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第五十五話

冬休みの終わり、鈴音から連絡があり彼女のマンションに来ていた。

鈴音が帰省していたのは俺が高校の頃に過ごした場所だ。

共通の知り合いもいるし俺の保護者の立場にある恭子さんたちも住んでいるが会うことはなかったらしい。


「あんたは休み中バイト以外はなにやってたの?」


「友達と遊んだぐらいかな。里佳と遊んだのは里佳から聞いたけど他にもなんかあったの?」


「大したことはないけど神崎とクリスマスイブに遊んでバイトの後輩と元日に初詣に行ったぐらいだな。」


「………大したことある気がするんだけど…、神崎さんとイブを一緒に過ごしたのね?」


「……そうだな。まあなんもなかったけどな。」


アパートに泊めたことは言わないことにした。

男女の関係になったわけでもないので言えないわけではないのだが…


「……それならいいんだけど……」


鈴音はあまり納得がいっていないようだった。


「それで初詣の後輩って?女の子?」


真剣に聞いてくる鈴音に尋問されているような気がしてきた。

今までは俺が何処でなにをしていたかなんて聞いてくることはほとんどなかった。

やはり鈴音の中でも今の関係になにか思うところがあるのかもしれないが俺は気付かないふりをする。


「…そうだな。今年、大学受験の女の子だよ。合格祈願に一緒に行ってほしいって言われてな。」


「ほんとにあんたの周りが賑やかになってきたわね。あんたってやっぱり()()()じゃなくて()()()よね。」


「なんだよ、それは?」


「普通、陰キャって陰の字を使うでしょ。そのままの意味で根が暗いタイプのことだと思うのよね。でもあんたの場合は隠キャでしょ。イケメンで優しくて強い。ほんとは語学も堪能でハイスペックな男のくせにそれを隠してるから隠キャなのよ。」


「……………」


「まあもう大学でも隠せなくなりそうだけどね。」


「……もうあの格好はしないから三女神となぜか仲が良い隠キャって感じだろ?」


「だったら里佳とあの格好で遊びに行くんじゃないわよ。」


「………里佳から聞いたのか?」


「聞いたけどそれだけじゃないわよ。あの時のイケメンと里佳が遊んでるのを見たって友達からLINE来てたしSNSで出回るんじゃない?」


「マジか?嫌な時代だな。」


「なにおじさんみたいなこと言ってんのよ。あんたもSNSぐらいやったら?」


「見るぐらいならやってるぞ。投稿はしないけどな。お前はフォロワー多いんだろ?」


「そりゃあ女神って言われてるぐらいだからね。あんたにはフォローされてないけど……」


「しなくても見れるからな。」


「まあいいわ。あんたとはフォローするしないでごちゃごちゃするような薄い関係じゃないしね。」


「そりゃそうだろ。」


俺は鈴音とはやっぱり今の心地よい距離感の関係を続けたいと思った。




翌日の夜、今度は彩乃のマンションに来ていた。

我ながら節操のない行動をしていると思わないでもない。


「優也くん、来てくれてありがと。もうすぐご飯出来るから食べながら話聞いてね。」


「ああ、わかった。」


彩乃の作った料理がテーブルに並ぶ。

俺には料理名がわからなかったので彩乃に聞いてみると鯛のアクアパッツァというらしく真ん中に鯛があり、周りには大量のアサリが盛り付けられている。

早速食べ始めたが見た通り味は最高だ。


「やっぱり彩乃の料理はうまいな。」


「ありがと。実家でのことなんだけど、……お父さんに言えなかった。」


「例の夢のこと?」


「…うん。緊張しちゃってなかなか言い出せなかったしお父さんが忙しくてあんまり話すタイミングもなかったから。」


「そっか。彩乃の夢ってまだ聞かない方がいい?」


「ううん。話すよ。彩乃の夢はパティシエールになって自分のお店を持つことなの。」


彩乃は緊張した表情で自分の夢を教えてくれた。


「そうなんだね!料理上手な彩乃ならなれるんじゃないかな。」


「ううん。料理はレシピ通りに作るのが大事だけどお菓子作りは違うの。お店で出すレベルだとレシピ通りじゃなくて創意工夫がないとダメだから難しいの。」


俺には全くわからない世界なのでなにも言えなかった。


「実は練習もいっぱいしてるけどこれが正解っていうのがない事だから。」


「そうだね。そういう店で働いて練習しないといけないかもね。」


「うん。でもお父さんにバイトは禁止って言われてるの。優也くんは甘いもの好き?」


「だからお父さんに夢のことを言いたいんだね。俺もスイーツとか好きだよ。あっ、でも甘すぎるのはあんまり食べれないかも。でも今までスイーツ食べさせてもらったことないよね?」


「うん、優也くんがスイーツ好きかわからなかったから。今度、スイーツも食べてもらっていい?甘くないのにするから。」


「いいよ。彩乃のスイーツなら楽しみだな。」


「ありがと。優也くんに作って美味しいって言ってもらえたら勇気を出してお父さんに言えるかも。」


「でも俺はお世辞で旨いとは言わないよ。」


「そうじゃないとダメ。お世辞じゃ意味がない。」


「わかった。これからは料理とスイーツ楽しみにしとくよ。」


彩乃の夢を聞いて俺は単純に応援したいと思った。

俺には彩乃のような夢もなく生きているので真っ直ぐに夢を語る彩乃が眩しい。

俺にもいつかそんな夢が持つことが出来るのかと考えたが俺がそんな夢をみるのはあり得ないことだろうと思うのだった。

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