第四十五話
土曜日の夜、鈴音のマンションに晩ご飯を食べに来ていた。
「おまたせ。今日はホウレン草とベーコンをたっぷり使ったキッシュにしたわよ。」
「キッシュって?」
「卵と生クリームを使ったフランス料理よ。最近よく料理番組とかで見るから作ってみたの。あんたが好きな料理じゃないような気がするけど。」
「俺はなんでも食べれるからいいよ。いただきます。」
「いただきます。」
鈴音の料理はやっぱり旨い。
お洒落な料理で男子大学生が食べるには少し物足りないが味は文句無しだった。
「キッシュだけじゃ少なかったかしら?お肉かなんか焼こうか?」
「いや、いいよ。後で飲みながら話したいしご飯は少なめにしとくよ。」
「そうね。色々話すことがあるわね。あっ、まずあんたにお礼言わないとね。」
料理を食べ終わった俺と鈴音は二人のビールとつまみを持ってリビングのソファに移動した。
「しかしびっくりしたわ。あんた手加減とか出来たのね。」
「なんだよ、それ?」
「学祭の時のことよ。あんたがチンピラ相手にやり過ぎるんじゃないかと思ったけど怪我させてなくてよかったわ。」
「そりゃあ怪我とかさせたら面倒になると思ったから気絶させる程度にしたし最後の奴はしっかり脅しといたからもう大学には近付いてこないだろ。」
「なんて脅したのよ?」
「言わねえよ。」
鈴音が他人に言うことはないだろうけどわざわざ教える必要はないだろう。
「それに見てたんならだいたい想像はつくだろ?」
「見てないわよ。あんたがあんな奴らにやられるわけないから直ぐに教授たちを呼びに行ったのよ。」
「さすが機転が利くな。教授が直ぐ来て良かったよ。」
「それであんたはこれからどうするのよ?あのスタイルで大学には行かないのよね?」
「行くかよ。アレが俺だとは絶対バレたくないから頼むな。もうあのスタイルで大学には行かないから大丈夫だとは思うけどな。」
「バレたくないのはわかってるけど神崎さんとは大学で距離を置くの?」
「いや、普通に接するよ。学祭の時の俺とはたまたま知り合って学祭回りしただけでよく知らない人ってことにしたからな。」
「そっちはそれでいいとしてあんたの噂はどうするの?女神三人を狙ってるとか三股とか言われると思うわよ?間違いなく弱味を握ってるとか言い出す男まで出てくるわよ。」
「それこそどうでもいいよ。彩乃の噂がなくなった時点で目的は達成出来てるし俺の噂なんかそのうち落ち着くだろ。」
「簡単には落ち着かないと思うわよ。女神に近付くためにあんたに寄ってくる男とか嫌がらせする男が出てくるかもね。」
「そんな奴らどうとでもなるよ。」
「でしょうね。あっ、言うの忘れてたわ。改めてありがとね。あのチンピラをあんたが止めてなかったらとんでもないことになって学祭が滅茶苦茶になるかもしれなかったわ。」
「友達が絡まれてたからな。お礼言われるような事じゃないよ。それよりあの後の打ち上げってどうなったんだ?」
「打ち上げはやったみたいだけど私は行かなかったわ。誘われはしたけど警察に行って疲れたって言ったらすんなり帰れたわ。」
「よかった。ちょっと気になってたんだよ。」
「さすがにしつこく誘われはしなかったわ。それより次の日からのほうがしんどかったわね。」
「なんかあったのか?」
「あんたと一緒に警察に行ったでしょ?だから「あのイケメンって誰なの?」とか「あの人うちの大学?」とか色々聞かれたのよ。」
「まあそうなるか。どう答えたんだ?」
「聞いてない、知らないとしか言えないわよ。警察に行ったから名前ぐらい聞いてると思われてて大変だったわよ。」
「なんか悪いな。」
「もう聞かれなくなったからいいけどね。飲み物ないじゃない。ビールでいい?つまみもなくなったわね。なんか作るわ。」
「ビールで。いいよ、作らなくてもナッツとかで。」
「作るわ。だから今日は遅くまで付き合いなさいよ。たまにはいいでしょ?」
鈴音がこういう事を言うのは珍しい。
俺の周囲の環境が変わってきていることでなにか思うことがあるのかもしれない。
俺にとっての鈴音は一番大切な親友だ。
なにがあろうとそれだけは変わらないだろう。
鈴音は俺にビールを渡してからキッチンに立った。
しばらくすると、
「できたわ。チーズちくわのベーコン巻きと明太ポテトよ。」
短時間で二品作ったようだ。
「すごいな。二つも作るなんて。」
「簡単なのだからね。ワイン開けるけど飲む?」
「もらうわ。」
鈴音はグラスを二脚持ってきてワインを開けた。
「これからあんたの周りがどんどん騒がしくなる気がするわ。」
「どうなんだろな。今までほど大人しくはないだろうけど隠キャであることは変わらないからな。」
「でもあんたの事を気にしてる子が増えてるのは間違いないわよ。」
「別に今は彼女が欲しいとは思ってないからなぁ。」
「今はでしょ?気持ちが変わることもあるんじゃない?」
「そりぁあ先の事はわからないけどな。」
「ねえ、一つ言っときたいんだけどあんたは自分が幸せになることも考えなさいよ。自分には資格がないとかそんな考えだけは止めなさいよね。それだけは親友である私が許さないからね。」
「…………わかったよ。お前にも言えることだけどな。」
「…そうね。さあ、飲むわよ。」
この話は終わり、たわいもない話に移行して飲むことにした。
ワインを一本開けて時間を見ると深夜二時を過ぎていた。
「そろそろ帰るか。」
「あー、もうこんな時間なのね。……ねえ、泊まってもいいわよ。」
「……それはダメだ。酒も飲んでるし理性を保てる保証が出来ない。……帰るよ。」
「……わかったわ。」
これまで親友としてすごしてきたのに酔った勢いでなんてことは避けたい。
関係が変化してからならありえるが変化する前にだけはダメだ。
「じゃあ今日もご馳走様。ありがとな。おやすみ。」
「おやすみ。」
帰る準備を終えて鈴音のマンションから帰宅する。
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