第十九話
マンションの前で彩乃は申し訳なさそうに「ここが彩乃が住んでるマンションなの。」と言ってきた。
「そうなんだね。俺が住んでるアパートは道路の向こう側の路地を入って少し行ったとこにあるから意外とご近所さんだよ。」
「近いの?じゃあいつでも来れるね。それに帰りが遅くなっても大丈夫かな?」
「いつでもって迷惑になるし来たりしないよ。それに初めてお邪魔していきなり遅くまで居たりはしないからね。」
そんな話をしながらエレベーターに乗り六階で降りる。
廊下を歩き一番奥の扉の前まで行くと彩乃が鍵を開け中に案内してくれた。
来客用らしいスリッパを出し「どうぞ。」と俺に中に入るように促す。
「お邪魔します。」
俺はスリッパを履き彩乃の後に付いていく。
案内されたリビングダイニングにはテーブルに二脚のイスが置いてありテレビの前にはお洒落なガラスのローテーブルと質のよさそうなソファが置いてあった。
彩乃に促され二人でソファに座る。
「まだご飯を作るには早いし話しよ。」
「うん。いいマンションだね。俺のボロアパートと大違いだ。」
「親がね、セキュリティのしっかりしたとこじゃないとダメだって。住人の許可がないと中に入れないから安全なの。」
「女の子の一人暮らしはそうだろうね。」
「うん。ここに来たの優也くんが初めてだよ。ハルとトモも来たことないから。」
「そうなの?いいのかな、俺なんかが入って。」
「彩乃が招待したから大丈夫。暇なときに来てくれたらうれしい。もうすぐ学祭あるから忙しい?」
「俺は学祭はなにもしないよ。彩乃はなにかするの?」
「友達と一緒にクレープ屋さんやる予定。彩乃はお店に居ればいいって言われてるけど。」
「なるほど。彩乃が居たらお客さん増えそうだね。彩乃ほど可愛くて綺麗な銀髪の人が居たらお客さん途切れなそうだね。」
彩乃は顔を真っ赤にして俯いている。
自分で言っといて俺も照れ臭くなってきた。
「あっ、俺なに言ってんだろ。」
照れてしばらく黙っていたが少し落ち着いてきた。
「彩乃は北欧系のハーフなの?」
「お母さんのお母さんがイギリス人で髪が銀色なの。お母さんの髪は茶色だから隔世遺伝って言うみたい。」
「あー、世代を飛ばして遺伝するってやつだね。」
「うん。そろそろ料理するから待ってて。」
そう言って彩乃はキッチンに向かう。
本人には言わないが童顔の彩乃に似合うエプロンを着けて料理を始めた。
「なにか手伝おっか?」
「優也くん料理出来ないんでしょ?気にしないでゆっくりしてていいよ。」
「下手に手を出したら邪魔になりそうだしそうさせてもらうね。」
しばらくスマホを弄りながら彩乃の様子を伺っていたが手際の良さに驚いた。
料理の出来ない俺には細かいことはわからないが全く無駄のない動きで料理をしている。
彩乃が時折見せる妖艶な表情にもドキドキさせられるが料理をする真剣な表情にもギャップを感じる。
もっと彩乃のいろんな表情を見たいと思ってしまうのは仕方ないことだろう。
「出来ました。こっちのテーブルで食べるんで席に着いて下さい。」
彩乃に呼ばれ席に着くと料理のメニューに驚いた。
彩乃の見た目とイメージから洋食が出てくると思っていたが炊き込みご飯に魚の煮物、茶碗蒸し、味噌汁とこれぞ和食っていうメニューが並んでいた。
「いただきます。」
「どうぞ。召し上がれ。」
俺は遠慮なく食べ進める。
「うん、うまい。彩乃は料理上手なんだね。すごいな。」
「ありがと。優也くん美味しそうに食べてくれてうれしい。」
「ホントにうまいからね。しかも予想外の和食だし。」
「彩乃和食も洋食も作れるけどどっちかと言えば和食が好きだから。次は洋食にするね。」
「また作ってくれるの?」
「うん。いつでも来てくれたら作るよ。」
俺はこれからもここに来て料理を作ってもらえるらしい。
さすがにしょっちゅう来るわけにはいかないしなにかしらお返しを考えないといけないだろう。
彩乃の優しさに甘えすぎないようにしないと。
「優也くん、頬っぺたにご飯が付いてますよ。」
言われて彩乃を見ると挑発するような妖艶な表情に変わっていた。
「ふふっ、優也くん子供みたいで可愛い。彩乃が舐めとってあげましょうか?」
彩乃が顔を近付けてくる。
俺は慌てて顔を反らし頬のご飯粒を取り自分の口に運ぶ。
「あらっ、残念。優也くんは照れ屋さんですね。」
彩乃のころころ変わる雰囲気に振り回されながらもそんな彩乃との時間を楽しいと俺は感じていた。
食事が終わり彩乃が片付け始めたので手伝おうとしたのだかお客さんにはさせられないと断られた。
片付けが終わり再び二人でソファに座る。
「今日は本当にありがとう。美味しかったし彩乃と話せて楽しかったよ。」
「彩乃も楽しかった。それに優也くんに料理美味しいって言ってもらえてうれしかった。また優也くんに料理作りたい。」
「ありがと。また彩乃の料理食べれるの楽しみにしとくね。」
「うん。」
その後、お互いのことを聞いたり話したりしているといい時間になったので俺は帰ることにした。
「今日は本当にありがとう。じゃあバイバイ。」
「また来てね。バイバイ。」
彩乃に見送られながらエレベーターに乗る。
マンションから俺のアパートまでは歩いてもすぐ着くが彩乃とのやりとりの余韻に浸りながらランニングで遠回りして帰ることにした。
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