第十八話
俺の通う大学では11月に学祭がある。
実行委員でもなければサークルにもゼミにも入ってない俺は特になにかをするという事はない。
鈴音は実行委員になっているらしく最近忙しいらしくあんまり話していない。
学祭間近になると手伝いをお願いされそうな気がする。
鈴音に手伝いを頼まれれば多少手伝うことになるかもしれないがそれがなければ適当にぶらぶらするか家で寝てるかのどちらかだ。
開催まであと一ヶ月なので早いグループは準備も始まっていて忙しそうな学生も多い。
そんな学生を横目に俺は次の講義まですることもなく学内のベンチに座っていたのだが、
「あっ、伊庭さーん。そんなとこでなにしてるんですかー?」
神崎が俺を見付けて駆け寄ってきた。
俺は大声で近付いてくる後輩を見て「はぁー」とため息をつく。
「なにもしてないよ。講義までゆっくりしてただけだ。それより大声で話しかけてくるなよ。」
「なんでですか?普通に話しかけるって言ったじゃないですか。」
「大声は普通じゃないだろ。周りの奴らがこっち見てるじゃねーか。」
「気にしなくていいじゃないですか、そんなの。それより伊庭さんは学祭でなんかやるんですか?」
「俺がやるわけないだろ。家で寝てるよ。」
「じゃあアタシと一緒に見て回りま…「断る!」
「……………」
「断るの早いですって。なんでダメなんですかー?」
「だから目立ちたくないって言ってるだろ。」
「もう無理ですって。あっ、そういえば伊庭さんの家がどこにあるか聞いてなかったから行けないじゃないですか。教えて下さいよー。」
「今度教えてやるよ。それより友達待ってんじゃないのか?」
周りを見るとこちらをずっと見ている女子グループがいるがさっき神崎が近付いてくるときに後ろにいたような気がする。
「そうですね。ホントに今度教えて下さいね。あと学祭のことも考えといて下さい。じゃあまた。」
ペコッと頭を下げて去っていった。
やっぱり神崎と関わると静かな大学生活は望めそうになさそうだった。
最後の講義が終わりゆっくり帰っていると後ろから声を掛けられた。
「こんにちは。優也くんも帰りですか?」
振り返ると彩乃がいた。
「そうだけど彩乃も帰り?友達は?」
「うん。ハルとトモは方向が違うから。一緒に帰っていい?」
「いいよ。」
「ありがと。でも優也くんに謝らないといけいことがある。」
「ん?」
「初めて会った日に送ってもらったでしょ?あの日✕✕駅まで送ってもらったけど本当はもっと手前に住んでたの。」
「ああ、それはいいよ。初対面の男に家知られたくないのは当たり前だしね。でもいいの?このまま帰ったら彩乃の住んでるとこわかっちゃうよ?」
「優也くんには知られて大丈夫です。優也くん、今日は晩御飯どうするつもりなの?」
「まだ決めてないけどカップかなんかかなって思ってるよ。」
「ダメだよ。ちゃんと栄養あるの食べないと。」
「料理出来ないからね。コンビニ弁当ならカップよりは栄養あるからそっちにしようかな。」
「コンビニ弁当もあんまり体に良くないよ。」
彩乃は少し顔を赤くしてこう提案してきた。
「よかったらだけどうちで食べる?彩乃一人暮らしで毎日料理してるし一人分も二人分もあんまり変わらないよ。一人で食べるより優也くんと食べるほうが楽しいし来てくれたらうれしい。」
「それは有難いけどいいのかな?まだ知り合って間もないのに。」
「優也くんはもう友達だし優しくて誠実な人だってわかるからぜひ彩乃の料理食べてほしい。」
「じゃあお願いします。」
そうして彩乃の家に向かうことになったのだが着いたマンションは俺が彩乃に初めて会った日に予想していたマンションだった。




