第三十一話
学祭の準備の手伝いをした翌日、講義が終わりバイトに来ている。
リサイクルショップの主力商品といえば古本なので今日も古本コーナーでの作業である。
「あっ、伊庭さんお疲れ様です。今日は一緒ですね。よろしくお願いします。」
高校生バイトの村田さんにあいさつされた。
この店は大型店舗で様々な商品を扱っていて従業員も多いのだが俺が唯一仲良くしているのが村田さんだ。
大学と違って接客業なのでお客さんや従業員とは愛想良く会話することもあるのだが個人的な話をするような相手は村田さんしかいない。
「お疲れ様。よろしくね。」
「伊庭さん、次の土日って学祭なんですよね?遊びに行く予定なんで見掛けたら声をかけて下さいね。」
「そうなんだ。友達と来るの?俺は参加するイベントもないから行くかわからないけどね。」
「お姉ちゃんとです。実は伊庭さんの大学にお姉ちゃんも通ってるんですよ。」
「えっ?そうなの?大きい大学だし……」
そこで「すみませーん」とお客さんに声をかけられたので私語を中断して仕事に戻る。
それからは忙しく村田さんと話すこともなくバイトをしていると先に村田さんが上がる時間になった。
「お疲れ様でしたー。伊庭さん、また話しましょう。お先に失礼しまーす。」
俺は「お疲れ様。気を付けて帰ってね。」と言って軽く手を降って見送る。
その後も集中して仕事をこなし終了時間になったので休憩室に戻る。
帰り支度が終わり外に出たところでスマホを確認すると神崎からLINEが二件届いていた。
少し気が重くなりながらメッセージを見ると予想外の文面だった。
『伊庭さーん、明日の約束忘れてないですよねー。ご飯作るんでリクエストがあれば明日の夕方までに連絡して下さいネ。なければアタシが決めます。』
『忘れてました。お米買いました?まだなら買っといて下さいネ。さすがにお米買って持っていくのは大変なんで。じゃあ明日伊庭さんちに行くの楽しみにしてますネ。おやすみなさーい。』
メッセージを読んだ俺は少しパニックになった。
昨日と今日でこの違いはなんなんだろう。
昨日のメッセージでは明らかに怒っていたことがわかったのに今日のメッセージはどう見ても上機嫌だ。
しばらく考えてみたが俺が考えたところで答えが出るわけもない。
明日、神崎が来ればわかるだろうし今は気にしないようにした。
それよりもメッセージにあった米だろう。
コンビニで米を売っているのを見たことがない。
実際には売っているかもしれないが意識したことがないので見たことがない。
たしか一駅向こうに年中無休二十四時間営業のディスカウントスーパーがあったはずだ。
いつもの遠回りではなくそこまで走って米を買って帰ればトレーニングにもなるので一石二鳥というやつだろう。
早速走りだした俺は無事に米を購入して家に帰った。
翌日、講義のない時間にいつものベンチに座っているのだが俺を見ている学生が多いことに気付いた。
じっと見ている学生も居ればこそこそと話してる学生も居る。
しかし遠巻きに見ているだけで俺に話しかけてきたりはしない。
元々話しかけられることはほとんどないのでいつも通りではあるのだが。
と思っていると鈴音が俺を見つけて近付いてきた。
「今、学内の噂の中心人物がこんなとこでなにやってんのよ?」
「その俺に普通に話しかけて大丈夫なのか?噂に出てくる人物の一人だろ。お前も。」
「だからこそじゃない。今、私が優也と距離を置くような行動したら噂のコントロールなんか出来なくなるわよ。」
「それもそっか。で?噂ってどうなってるんだ?俺の耳には入ってこないからわからないんだよな。」
「完全に優也が悪者って感じかな。私に世話焼かれている隠キャのくせに癒しの女神様にちょっかい掛けようとしてるから。私が離れたら癒しの女神様が前の噂通り遊んでる一人が優也と思われるか二人が付き合ってると思われるでしょうね。」
「彩乃の噂がなくなればなんでもいいよ。俺の噂なんてみんなそんなに興味もないだろうしそのうち落ち着くだろ。」
「女神絡みだから簡単にはなくならないわよ。それで神崎さんはどうするのよ?仲良くなったんでしょ?ここの学生に知れ渡ったら噂どころか優也になんかしてくるのが出てくるかもよ。」
「それな。噂とか俺がなんかされるのはどうとでもなるからいいけど神崎が絡んで迷惑掛けるのは避けたいけどあいつもそんなのどうでもいいとか言って絡んできそうなんだよな。」
「本人がいいならいいんじゃない?三女神を侍らす隠キャ。こんな学生の好物みたいな噂なくならないと思うわよ。」
「まあなるようになるだろ。俺は俺、自分の思った通りにやりたいようにやる。」
「あんたはそうよね。変わらずあんたはあんたを貫いてよね。噂はうまくコントロールするから任せといて。話は変わるけど金曜日に準備が終わったら軽く飲もうって話があるから優也も準備から参加しといてよ。今の優也は男避けに最適だし。」
「いいけどすぐ帰るぞ。」
「私もその時に帰るからちょうどいいわ。学祭前日だし遅くはならないだろうけどね。じゃあ行くわね。」
鈴音はひらひらと手を振って離れていった。
今日の夜、神崎が来るのでその時の話によってこれからの噂も変わってくるだろうな。
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