣に座る。
ここなら人も居ないので開けても問題なさそうだ。
「いいけど期待するなよ。大した物じゃないからな。」
「期待はしちゃいますよー。」
そう言いながら丁寧に包装紙を剥がしていく。
俺が神崎に渡したのはキーケースだ。
青みがかった淡い緑のキーケースで俺なりに神崎に似合うと思って選んだ。
「うわっ、キーケースじゃないですか!優也さん意外とセンスありますよね。」
「意外とってなんだよ?」
「だっていつもの格好が………でもそっか。お洒落したらあんなイケメンスタイルになるしセンスあるんですよね。しかもアタシのキーケースもうボロかったから嬉しいです。」
「うちに来た時に見てたからな。気が向いたら使ってくれ。気に入らなかったら使わなくてもいいぞ。」
「ありがたく使わせてもらいますよ。今日帰ったら早速鍵を付け替えます。………それで、優也さん、……合鍵くれたりしないんですか?」
「なんでだよ。」
「キーケースをくれるって事はそういう事かと。」
「そんなつもりはないぞ。」
「……そっかー。残念です。でもいつか合鍵渡してもらえるようになりたいです。」
「渡したくなるときがあれば渡すよ。」
「わかりました。じゃあ友達待ってるんで戻りますね。今日はありがとうございました。また連絡してお家にお邪魔しますね。」
「おお、じゃあな。」
神崎の顔を見る限り喜んでくれているようで一安心だった。
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