第四十一話
「お前はいきなりなにを言い出すんだ。ダメに決まってるだろ。」
「アタシは送ってもらうのは申し訳ない、伊庭さんは一人で帰らせたくない、なら泊まれば解決しませんか?」
「しねえよ。付き合ってもない異性の家に泊まっていいわけないだろ。」
「えー、いいじゃないですかー。あっ、もしかしてアタシが伊庭さんにナニかするって思ってます?」
「思ってねーよ。」と言って神崎のおでこに軽くチョップした。
「イタッ!伊庭さん、女の子の顔になんてことしてくれてんですか。責任とって泊めて下さい。」
「なんでだよ。だいたいなんで俺じゃなくてお前がなんかするんだよ。余計に泊まらせられねえよ。」
「冗談ですよ。ナニもしませんよ。」
ニヤニヤしながら俺を見つめてくる。
「なんか気になる言い方だな。まあ俺は彼女でもない女性に手を出したりしないから絶対ダメってことはないけどやっぱりなぁ。」
「それならよくないですか?アタシだって今から伊庭さんに送ってもらうのは気が引けるんですよー。ただ泊めてもらうだけですからー。」
「何事もなくても異性が泊まるって事実が問題なんだよなぁ。」
「伊庭さんは今までに彼女以外の女性と同じ部屋で寝たことないんですか?中里さんとか?」
「……なくはないな。昔の話だしあいつとはなんもないけどな。」
「だったらアタシも泊めて下さいよー。大学に行く準備もしないとですし朝一で帰りますから。」
「……わかった。ただし条件がある。お前がベッドで寝て俺は床で寝る、それが条件だ。」
これを譲るつもりはない。
これが飲めないなら無理矢理にでも帰らせる。
神崎は「でも…」とかなんとかぶつぶつ言っていたが諦めたのか「わかりました。」と答えた。
「条件は飲みますけど普通は逆だと思いますよ。」
「他人の普通とか知らん。俺がそうしたいからそうするだけだ。風呂はどうする?溜めたりははしないけどシャワーなら使っていいぞ。」
「じゃあお借りしますね。伊庭さんが先に入ってきて下さい。それと部屋着借りてもいいですか?」
「時間も時間だからさっさと入ってくるわ。部屋着ならそこの引き出しにジャージとスエットがあるから好きなの着ていいぞ。」
俺は下着と部屋着を持ってすぐに風呂に向かった。
俺は風呂なんて頭と体を洗えればそれでいいと思っている。
速攻で洗い終わり風呂場から出た。
「早っ!ちゃんと洗ってますか?」
「おかんか。男の風呂なんてこんなもんだろ。あっ、コンディショナーとかないからな。」
「えー、そうなんですかぁ?仕方ないですね。今日は髪を洗うの止めときます。今度買ってきていいですか?」
「また泊まる気かよ。」
「絶対ないってことはないですよね。あとこのジャージ借りていいですか?」
「ああ、いいけどそんな古いのじゃなくてもいいぞ。」
「これ、伊庭さんが着古したやつですよね。さすがに新しいのは気が引けますよ。では、いってきまーす。」
「もう遅いからあんまり大きな声は出すなよ。このアパートは壁が薄いからな。」
風呂に入るときまで騒がしい奴だった。
神崎が風呂場に行くのを見送った俺は押し入れから毛布を一枚取り出す。
だいぶ寒くなってきたがエアコンをつけたままなら毛布だけでも寝れるだろう。
しばらくすると神崎が出てきた。
「お風呂ありがとうございました。」
「ああ、もう今日は遅いしもう静かにしないといけないから寝るぞ。」
「わかりました。」
神崎は素直にベッドに潜り込む。
俺も電気を消してベッドの下に寝て毛布を掛ける。
「おやすみ。」
「伊庭さん、おやすみなさい。」
目を瞑って寝ようとしたがなかなか寝付けない。
すぐそばで最近知り合った女の子が寝てれば当然ではないだろうか。
大学に入りこの部屋に住み始めて一年半になるが一ヶ月前までは俺以外でこの部屋に入ったことがあるのは鈴音だけだった。
他人に興味もなかったしなるべく関わらないようにしてきた。
なのに今日は数回しか会ったことのない女の子がそばで寝ている。
元々俺はパーソナルスペースが広いのでこの状況に慣れるまで時間がかかりそうだ。
「………伊庭さん……起きてますか?」
神崎も寝てなかった。
何度も寝返りをうっていたので起きてるかもとは思っていた。
「ああ、起きてるよ。」
「アタシもなかなか寝つけないんですよね。お話させてもらっていいですか?」
「いいよ。」
「……伊庭さんはなんで聞かないんですか?」
「なんのことだ?」
なんとなく神崎の言ってることの予想はつくが黙って神崎の言葉を待つ。
「学祭のときあの親子の前で、っ言うか怒鳴ってる父親に対するアタシの態度おかしくなかったですか?」
「おかしいって言うより感情的になってたように見えたな。」
「ですよね。そのことをなにか聞かれるかもって思ってたんです。」
「なんとなくだけど俺と一緒でお前の家庭環境も特殊なんだろうとは思ってるよ。でもさっきも言ったけど誰にだって言えないこともあるからな。」
「やっぱり伊庭さんって達観してますよね。普通は聞いてくると思いますよ。一個上とは思えないです。年齢詐称してません?」
「するか。お前が俺に聞いてほしいと思うことがあれば言えばいいよ。」
「もう聞いてほしいような気がしてますよ。誰にも話したことがないことなんでちゃんと頭の中を整理してから話したいです。また今度話を聞いてくれますか?」
「ああ、わかった。」
「伊庭さん、ありがとうございます。あの、………優也さんって呼んじゃダメですか?」
「呼び方なんて好きに呼んでいいよ。」
「優也さん、改めてありがとうございます。出来ればアタシのことも伊佐って呼んでもらえませんか?」
「それはまだ早いかな。同い年とかならともかく後輩を名前で呼ぶのはなぁ。」
「まだってことはもっと仲良くなれば呼んでくれるんか?」
「そりゃあな。ずっと名字ってとはないだろうな。」
「わかりました。今日のところはそれで納得しておきます。」
「そうしてくれ。」
「えへへ、今なら気持ち良く寝れそうです。おやすみなさい」
「おやすみ。」
少ししたら神崎の寝息が聞こえ始めた。
神崎が寝たことを確認できた俺も今日はもう考えるのを止めて眠りについた。
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