第十六話
火曜日の昼間に神崎から待ち合わせ場所と時間のLINEがきたのだが待ち合わせ場所が大学の正門前だった。
四コマ目に講義があったので俺はそのまま学内で暇を潰して時間前に正門に向かった。
そこにはすでに神崎が待っていた。
神崎は満面の笑みで「あっ、伊庭さんお疲れ様でーす。今日はよろしくお願いします。お店は駅の近くなんですけどどうせ同じ大学だからここからゆっくり歩くのもいいかなって思いまして。」と言ってきた。
「いいけど大学で待ち合わせは目立つなぁ。」
「いいじゃないですかー。アタシみたいな可愛い子と待ち合わせとかうれしくないですか?」
「自分で可愛いとかどんだけだよ。あと俺は目立ちたくないんだよ。」
「アタシとお出掛けするのにそんな嫌そうな顔する男の人は初めてですよ。」
「別に嫌な訳じゃないけどな。」
「じゃあもっと楽しそうにしてくださいよー。」
「そんなことより今日はどこに行くんだ?」
「イタリアンです。けっこう高級なイタリアンレストランなんですけど前から行ってみたかったとこなんですけどまだ行けてなかったんでせっかくだし伊庭さんと行ってみようと思いまして。」
「そういうのは彼氏と行けよ。俺とはそこらの安い店でいいだろ。」
「彼氏はいません、ってか彼氏が居たら伊庭さんと二人でご飯とか行きませんよ。まぁ別れたのはちょっと前なんですけどね。そもそも今から行くお店も彼氏と行くつもりで調べてたお店なんですけど行く前に別れたんですよね。でも気になってたお店なんでこの際行ってみようかと。」
しばらく歩いていると目的地に到着したようで「このビルの三階のお店です。」と言ってビルに入っていく。
三階の店に入るとウエイターに案内され半個室に入った。
内装も雰囲気もよくカップルには人気がありそうで俺には場違いな気がしてならない。
「ほぼ初対面の俺と来る店じゃないだろ。」
「いいじゃないですか。あっ、メニューはコースを頼んでますので。居酒屋とかのガヤガヤしたとこじゃなくてこういう静かなお店で伊庭さんと話してみたかったんですよね。」
「なんでだよ。神崎と俺は知り合いじゃないだろ?」
「知り合いではないけど実は伊庭さんのことは前から知ってたんですよね。伊庭さんあの慈愛の女神である中里さんと仲が良いですよね?あの中里さんがなぜか隠キャっぽい人とよく一緒にいるのが気になってたんですよ。」
「俺が情けないからお節介焼いてるだけだろ。」
「そんなことないでしょ。コンビニでの伊庭さんはどう見ても隠キャじゃなかったですからね。あっ、中里さんとのことは聞くつもりはないですよ。アタシが興味あるのは伊庭さん自身のことですから。なんで隠キャなふりしてるんですか?」
出会ったときの状況を考えると今さら神崎に隠キャと思わせるのは無理だろう。
「鈴音……って中里な。鈴音と仲が良いのはまぁその通りなんだけどあいつとは友達なんだよ。いちいち付き合ってるだのなんだの言われるのが嫌でな。それに俺は目立たず静なか大学生活を送りたいんだよ。」
「もう無理だと思いますよ。伊庭さん、アタシって可愛いでしょ?」
「自分で言うなよ。まぁ否定はしないけど。」
「アタシが大学でなんて言われてると思います?」
「知らん。」
「小悪魔な女神ですよ。」
「どっちだよ!」
「ナイスツッコミ。」
「なんだよそれ。悪魔と女神って真逆だろ。」
「あははっ、ですよね。アタシじゃなくて周りが言いだしたんですよ。」
「そりゃそうだろうな。てかお前が女神の一人なのかよ。お前に関わって今日ここに来たのを後悔し始めてるよ。」
「もう遅いですよ。そんなアタシとこうして友達になっちゃいましたからね。アタシは大学でも普通に話しかけますから。隠キャな伊庭さんが二人の女神と仲が良いとなれば今までみたいな大人しい大学生活は無理だと思いますよ。」
神崎は二人だと思っているが俺はもう一人の女神とも接点が出来てしまっているのだ。
神崎の言うとおり静かな大学生活の終わりがもうそこまで来ているような気がしてなからなかった。




