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第二十九話

彩乃と出掛けた日の翌日、今日は日曜日なので惰眠を貪っていたら鈴音から電話が掛かってきた。

気を遣う間柄でもないので無視して寝ようかとも思ったがいつもならLINEで確認してから掛けてくるはず。

急用があるのかもと思い通話ボタンをスワイプする。


「……もしもし」


『おはよ……って寝てた?』


「ああ、寝てたけどどした?」


『ごめんごめん。大した用じゃないんだけどね。もう来週が学祭だから今日も夕方まで台で準備なのよ。だから今日は夕方六時より遅く来てよ。』


「それはいいけど忙しいなら一人で食べるぞ。」


『いいから来なさいよ。昨日、京條さんと出掛けたんでしょ?その辺の話もしときたいしね。ご飯は簡単な物にしたいから鍋とかでいい?』


「その話はしときたいな。悪いな。お前にも手間かけさせて。鍋って簡単なのか?面倒臭くないか?」


『あの時みたいなのは見たくないし協力するから気にしないで。鍋なら具材切って入れるだけだから楽なのよ。じゃ、大学行くからまた後でね。』


「おお、また後でな。」


電話を切って考える。

俺は鈴音に甘えすぎなんだろうか。

俺たちはお互いが近くに居るのが当たり前のように頼り頼られている。

いつかは離れる時がくるかもしれないのに。




夕方、約束の時間に鈴音のマンションに来ていた。

朝の電話の通り鍋にするようでテーブルにカセットコンロが準備されている。

鈴音はキッチンで具材を切っていた。


「キムチ鍋にしようと思うんだけどいい?」


「ああ、ご馳走になるんだからお前の好きなのにしたらいいよ。」


「わかったわ。すぐ食べれるから座ってて。」


鍋に具材を入れてキッチンのコンロで一度沸かしてから火を止めるのを見た俺は席を立つ。


「俺が運ぶよ。」


「お願い。私はご飯とかよそうわね。」


鈴音の出してきたミトンを使って鍋をテーブルに運んでカセットコンロの火を付ける。

鈴音がよそったご飯とビールを持ってくる。


「じゃあ食べましょ。」


「いただきます。」


俺と鈴音はいわゆる[鍋をつつく仲]というやつで同じ鍋を食べるのに特に意識することもない。

他の女性なら意識するだろうが鈴音なら特になにも感じない。

だからこそ毎週こうやってご飯を食べに来ることが出来るしそういう関係になったこともない。


「で?どうだったのよ?癒しの女神様とのデートはうまくいったの?」


「まぁ周りの学生に仲が良いのはアピール出来たと思うよ。ただ彩乃も大学でのイメージとだいぶ違うところがあってな。詳しいことは言わないけど俺が連れ回してるせいで彩乃が彼氏を作れないと思わせるつもりだったんだけどな。どっちかと言えば今回の噂通りなとこもあって迫られたから焦ったよ。」


「京條さんは癒しじゃないってこと?だったらほっといてもよくない?」


「いや、たぶんあの雰囲気は俺に対してだけな気がする。」


「やるわね。出会ってすぐ惚れさせたの?」


「うーん………そうじゃないとは思うけどな。まだよくわからないけど誰にでもそんなことをするわけじゃないと思うんだよ。だから切り替えて普通に仲が良いと思われるようにしたんだよ。たぶん見た奴は鈴音と二股してるんじゃないかと思ったんじゃないかな。ホントに二股してると思われるのも困るから二股してる()()ぐらいにしたいな。」


「なるほどね。じゃあ私とは付き合ってないし京條さんとも仲が良いけど付き合ってはないみたいって感じに言っとけば良さそうね。」


「実際その通りだから事実を言うだけだけどな。」


「噂ってのは面白可笑しく広がるからちゃんとコントロールしないと厄介よ。経験者なんだからわかるでしょ?」


「まあな。よろしくな。俺が否定しても意味ないだろうし。」


「わかってるわ。」


鍋を食べ終わって二人でソファに移動する。

もちろん二人とも酒を片手にしてのことだ。


「そういえばもうあんたと京條さんのことを聞いてくるLINEが何件かきてたわよ。ちゃんと話してからにしようと思ってまだ返信してないけど。」


「うまいこと頼むな。そういえばお前最近俺のこと呼ぶとき優也だったりあんただったりするよな?」


「気付いた?そうなのよね。高校卒業するころってあんたって呼んでたでしょ?」


「だよな。なんで優也に戻ったんだ?」


「大学に入って私は陽キャ、あんたは隠キャっぽくなったじゃない。その立ち位置であんた呼びしてるといろいろ疑われたのよ。それで優也にしたのよ。」


「普通ちょっと仲が良いぐらいの相手をあんたとは呼ばないわな。」


「でも最近あんたの周りが賑やかになってきたでしょ?それを見てたらあんた呼びしたくなってきたんだけど……ダメ?」


「好きに呼べよ。もともとあんた呼びが嫌とか言った覚えはないぞ。」


大学に入ってからずっと優也と呼んでいたが最近の俺の身の回りの変化のせいかあんた呼びに戻そうとしている。

やはり鈴音は俺との関係を変えようとしているのかもしれない。

そのことを止めることは俺には出来ない。

鈴音が本気で親友からの変化を望んだときに俺がどう返事するかはその時にならないとわからない。


「いきなり人前であんたとは呼ばないけどね。」


「お前の好きにしたらいいよ。」


「そうするわね。ところで明日の夕方は空いてる?学祭の準備があるんだけど。」


呼び方の話は終わったようだ。


「明日は大丈夫だな。火曜日はバイトがあるけど。」


「じゃあ明日お願いね。体力仕事は明日で最後だから。」


「わかった。そろそろ帰るわ。今日もご馳走様。」


俺は鈴音のマンションを出るといつも通りランニングなどのトレーニングをしながら遠回りして家に帰った。

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