第四十四話
「俺はヒーローなんかじゃないよ。」
彩乃の買い被りだ。
俺はヒーローでもなんでもなくただ自分の力でなんとか出来るときにだけなんとかする。
出来もしないことはやらないし漫画のヒーローみたいに他人のために自分より強い相手に立ち向かったりもしない。
「そんなことない。優也くんには助けてもらってばっかり。優也くんはなんであんなに強いの?」
「学祭のときの奴らが大したことなかっただけだから。」
「でもナイフとか持ってたよ?」
「たぶんビビらそうとしただけなんじゃないかな。本気で刺したりするような度胸があるようには見えなかったしな。」
「そうなのかな?それでもやっぱり危ないよ。助けてくれたのは嬉しいけど危ないことはしてほしくない。優也くんになにかあったらと思うと彩乃は耐えられない。優也くの家族とか友達も同じだと思う。」
「そうだな。友達に心配かけるのは悪いから危ないと思ったら無理はしないよ。さっき一人暮らしの話になったけど俺にはもう家族は居ないんだよ。だからそこは心配しなくていいんだよ。」
彩乃は俺の発言にびっくりして絶句している。
ちょっとして心配そうな表情になり「ごめん。」と小声で言ってくる。
昔のことで俺は全然平気なのだが申し訳なさそうに彩乃がしているので極力明るく言う。
「昔の話で今さらのことだから気にしないでよ。ずっと親父と二人で海外暮らしだったんだけど親父が死んでから親父の知り合いが身元保証人になってくれてな。日本に帰ってきてからは一緒に住んでたんだけどずっと世話になるのも悪いから大学入学をきっかけに一人暮らしすることにしたんだ。一応、経済的には一人で暮らせるだけの金を親父が残してくれてたしな。」
「そうだったんだね。優也くん、苦労してるんだ。なのに彩乃は………」
「いやいや。全然苦労してないよ。子供の頃からちょっと変わった環境で育った自覚はあるんだけどな。顔に性格、鍛えたこの身体、考え方とか今の生活環境も全部気に入ってるんだよ。だから彩乃が気にするようなことはなにもないんだよ。」
「やっぱり優也くんは強いね。彩乃の憧れだよ。初めて優也くんのことちょっとわかったかも。彩乃のことも知ってほしいから彩乃の家族のこと聞いてくれる?」
「ああ。」
「彩乃の家はたぶん裕福なほうだと思うの。」
たしかにそう聞いたことがある。
資産家だとか会社の重役だとか誰かが言っていたような気がする。
「両親は彩乃を溺愛してて特にお父さんは欲しいものはなんでも買ってくれるし、どんなワガママも聞いてくれたの。そうやって育てられたから自分からなにかをやるのが苦手なの。」
「まぁなんでもやってもらえればそうなるよな。」
「でもそんな自分を変えたくて大学入学をきっかけに一人暮らしを始めたの。お母さんとお祖母ちゃんに料理とか家事を教えてもらって、色々条件はあるけどなんとかお父さんを説得したの。」
よく説得できたなと思う。
彩乃の見た目を考えると溺愛する親の気持ちもわかる。
そもそも娘の一人暮らしを心配しない親なんていないだろう。
「それで大学に入ってからはこの幼い見た目だからかみんなにお人形みたいって言われて甘やかしてくるの。それでついたアダ名が癒し女神だった。彩乃がなにかしたわけじゃないのに。ずっと自分を変えたいと思ってたのに出来なかった。それが嫌だったけどなにも出来てなかった。」
人は変わるのは難しい。
厳しい環境に居ればなんとかしようとして自分を変えようとするが周りに優しくされるとなかなか変わることが出来ない。
「優しくしてくれる男の人の中にはいやらしい目で見てくる人も居て怖かった。そんな時に優也くんと知り合ったんだけど優也くんは彩乃のことをそんな目で見なくて気を使ってくれた。彩乃に無いものを持ってると思ったから仲良くなれば彩乃も変われると思ったの。」
彩乃の行動が理解出来た。
俺と遊んで仲良くなって、自分を変えるために妖艶で挑発するような態度を取っていたということだ。
ずっと無理をして態度を変えてたからさっきは照れてしまったということだろう。
「彩乃、急いで変えようとしなくてもいいんじゃないか。その気持ちがあればそのうち変われると思うぞ。」
「そう思ってたけどやっぱり今変わらないといけないの。……積極的にならないと他の子に負けちゃう。」
最後の言葉は小声で彩乃は俺に聞こえてないと思ってそうだった。
自惚れるつもりはないが最初の頃は自分が変わるために妖艶な態度を取っていたがさっきは俺を意識してしまって恥ずかしくなったんだろう。
違っていたら俺はただの自意識過剰な奴だが……
「彩乃の変わりたいって気持ちはわかるから俺に出来ることがあれば協力するよ。」
「ありがと。優也くん、これからもご飯食べに来たり遊んでくれる?」
「もちろん。彩乃のご飯は旨いし遊びに行くのは楽しいからこれからもよろしくね。」
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