第四十七話
十二月の半ば、大学での話題も変わらず俺と三女神の噂が流れていて俺に厳しい視線を向ける人も多いがどうでもいいし、学祭の時のイケメンが話題になることはほとんどなくなったのでとりあえず一安心だ。
もうすぐ冬休みだが最近の俺は一人で家に居ることがほとんどなくなっていた。
週末、鈴音のマンションに行ってご飯を食べるのは変わらず続いている。
鈴音にもなにか心境に変化があったのか大学で俺に話しかけることも増えていて前より仲が良く見えているだろう。
神崎は週に二回は俺の家に来て料理や掃除、洗濯までしてくれていて俺が「通い妻かよ!」と突っ込むと満更でもないという表情を浮かべる。
俺の家なのに神崎が持ってきたキッチン用品や日用品が増えていたりする。
大学でも俺を見付けるとハイテンションで突撃してくるのでやはり周りから見ると仲良く見える。
彩乃も俺に料理を振る舞うのが楽しいらしく週に一、二回はマンションに呼ばれて料理を作って貰っている。
神崎ほどではないが大学で俺を見掛けると嬉しそうに近付いてきて話をしているので仲良しだと思われている。
結局、噂通りにしか見えない行動をしているので噂が落ち着くわけがないのだった。
現状を見ると俺が最低な男に見えるかもしれないが誰かに告白されたわけでもないし付き合ってもいない。
俺自身は意中の相手が居るわけでもないし友達として接しているだけだ。
今の状態が友達の距離感として正しいのかどうかはわからないが……
冬休み直前、鈴音から『電話していい?』とメッセージが来たので直ぐに俺から電話を掛けた。
「どうかしたのか?」
『休みになったら実家に帰らないの?帰るんなら一緒に帰ろうと思ったんだけど。』
「いや、俺は帰らないよ。そもそも実家って言っていいのかわからないしな。こっちでバイトかダラダラしてる。」
『そうなの?恭子さんと恭華ちゃんも残念がるんじゃない?』
「どうかな。俺ももう成人してるし帰っても迷惑になるだけだろ。」
『そんなことないんじゃない?恭子さんには本当の母親だと思っていいって言われてたんでしょ?恭華ちゃんだってお兄ちゃん呼びで慕ってたじゃない。』
恭子さんというのは俺の身元保証人になってくれてる人で親父の昔からの知り合いで相当な恩があるらしく親父になにかあった時には俺の面倒をみると約束していたらしい。
さすがに身寄りのない高校生の俺が一人で生活するのは難しかったので大学に入るまではお世話になっていた。
恭華ちゃんは恭子さんの娘さんで俺の六つ下なので今は中学二年生だ。
俺の事を本当の兄のように慕ってくれていたがそろそろ思春期だし他人の俺が一緒に住むのはよくないと思うので家を出るタイミングとしてはちょうどよかったはずだ。
「それはそうだけど今さら女性二人の家に実際は他人の俺が帰るってのは抵抗あるよ。」
『そうやって距離を置くほうが失礼なんじゃないかと思うけどね。』
「二人には世話になったからな。そのうちちゃんとしたお礼はしたいと思ってるよ。」
『顔を出すだけでも喜ばれると思うけど……まあいいわ。私は休みの明けるちょっと前に戻ってくるから戻ったら連絡するからご飯食べに来なさいよね。』
「わかった。もし恭子さんたちに会ったらよろしく言っといてくれ。」
『わかったわ。じゃあね。』
「おう、またな。」
電話を切って考える。
大学に入ってからはあまり恭子さんたちに連絡していない。
恭子さんは本気で俺を養子に迎えようとしてくれていたし感謝してもしきれない恩がある。
だからこそこれ以上甘えるわけにはいかないと思っているがそれがいいのか恩があるからこそもっと顔を出して元気な姿を見せたほうがいいのかわからない。
考えたところで答えは出そうになかった。
そろそろ寝ようかと思っているとスマホに着信が入った。
発信者の名前を見ると神崎だった。
『優也さーん、冬休みに実家に帰ったりしますかー?』
「いや、帰らないよ。」
『じゃあクリスマスデートしましょうよー。』
「いきなりだな。お前は帰らないのか?」
『……帰らないです』
自分で振った話題なのにテンションが下がっている。
やっぱり家庭環境になにかあるらしく急に小声になった。
この辺の話は避けたほうがよさそうだ。
「別にいいけど友達とクリパとかやらないのか?」
『二十五日は友達とパーティする予定です。あっ、女友達ですからね。男は一人も居ませんので安心して下さいね。』
「聞いてねえよ。お前って男友達も多いんじゃないのか?」
『優也さんのアパートに行くようになってからは男友達とは一切遊んでませんし連絡も取ってません。優也さんと違って実はアタシ一途なんですよ。』
「俺と違ってってなんだよ。」
『だって優也さんはあの噂の人物ですからね。まあそれはいいんです。アタシは頑張るだけですから。で、イブにデートしてもらますか?』
「いいよ。でも今からじゃお洒落な店は予約とか出来ないだろ?」
『そうですね。アタシが誘ったんでお店は探しときますね。最悪、普通の居酒屋とかになっちゃうとおもいますけど。』
「それはいいけど俺と一緒の時は飲ませないからな。俺が居ないときに飲むのは好きにしていいけど俺の前では飲むなよ。」
『わかってますよー。優也さん居なくても飲んでませんからね。だから二十歳になったら一緒に飲んで下さいね。』
「そうだな。二十歳になったら酒を奢ってやるよ。お前の誕生日っていつだ?」
『四月二十日です。約束ですからね。誕生日に奢って下さいね。』
「おい、誕生日にとは言ってないだろ?」
『ダメですか?』
「……わかったよ。お前交渉うまいな。なんかうまいこと乗せられた気がする。」
『優也さんは優しいからお願いしたら聞いてもらえるかと思いまして。』
「まあいいよ。約束な。」
『はい!ありがとうございます!じゃあイブのお店と時間が決まったら連絡しますね。おやすみなさい。』
「おやすみ。」
もう寝ようとしていたのに神崎の勢いにつられてあっという間に二人の約束をしてしまう俺だった。
読んでいただいた方ありがとうございます。
もし少しでも面白いと思っていただけたらいいねやブックマークをしてもらえるとうれしいです。
これからもよろしくお願いします。




