第二話
「あぁ、眠い」
水曜日の2コマ目のあと俺は大学の庭にあるベンチに腰を浅くして座りながらダレきっている。
すると目の前にいる女性がため息をつきながら肩をすくめる。
「どうしたのよ?昨日はバイトなかったんでしょ?」
彼女の名前は中里鈴音。女神と称されるうちの一人で黒髪ストレートのロングヘアで目の色も黒でとても人当たりのよさそうな雰囲気を持っている。身長は俺より10cmほど低いが誰もが羨むほどのバランスの取れた体型で服装も清楚系で落ち着いた色合いのものだ。
高校の頃からの付き合いで彼女と俺は当時いろんな意味でかなり目立っていていろいろあったがそのお陰で今では親友と言える存在になっている。
そもそも彼女が居なければ俺は高校を卒業すら出来ていなかっただろう。
「いやぁ、普通に夜動画サイト見てたらハマって明け方まで見てただけ。」
「相変わらずねぇ。次のコマどうするの?」
「えーっと、次は田中教授だったよな?代筆してくんねぇ?」
この大学では出席を取らずにテストの点数だけで単位取得の可否を決める教授もいれば出席を重視する教授もいる。
出席の取り方も学生の名前を点呼する教授や名前を書けるマス目の入った用紙を講義中に回して各自が名前を書くというやり方をする教授もいる。
点呼に対して代返するのはハードルが高いが代筆なら簡単なのだ。
もっとも同じ筆跡で違う名前が並んでいたり、受講人数より後ろに名前を書く(50人受講なのに55番目に名前を書くなどする)と教授にバレて欠席にされる。
「別にいいけど。」
「いつも悪いな。」
「悪いと思うなら講義出なさいよ。まぁあんたの筆跡そっくりに書くのも慣れたし大丈夫だけどたまには見返りがほしいわねぇ。」
「今度デートでもするか。フランス料理フルコース付きで。」
「ふん。バカ言ってんじゃないわよ。あんたにそんな甲斐性ないでょ。そんな店知らないくせに。近いうちにラーメンでも奢ってよね。」
「リョーカイ。じゃあ今日は帰るわ。」
そこに同じ学部の女学生二人が通りかかる。瞬時に鈴音の雰囲気が変わる。俺に接するときの剣呑とした態度はなりを潜め人当たりのいい笑顔を浮かべる。
「あっ。中里さん、おはよー。」
「おはよう。」
「この前のノートありがとー。」
「役にたったみたいでよかったわ。」
そのまま合流して教室に向かうようだ。俺は帰ろうとベンチから重たい腰を上げる。
そこで鈴音が小走りに戻ってきた。
「土曜日来るでしょ?今週は朝から大丈夫だけどどーする?昼も食べる?」
「じゃあ昼前に行くわ。」
「わかったわ。じゃあね。」
すぐに女学生の方へと戻り笑顔で談笑しながら去っていった。