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第三十話

月曜日の昼、この時間の食堂は混雑していて相席になることが多いので俺は滅多に利用しない。

家に帰るのも面倒なので大学の中庭のベンチでスティックタイプの栄養補助食品を噛っているとポケットにあるスマホが震えた。

ロックを解除して画面を見てみると神崎からのLINEで少しだけ緊張しながらメッセージを確認する。


『お疲れ様です。伊庭さんにお訊きしたいことがありますので夕方お伺いしてもよろしいでしょうか?』


異常に丁寧なメッセージに土曜日の居酒屋のときと同じように背中に汗が流れる感覚に襲われる。

あの時見た後ろ姿はやっぱり神崎だったようだ。

なにも悪いことはしてないはずだが神崎に説明してないことに半端ない罪悪感を感じる。

やっぱりすぐに電話すればよかったのかもしれないがあの時はそんな気分になれなかった。

今回のデートの目的を人に言って巻き込むのも嫌だと思っていたのが悪かったかもしれない。

いろいろ考えないといけないと思うがとりあえず返信することにした。


『今日は学祭の準備の手伝いで明日はバイトだから水曜日にしてもらえたら助かります。』


俺まで丁寧な返信になってしまう。


『わかりました。水曜日にお伺いします。』


神崎なら説明すればわかってくれると思うので水曜日にきっちりと説明しよう。


夕方、学祭の準備のため鈴音に言われた集合場所に来た。

もう準備を始めている人も居るが鈴音がまだ来てないので俺に仕事を振ってくるような知り合いはいない。と思っていたらそんなことはなかった。


「あっ、優也手伝いに来てくれたんだ。鈴音まだみたいだけどこれ運ぶの手伝ってもらえる?」


合コンで知り合い、俺と鈴音の共通の友達になった里佳だった。

初めてあった合コンの時からフレンドリーですぐ打ち解けたので俺にとって数少ない友人の一人だ。


「ああ、いいよ。どこに持っていけばいい?」


「グラウンドにお願い。私も軽いの持って一緒に行くからそっちの重たいの頼める?」


「いいよ。」


俺は言われた備品を持ち上げる。

たしかに重たいがこのぐらいなら俺なら余裕で運べるなと思い、そのまま歩き出す。


「えっ?優也くん簡単に持ってない?奥から出すとき男二人で運んでたのに。」


「こう見えても力はあるほうなんだよね。」


「その猫背がデフォルトみたいな態度で実は力強いとか意外すぎるよ。コンパの時も思ったけど優也くんって本当は隠キャじゃなくない?」


「そもそも自分で隠キャって言った覚えはないけどね。割りと身体鍛えるの好きだからね。お陰でちょっと力が強いだけだよ。」


グラウンドに備品を運び終わった俺と里佳は最初の集合場所に戻った。

そこでは鈴音が待っていた。


「里佳、お疲れ様。優也ももう手伝ってくれてたのね。ありがと。」


「鈴音もお疲れ。優也ってすごい力持ちなんだね。びっくりした。」


「優也はけっこう身体鍛えてるからね。」


さっきから疑問に思ってたことがあるので里佳に聞いてみることにした。


「里佳って鈴音のこと鈴音ちゃんて呼んでなかった?」


「実行委員やってて仲良くなったから呼び捨てに変えたの。」


「私もちゃん付けされるのはむず痒かったのよ。」


そんな会話をしながら次の備品を運ぶ。

俺はなるべく重そうな備品を選んで持ち上げる。

鈴音は軽そうな備品を持っていたが里佳は俺の近くにある割りと重そうな備品を持とうとしていた。


「その辺は俺が運ぶから軽いの持ったんでいいよ。」


しかし里佳は「大丈夫、大丈夫。」とその備品を持ち上げた。

が、思っていたより重たかったのかよろめき倒れそうになった。

俺は咄嗟に里佳が倒れそうな所に体を滑り込ませる。

俺も荷物を持っていて手を離せないので里佳が俺の背中に当たるように後ろ向きになる。


ドンッ!


強い衝撃がきた。

俺の背中にぶつかり里佳は床に倒れ込むことはなかったが俺は衝撃で眼鏡が飛ばされた。

ただの伊達眼鏡なので壊れてもまた買えばいいだけだ。


「大丈夫?」


里佳はなにがどうなったのかすぐにはわからなかったらしく呆けた表情をしていたがすぐに真顔になって俺の背中から離れた。


「優也くんありがとう。受け止めてくれたんだよね。優也くん見てたら私も持てそうな気がしたんだけどそんなわけないよね。」


背中を向けていた俺は「あはは」と笑う里佳の方に向き直り怪我はないか確認する。


「ごめんね。ちゃんと受け止めるんじゃなくて背中で受けて。」


「ううん、助かったよ。優也がいなかったら怪我してたかも………」


里佳は急に黙って俺を見ている。


「………優也ってイケメン?前髪で見にくいけど顔立ち整ってない?」


そこで鈴音が近付いてきた。


「二人とも大丈夫?」


「私は優也が受け止めてくれたから大丈夫。」


里佳と鈴音が話しだしたので俺は一度持っていた備品を置き眼鏡を拾いに行った。

確認すると壊れたりはしてなかったのでそのまま掛ける。

それを見た里佳は残念そうにこっちを見ている。


「えー、もっとよく見せてよ。優也なんで顔隠してんの?」


「ほっとけ。そんなことより備品運ぼうぜ。」


俺は話を打ち切り荷物運びを再開した。

俺の態度で諦めたのかその後は里佳はなにも言って来ずに今日の手伝いは終了した。

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